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大学章句序

01 大學之書、古之大學、所以教人之法也。
大学(だいがく)の書(しょ)は、古(いにしえ)の大学(だいがく)、人(ひと)を教(おし)うる所以(ゆえん)の法(ほう)なり。
  • ウィキソース「四書章句集註/大學章句序」参照。
  • 大学之書 … 『大学』という書物。
  • 古之大学 … 昔の大学。上古の大学。「古」は、夏・殷・周の三代を指す。ウィキペディア【夏 (三代)】【殷】【周】参照。
  • 所以教人之法 … 人を教育する方針を述べたもの。
02 蓋自天降生民、則既莫不與之以仁義禮智之性矣。
蓋(けだ)し天(てん)の生民(せいみん)を降(くだ)してより、則(すなわ)ち既(すで)に之(これ)に与(あた)うるに仁(じん)義(ぎ)礼(れい)智(ち)の性(せい)を以(もっ)てせざる莫(な)し。
  • 蓋 … 「けだし」と読み、「思うに」と訳す。
  • 自天降生民 … 人間がこの世に存在してから。
  • 生民 … 人民。
  • 与之以仁義礼智之性 … 人間には生まれながらにして仁義礼智といった本性が与えられていた。「仁」は慈愛、「義」は正義、「礼」は礼儀、「智」は智恵を指す。いわゆる「本然(ほんねん)之(の)性(せい)(先天的・道徳的な性質)」を指す。
然其氣質之稟、或不能齊。
然(しか)れども其(そ)の気(き)質(しつ)の稟(ひん)、或(ある)いは斉(ひと)しき能(あた)わず。
  • 然 … 「しかれども」と読み、「けれども」と訳す。逆接の意を示す接続詞。
  • 気質之稟 … 後天的に気から受けた、精神的・肉体的な性質。いわゆる「気(き)質(しつ)之(の)性(せい)」のこと。「稟」は、受ける。
  • 不能斉 … その「気質之性」の受け方は、皆平等というわけではない。
是以不能皆有以知其性之所有、而全之也。
是(ここ)を以(もっ)て皆(みな)以(もっ)て其(そ)の性(せい)の有(ゆう)する所(ところ)を知(し)りて、之(これ)を全(まった)くすること有(あ)る能(あた)わざるなり。
  • 是以 … 「ここをもって」と読み、「こういうわけで」「このゆえに」「それゆえに」「だから」と訳す。「以是」は「これをもって」と読み、「この点から」「これにより」「これを用いて」と訳す。
  • 其性之所有 … 自分の本性として持っているもの。「性」は「気質之性」に対しての「本然之性」、すなわち仁義礼智を指す。
  • 不能皆有 … 誰もが皆~できない。
  • 全之 … これを完全に実現すること。
一有聰明睿智、能盡其性者、出於其閒、則天必命之、以爲億兆之君師、使之治而教之、以復其性。
一(ひと)たび聡明(そうめい)睿(えい)智(ち)にして、能(よ)く其(そ)の性(せい)を尽(つ)くす者(もの)の、其(そ)の間(かん)に出(い)づる有(あ)れば、則(すなわ)ち天(てん)は必(かなら)ず之(これ)に命(めい)じて、以(もっ)て億(おく)兆(ちょう)の君(くん)師(し)と為(な)し、之(これ)をして治(おさ)めて之(これ)を教(おし)え、以(もっ)て其(そ)の性(せい)に復(かえ)らしむ。
  • 聡明睿智 … 「聡」は耳さとく、「明」は観察が鋭く、「睿」は考えが深く、「智」は物事を正しく判断する。
  • 睿 … 「叡」と同義。
  • 能尽其性 … 自分の本性を十分に発揮する。すなわち、仁義礼智の四徳を十分に発揮すること。
  • 出於其間 … そうした状況の中に現れれば。
  • 天必命之 … 天は必ずこの人に命じて。
  • 億兆 … 天下万民。
  • 君師 … 天子のこと。「君師」は、民を治める君と、民を教え導く師の意。
  • 使之治而教之 … 万民を統治して教化する。
  • 以復其性 … 自分の本性に復帰するようにさせる。
03 此伏羲・神農・黄帝・堯・舜所以繼天立極、而司徒之職、典樂之官所由設也。
此(こ)れ伏(ふく)羲(ぎ)・神農(しんのう)・黄帝(こうてい)・堯(ぎょう)・舜(しゅん)の天(てん)を継(つ)ぎて極(きょく)を立(た)つる所以(ゆえん)にして、司徒(しと)の職(しょく)、典楽(てんがく)の官(かん)の由(よ)りて設(もう)くる所(ところ)なり。
  • 伏羲 … 伝説上の太古の聖王。三皇の一人。「ふっき」とも読む。「伏戯」などとも書く。ウィキペディア【伏羲】参照。
  • 神農 … 伝説上の太古の帝王。三皇の一人。ウィキペディア【神農】参照。
  • 黄帝 … 古代の伝説上の帝王。五帝の一人。名は軒轅(けんえん)。ウィキペディア【黄帝】参照。
  • 堯 … 古代の伝説上の聖天子。名は放勲。舜を後継者として皇帝の位を譲った。ウィキペディア【堯】参照。
  • 舜 … 古代の伝説上の聖天子。姓は姚(よう)。虞に国を建てたので虞舜、または有虞氏と呼ばれる。堯から譲位を受け皇帝となった。ウィキペディア【舜】参照。
  • 継天 … 天の道を受け継ぐ。
  • 立極 … 道徳上の規準を定める。「極」は、中正の意。
  • 司徒之職、典樂之官所由設也 … 司徒や典楽の官職を設置して万民を教育したわけである。
  • 司徒 … 周代の官名。教育などを司った。六卿(りくけい)の一つ。ウィキペディア【司徒】参照。
  • 典楽 … 舜のときの官名。音楽を司った。
04 三代之隆、其法寖備。
三代(さんだい)の隆(さか)んなるや、其(そ)の法(ほう)寖(ようや)く備(そな)わる。
  • 三代 … 夏・殷・周の三代を指す。ウィキペディア【夏 (三代)】【殷】【周】参照。
  • 隆 … 世が栄えている時。盛時。
  • 其法 … 教化の制度。教育制度。
  • 寖 … 「ようやく」と読み、「いよいよ」「じわじわと」「しだいに」と訳す。「浸」と同義。
  • 備 … 完備された。整備された。
然後王宮、國都、以及閭巷、莫不有學。
然(しか)る後(のち)王(おう)宮(きゅう)・国(こく)都(と)より以(もっ)て閭巷(りょこう)に及(およ)ぶまで、学(がく)有(あ)らざるは莫(な)し。
  • 然後 … 「しかるのち」と読み、「そうしてはじめて」と訳す。
  • 王宮 … 天子の都。
  • 国都 … 諸侯の都。
  • 閭巷 … 村里。
  • 莫不有学 … 学校を設けない所はない。どこにでも学校を設けた。「学」は学校。
  • 莫不 … 「~ざるはなし」と読み、「~しないものはない」と訳す。二重否定。「無不」に同じ。
人生八歳、則自王公以下、至於庶人之子弟、皆入小學。
人(ひと)生(うま)れて八歳(はっさい)なれば、則(すなわ)ち王公(おうこう)より以下(いか)、庶人(しょじん)の子(し)弟(てい)に至(いた)るまで、皆(みな)小(しょう)学(がく)に入(い)る。
  • 人生八歳 … 人が生まれて八歳になると。
  • 王公 … 天子と三公(周代では、太(たい)師(し)・太(たい)傅(ふ)・太(たい)保(ほ))の子弟。「三公」については、ウィキペディア【三公】参照。
  • 庶人 … 庶民。
  • 皆入小学 … すべて小学に入学した。
而教之以灑掃・應對・進退之節、禮・樂・射・御・書・數之文。
而(しか)して之(これ)に教(おし)うるに灑掃(さいそう)・応対(おうたい)・進退(しんたい)の節(せつ)、礼(れい)・楽(がく)・射(しゃ)・御(ぎょ)・書(しょ)・数(すう)の文(ぶん)を以(もっ)てす。
  • 灑掃 … 拭き掃除。
  • 応対 … 人との受け答え。年長者に対する受け答え。
  • 進退之節 … 立ち居振舞(ふるまい)の折り目。
  • 礼・楽・射・御・書・数 … 六つの技芸。六芸(りくげい)。
  • 礼 … 礼儀作法。
  • 楽 … 音楽。
  • 射 … 弓を射ること。
  • 御 … 馬車を御すること。
  • 書 … 読み書き。
  • 数 … 算術。
  • 文 … 学科。
05 及其十有五年、則自天子之元子・衆子、以至公・卿・大夫・元士之適子、與凡民之俊秀、皆入大學。
其(そ)の十(じゅう)有(ゆう)五(ご)年(ねん)に及(およ)べば、則(すなわ)ち天(てん)子(し)の元(げん)子(し)・衆(しゅう)子(し)より、以(もっ)て公(こう)・卿(けい)・大(たい)夫(ふ)・元(げん)士(し)の適(てき)子(し)と凡民(ぼんみん)の俊秀(しゅんしゅう)とに至(いた)るまで、皆(みな)大学(だいがく)に入(い)る。
  • 及其十有五年 … 子弟が十五歳に達すると。
  • 有 … 「ゆう」と読み、「加えて」「プラスして」と訳す。追加の意を示す。「又」と同義。
  • 元子 … 天子の嫡子。皇太子。「元」は元首、天子の意。
  • 衆子 … 親王その他の諸皇子。
  • 公 … 三公。天子に仕える最高位の三つの官職名。周代では、太(たい)師(し)・太(たい)傅(ふ)・太(たい)保(ほ)。ウィキペディア【三公】参照。
  • 卿 … 九(きゅう)卿(けい)。三公に次ぐ九種の官職名。周代では、少師・少(しょう)傅(ふ)・少保・冢(ちょう)宰(さい)・司徒・司空・司馬・司(し)寇(こう)・宗伯のこと。ウィキペディア【九卿】参照。
  • 大夫 … 周代の官職名。卿の下、士の上の位。
  • 元士 … 天子に仕える上士。諸侯に仕える士と区別してこう呼ぶ。
  • 適子 … 正妻が生んだ男子。嫡子。嫡男。
  • 凡民 … 一般人民。平民。
  • 俊秀 … 優秀な人物。秀才。
  • 皆入大学 … すべて大学に入学させた。
而教之以窮理正心、脩己治人之道。
而(しか)して之(これ)に教(おし)うるに理(り)を窮(きわ)めて心(こころ)を正(ただ)し、己(おのれ)を修(おさ)め人(ひと)を治(おさ)むるの道(みち)を以(もっ)てす。
  • 窮理 … 物事の道理を窮めること。
  • 正心 … 心を正しくすること。
  • 修己 … 自分の心身を修め、正しい行いをすること。自己を修養すること。修身。
  • 治人 … 人民を治めること。
此又學校之教、大小之節所以分也。
此(こ)れ又(また)学校(がっこう)の教(おし)え、大小(だいしょう)の節(せつ)の分(わか)るる所以(ゆえん)なり。
  • 学校之教 … 学校教育。
  • 大小之節 … 大学と小学との区別。
06 夫以學校之設、其廣如此、教之之術、其次第・節目之詳又如此、而其所以爲教、則又皆本之人君躬行心得之餘、不待求之民生日用彝倫之外。
夫(そ)れ学校(がっこう)の設(もう)け、其(そ)の広(ひろ)きこと此(かく)の如(ごと)く、之(これ)を教(おし)うるの術(じゅつ)、其(そ)の次(し)第(だい)・節目(せつもく)の詳(つまびら)かなること又(また)此(かく)の如(ごと)きを以(もっ)てして、而(しか)して其(そ)の教(おし)えを為(な)す所以(ゆえん)は、則(すなわ)ち又(また)皆(みな)之(これ)を人君(じんくん)の躬(きゅう)行(こう)して心得(しんとく)せるの余(よ)に本(もと)づけて、之(これ)を民生(みんせい)日用(にちよう)の彝(い)倫(りん)の外(そと)に求(もと)むるを待(ま)たず。
  • 夫 … 「それ」と読み、「さて」「ところで」「そもそも」と訳す。文頭におかれる。
  • 設 … 設備。
  • 教之之術 … 教育の技術。教育する方法。
  • 次第 … 順序。
  • 節目 … 科目。
  • 人君 … 天子のこと。
  • 躬行 … 自分で実際に実行する。実践する。
  • 心得之余 … 完全に理解し、自分のものとした会得した結果、外にあふれ出たもの。
  • 民生 … 一般の人々の生活。
  • 日用 … 日常用いる。
  • 彝倫 … 人として常に守るべき道。「彝」は、常の意。
是以當世之人、無不學、其學焉者、無不有以知其性分之所固有、職分之所當爲、而各俛焉以盡其力。
是(ここ)を以(もっ)て当世(とうせい)の人(ひと)、学(まな)ばざるは無(な)く、其(そ)の学(まな)ぶ者(もの)は、以(もっ)て其(そ)の性分(せいぶん)の固(こ)有(ゆう)する所(ところ)、職(しょく)分(ぶん)の当(まさ)に為(な)すべき所(ところ)を知(し)りて、各〻(おのおの)俛焉(べんえん)として以(もっ)て其(そ)の力(ちから)を尽(つ)くすこと有(あ)らざるは無(な)し。
  • 是以 … 「ここをもって」と読み、「こういうわけで」「このゆえに」「それゆえに」「だから」と訳す。
  • 当世 … 通常は「今の時代」「今の世の中」の意であるが、ここでは「当時」の意。夏・殷・周の三代の世を指す。
  • 性分之所固有 … 自分の本性としてもともと備わっている仁義礼智の徳。「性分」は、生まれつき持っている性質。
  • 職分之所当為 … 自分の務めとしてなすべきこと。「職分」は、職務上の本分。
  • 俛焉 … 勉め励むこと。「俛」は「勉」に同じ。「焉」は助字。
此古昔盛時、所以治隆於上、俗美於下、而非後世之所能及也。
此(こ)れ古(こ)昔(せき)の盛(せい)時(じ)の、治(ち)は上(かみ)に隆(さか)んに、俗(ぞく)は下(しも)に美(び)にして、後世(こうせい)の能(よ)く及(およ)ぶ所(ところ)に非(あら)ざる所以(ゆえん)なり。
  • 古昔 … 遠い昔。往古。
  • 盛時 … 栄えて勢力が盛んな時。
  • 治隆於上 … 朝廷の行う政治が優れている。
  • 俗美於下 … 民衆の風俗が麗(うるわ)しい。
  • 後世 … 後(のち)の世。後の時代。
07 及周之衰、賢聖之君不作、學校之政不脩、教化陵夷、風俗頽敗。
周(しゅう)の衰(おとろ)うるに及(およ)んで、賢聖(けんせい)の君(きみ)作(おこ)らず、学校(がっこう)の政(せい)修(おさ)まらず、教(きょう)化(か)陵(りょう)夷(い)し風俗(ふうぞく)頽敗(たいはい)す。
  • 及周之衰 … 周王朝が衰退期に入ると。
  • 賢聖之君 … 人格・才能がともに優れた天子。
  • 不作 … 出現しない。
  • 学校之政不修 … 学校の政務が等閑(なおざり)になった。
  • 陵夷 … 次第に衰える。「陵」は、大きい丘の意。「夷」は、平らなこと。高いものが次第に低くなること。
  • 頽敗 … 傾き崩れる。
時則有若孔子之聖、而不得君師之位、以行其政教。
時(とき)に則(すなわ)ち孔(こう)子(し)の聖(せい)の若(ごと)き有(あ)れども、君(くん)師(し)の位(くらい)を得(え)て、以(もっ)て其(そ)の政(せい)教(きょう)を行(おこな)わず。
  • 若孔子之聖 … 孔子のような聖人が出たけれども。
  • 君師 … 天子のこと。「君師」は、民を治める君と、民を教え導く師の意。
  • 政教 … 政治と教育。
於是獨取先王之法、誦而傳之、以詔後世。
是(ここ)に於(お)いて独(ひと)り先王(せんおう)の法(ほう)を取(と)り、誦(しょう)して之(これ)を伝(つた)え、以(もっ)て後世(こうせい)に詔(つ)ぐ。
  • 於是 … 「ここにおいて」と読み、「そこで」と訳す。ちなみに「是以」は「ここをもって」と読み、「こういうわけで」と訳す。「以是」は「これをもって」と読み、「この点から」と訳す。
  • 先王 … 昔の聖天子。古代の聖王。
  • 誦 … 口頭で説明する。
  • 詔 … 告げる。
若曲禮、少儀、内則、弟子職諸篇、固小學之支流餘裔。
曲(きょく)礼(らい)・少(しょう)儀(ぎ)・内則(だいそく)・弟(てい)子(し)職(しょく)の諸篇(しょへん)の若(ごと)きは、固(もと)より小(しょう)学(がく)の支(し)流(りゅう)余(よ)裔(えい)なり。
  • 曲礼・少儀・内則 … 『礼記』の中の篇名。ウィキペディア【礼記】参照。
  • 弟子職 … 『管子』の中の篇名。ウィキペディア【管子】参照。
  • 固 … もともと。
  • 小学 … 昔の小学校。昔の小学教育。
  • 支流 … 大もとから分かれた系統。
  • 余裔 … 末流。
而此篇者、則因小學之成功、以著大學之明法、外有以極其規模之大、而内有以盡其節目之詳者也。
而(しか)して此(こ)の篇(へん)は、則(すなわ)ち小(しょう)学(がく)の成功(せいこう)に因(よ)り、以(もっ)て大学(だいがく)の明法(めいほう)を著(あらわ)し、外(そと)は以(もっ)て其(そ)の規模(きぼ)の大(だい)を極(きわ)むる有(あ)り、内(うち)は以(もっ)て其(そ)の節目(せつもく)の詳(しょう)を尽(つ)くす有(あ)る者(もの)なり。
  • 此篇 … この『大学』の一篇。
  • 小学之成功 … 小学教育の成果。「成功」は、成果。成就。完成。
  • 著大学之明法 … 大学教育のはっきりした規範を明らかにする。
  • 極其規模之大 … その規模は壮大を極める。「規模」は、物事の構造やしくみの大きさ。
  • 尽其節目之詳 … その内容は詳細を極めている。「節目」は、細目。
08 三千之徒、蓋莫不聞其説。
三千(さんぜん)の徒(と)、蓋(けだ)し其(そ)の説(せつ)を聞(き)かざるは莫(な)し。
  • 三千之徒 … 孔子のすべての弟子たち。「三千」は、数の非常に多いことの喩え。『史記』孔子世家第十七に「弟(てい)子(し)蓋(けだ)し三千(さんぜん)、身(み)、六芸(りくげい)に通(つう)ずる者(もの)、七(しち)十(じゅう)有(ゆう)二(に)人(にん)あり」(弟子蓋三千焉、身通六藝者七十有二人)とある。
  • 蓋 … 「けだし」と読み、「思うに」と訳す。
  • 莫不聞其説 … 誰もが孔子から大学の説明を聞いたに違いない。
而曾氏之傳、獨得其宗。
而(しか)して曾(そう)氏(し)の伝(でん)、独(ひと)り其(そ)の宗(そう)を得(え)たり。
  • 曾氏 … 曾子の門流。曾子の学派。ちなみに「曽」は「曾」の異体字で簡易慣用字体。「曾子」は、孔子の弟子で、姓は曾(そう)、名は参(しん)、字(あざな)は子輿(しよ)。ウィキペディア【曾子】参照。
  • 伝 … 伝承。
  • 宗 … 宗(そう)旨(し)。本旨。
於是作爲傳義、以發其意。
是(ここ)に於(お)いて伝(でん)義(ぎ)を作(さく)為(い)し、以(もっ)て其(そ)の意(い)を発(はっ)す。
  • 於是 … 「ここにおいて」と読み、「そこで」と訳す。
  • 伝義 … 経典の解説・注釈。「伝」は、伝述の意。
  • 作為 … 作る。
  • 発 … 明らかにする。
及孟子沒、而其傳泯焉。
孟(もう)子(し)没(ぼっ)するに及(およ)んで、其(そ)の伝(でん)泯(ほろ)ぶ。
  • 孟子 … 前372~前289。戦国時代の思想家。魯の鄒(すう)(今の山東省鄒城市)の人。名は軻(か)、字(あざな)は子輿(しよ)。孔子の孫である子思(前483?~前402?)の門人の下で学んだ。亜(あ)聖(せい)(聖人につぐ賢人)と称される。ウィキペディア【孟子】参照。
  • 其伝泯 … 伝承が途絶えた。
則其書雖存、而知者鮮矣。
則(すなわ)ち其(そ)の書(しょ)は存(そん)すと雖(いえど)も、知(し)る者(もの)は鮮(すく)なし。
  • 存 … 残る。
  • 知者 … 重要性を知っている者。
  • 鮮 … 少ない。滅多にない。
09 自是以來、俗儒記誦詞章之習、其功倍於小學而無用、異端虚無寂滅之教、其高過於大學而無實。
是(これ)より以(い)来(らい)、俗儒(ぞくじゅ)の記(き)誦(しょう)詞(し)章(しょう)の習(なら)いは、其(そ)の功(こう)小(しょう)学(がく)に倍(ばい)すれども用(よう)無(な)く、異(い)端(たん)の虚(きょ)無(む)寂(じゃく)滅(めつ)の教(おし)えは、其(そ)の高(たか)きこと大学(だいがく)に過(す)ぐるも実(じつ)無(な)し。
  • 俗儒 … 世俗の儒者。
  • 記誦 … いたずらに記憶暗誦すること。
  • 詞章 … 修辞の巧みな詩文を作ること。
  • 其功倍於小学而無用 … その労力は小学教育より数倍かかるが、実際は何の役にも立たない。
  • 異端 … 儒教の教えに背くもの。
  • 虚無 … 道家の教え。老荘思想。
  • 寂滅 … 仏教の教え。
  • 其高過於大学而無実 … 大学教育よりはるかに高邁であるが、実際の内容がない。
其他權謀術數、一切以就功名之説、與夫百家衆技之流、所以惑世誣民、充塞仁義者、又紛然雜出乎其閒、使其君子不幸而不得聞大道之要、其小人不幸而不得蒙至治之澤。
其(そ)の他(た)権謀(けんぼう)術(じゅっ)数(すう)、一切(いっさい)以(もっ)て功(こう)名(みょう)を就(な)すの説(せつ)と、夫(か)の百(ひゃっ)家(か)衆(しゅう)技(ぎ)の流(なが)れ、世(よ)を惑(まど)わし民(たみ)を誣(し)いて、仁(じん)義(ぎ)を充(じゅう)塞(そく)する所以(ゆえん)の者(もの)と、又(また)紛然(ふんぜん)として其(そ)の間(かん)に雑(ざっ)出(しゅつ)し、其(そ)の君(くん)子(し)をして不(ふ)幸(こう)にして大道(だいどう)の要(よう)を聞(き)くことを得(え)ず、其(そ)の小(しょう)人(じん)をして不(ふ)幸(こう)にして至治(しち)の沢(たく)を蒙(こうむ)ることを得(え)ざらしむ。
  • 権謀術数 … 巧みに人をあざむく策略。数々の計略。
  • 就功名之説 … 世俗的な成功を求める学説。
  • 百家 … 諸子百家。
  • 衆技 … さまざまな末梢的な技芸を説くもの。
  • 誣 … 事実を曲げて言うこと。
  • 仁義 … 仁義の教え。「仁」は慈愛、「義」は正義。
  • 充塞 … 満たしてふさぐこと。
  • 紛然 … 入り交じって乱れているさま。
  • 雜出 … 入り交じって現れること。
  • 要 … 要点。
  • 至治 … 世の中が非常によく治まること。
  • 沢 … 恩沢。恩恵。
晦盲否塞、反覆沈痼、以及五季之衰、而壞亂極矣。
晦盲(かいもう)否(ひ)塞(そく)、反覆(はんぷく)沈(ちん)痼(こ)、以(もっ)て五季(ごき)の衰(すい)に及(およ)んで壊乱(かいらん)極(きわ)まる。
  • 晦盲 … 世の中が乱れて暗いこと。
  • 否塞 … 閉じふさがること。物事が滞って進まないこと。
  • 反覆 … 上下がひっくり返ること。
  • 沈痼 … 救いようのない不治の病。悪い風潮が長く続いていることを指す。
  • 五季 … 五代(梁・唐・晋・漢・周)の乱れた世を指す。「季」は末世のこと。
  • 衰 … 衰亡。国家が衰えて滅びること。
  • 壊乱 … ばらばらに乱れること。
10 天運循環、無往不復。
天運(てんうん)の循環(じゅんかん)、往(ゆ)いて復(かえ)らざる無(な)し。
  • 天運循環 … 世の自然な移り変わり。「天運」は、天の運行。
  • 無往不復 … 行って元に復(かえ)らないものはない。
宋德隆盛、治教休明。
宋(そう)の徳(とく)は隆(りゅう)盛(せい)にして、治(ち)教(きょう)は休(きゅう)明(めい)なり。
  • 宋 … 宋王朝のこと。960~1279。ウィキペディア【宋 (王朝)】参照。
  • 治教 … 政治と教化。
  • 休明 … 美しく明らかなさま。立派で麗しいさま。「休」は、美・善・麗の意。
於是河南程氏兩夫子出、而有以接乎孟氏之傳、實始尊信此篇、而表章之。
是(ここ)に於(お)いて河(か)南(なん)の程(てい)氏(し)両(りょう)夫(ふう)子(し)出(い)で、以(もっ)て孟(もう)氏(し)の伝(でん)に接(せっ)する有(あ)り、実(じつ)に始(はじ)めて此(こ)の篇(へん)を尊信(そんしん)して、之(これ)を表章(ひょうしょう)す。
  • 於是 … 「ここにおいて」と読み、「そこで」と訳す。
  • 河南 … 周の都、洛陽の別名。ウィキペディア【洛陽市】参照。
  • 程氏両夫子 … 北宋の儒学者、程顥(ていこう)(1032~1085)と程(てい)頤(い)(1033~1107)の兄弟のこと。「二程子」と呼ばれる。河南洛陽の生まれ。程顥(ていこう)の号は明道、程(てい)頤(い)の号は伊川。ともに周(しゅう)敦(とん)頤(い)(1017~1073)に学び、その学問の系統は朱子に連なる。「夫子」は、賢者・先生などを呼ぶ尊称。ウィキペディア【程コウ】【程頤】参照。
  • 孟氏之伝 … 孟子の伝統。
  • 尊信 … 尊び信じること。尊重すること。
  • 表章 … 世の中に明らかにすること。
旣又爲之次其簡編、發其歸趣。
既(すで)にして又(また)之(これ)が為(ため)に其(そ)の簡編(かんぺん)を次(じ)し、其(そ)の帰(き)趣(しゅ)を発(はっ)す。
  • 次其簡編 … 編内の文章の順序を改める。
  • 簡編 … 書物。昔は竹簡や木簡を綴じ合わせて書物としたことから。
  • 帰趣 … 要旨。大旨。
  • 発 … 著す。明確にする。
然後古者大學教人之法、聖經賢傳之指、粲然復明於世。
然(しか)る後(のち)に古(いにしえ)の大学(だいがく)の人(ひと)を教(おし)うるの法(ほう)、聖経(せいけい)賢伝(けんでん)の指(し)、粲然(さんぜん)として復(ま)た世(よ)に明(あき)らかなり。
  • 然後 … 「しかるのち」と読み、「そうしてはじめて」と訳す。
  • 古者 … 「いにしえ」と読み、「昔」と訳す。「者」は「~は」と読む場合と、読みを省略して二字で「古者(いにしえ)」と読む場合とがある。
  • 聖経 … 聖人の作った経文(けいぶん)。『大学』の経一章を指す。
  • 賢伝 … 賢者が聖経を解説した伝文。『大学』の経に付した解釈。『大学』の伝十章を指す。
  • 指 … 主旨。「指」は「旨」に同じ。
  • 粲然 … 鮮やかに輝くさま。明らかなさま。
雖以熹之不敏、亦幸私淑、而與有聞焉。
熹(き)の不(ふ)敏(びん)を以(もっ)てすと雖(いえど)も、亦(ま)た幸(さいわ)いに私(し)淑(しゅく)して聞(き)く有(あ)るに与(あずか)る。
  • 熹 … 朱子の名。
  • 不敏 … 愚か。
  • 雖以 … 「雖」を強調した形。
  • 私淑 … 直接教えを受けたわけではないが、著作などを通じて傾倒して師と仰ぐこと。
  • 与有聞 … 聞くことができた。「与」は、参与する。教えを聞く仲間に加わることができた、の意。
11 顧其爲書、猶頗放失。
顧(おも)うに其(そ)の書(しょ)たる、猶(な)お頗(やや)放失(ほうしつ)すと。
  • 顧 … 思うに。
  • 頗 … 「やや」と読み、「いくらか」「少し」と訳す。一説に、「すこぶる」と読み、「かなり」と訳す。
  • 放失 … 元の形が失われる。
是以忘其固陋、采而輯之、閒亦竊附己意、補其闕略、以俟後之君子。
是(ここ)を以(もっ)て其(そ)の固(こ)陋(ろう)を忘(わす)れ、采(と)って之(これ)を輯(あつ)め、間〻(まま)亦(ま)た窃(ひそ)かに己(おの)が意(い)を附(ふ)し、其(そ)の闕(けつ)略(りゃく)を補(おぎな)い、以(もっ)て後(のち)の君(くん)子(し)を俟(ま)つ。
  • 是以 … 「ここをもって」と読み、「こういうわけで」「このゆえに」「それゆえに」「だから」と訳す。
  • 固陋 … 古いものに執着し、新しいものを受け入れようとしないさま。かたくなで見識が狭いこと。
  • 采而輯之 … いろんな材料を採り集める。「采」は「採」と同義。「輯」は、材料を集めて整理すること。
  • 間 … 「間〻(まま)」と読む。時々。時折。時には。
  • 窃 … 「ひそかに」と読む。ここでは「人知れず」「こっそりと」の意ではなく、「私個人としては」「自分勝手にいえば」と訳す。私見を述べる場合の謙譲の意を示す。
  • 闕略 … 欠落していること。欠きはぶいていること。欠略。ここでは「格物致知」の伝が欠けていることを指す。
  • 俟後之君子 … 後世の君子の批判を待つことにした。「俟」は「待」に同じ。
極知僭踰無所逃罪。
極(きわ)めて僭(せん)踰(ゆ)にして罪(つみ)を逃(のが)るる所(ところ)無(な)きを知(し)る。
  • 僭踰 … 身分を超えた振る舞いをすること。「僭越」に同じ。
  • 無所逃罪 … その罪を逃れられないことは、十分承知している。
然於國家化民成俗之意、學者脩己治人之方、則未必無小補云。
然(しか)れども国(こっ)家(か)の民(たみ)を化(か)して俗(ぞく)を成(な)すの意(い)と、学者(がくしゃ)の己(おのれ)を修(おさ)めて人(ひと)を治(おさ)むるの方(ほう)とに於(お)いては、則(すなわ)ち未(いま)だ必(かなら)ずしも小(しょう)補(ほ)無(な)くんばあらずと云(い)う。
  • 然 … 「しかれども」と読み、「しかし」「けれども」と訳す。逆接の意を示す接続詞。
  • 国家化民 … 朝廷が民衆を教化する。「国家」は、ここでは朝廷・天子・王の意。
  • 成俗 … 風俗を正す。美風を完成させる。
  • 意 … 意図。
  • 学者 … 学ぶ者。
  • 修己 … 自己を修養する。
  • 治人 … 人民を治める。
  • 方 … 方途。方策。てだて。
  • 未必無 … 「未だ必ずしも~無くんばあらず」と読み、「必ずしも~がないわけではない」「必ずしも~がないとはいえない」と訳す。二重否定。
  • 小補 … 多少の貢献。
  • 云 … 文章の末尾に用いる言葉。「云爾(しかいう)」に同じ。
淳煕己酉二月甲子、新安朱熹序。
淳(じゅん)煕(き)己(き)酉(ゆう)の二(に)月(がつ)の甲(こう)子(し)、新安(しんあん)の朱(しゅ)熹(き)序(じょ)す。
  • 淳煕己酉二月甲子 … 南宋孝宗の淳煕十六年(1189)二月四日。暦相互変換プログラム「When.exe Ruby版」参照。ちなみに朱子は年六十。「己酉」「甲子」については、ウィキペディア【干支】参照。
  • 新安 … 安徽省徽州婺(ぶ)源(げん)県(けん)(現在の江西省上饒(じょうじょう)市婺源県)の古名。朱子の本籍。ウィキペディア【ブ源県】参照。
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