大学 伝十章
伝十章
01 所謂平天下在治其國者、上老老而民興孝、上長長而民興弟、上恤孤而民不倍。
いわゆる天下を平らかにするはその国を治むるにありとは、上老を老として民孝に興り、上長を長として民弟に興り、上孤を恤みて民倍かず。
是以君子有絜矩之道也。
ここをもって君子は絜矩の道あるなり。
02 所惡於上、毋以使下。所惡於下、毋以事上。
上に悪むところ、もって下を使うなかれ。下に悪むところ、もって上に事うるなれ。
所惡於前、毋以先後。所惡於後、毋以從前。
前に悪むところ、もって後ろに先だつなかれ。後ろに悪むところ、もって前に従うなかれ。
所惡於右、毋以交於左。所惡於左、毋以交於右。
右に悪むところ、もって左に交わるなかれ。左に悪むところ、もって、右に交わるなかれ。
此之謂絜矩之道。
これをこれ絜矩の道という。
03 詩云、樂只君子、民之父母。民之所好好之、民之所惡惡之。此之謂民之父母。
詩に云く、「楽しき君子は民の父母」と。民の好むところはこれを好み、民の悪むところはこれを悪む。これをこれ民の父母という。
04 詩云、節彼南山、維石巖巖。赫赫師尹、民具爾瞻。有國者不可以不慎。辟則爲天下僇矣。
詩に云く、「節たる彼の南山、これ石巌々たり。赫々たる師尹、民ともに爾を瞻る」と。国を有つ者はもって慎まざるべからず。辟すればすなわち天下の僇となる。
05 詩云、殷之未喪師、克配上帝。儀監於殷、峻命不易。道得衆則得國、失衆則失國。
詩に云く、「殷のいまだ師を喪わざるとき、克く上帝に配す。儀しく殷に監みるべし、峻命易からず」と。衆を得ればすなわち国を得、衆を失えばすなわち国を失うを道う。
06 是故君子先慎乎徳。有徳此有人、有人此有土、有土此有財、有財此有用。
このゆえに君子はまず徳を慎む。徳あればここに人あり、人あればここに土あり、土あればここに財あり、財あればここに用あり。
07 徳者本也。財者末也。
徳は本なり。財は末なり。
08 外本内末、爭民施奪。
本を外にし末を内にすれば、民を争わしめて奪うことを施す。
09 是故財聚則民散。財散則民聚。
このゆえに財聚ればすなわち民散ず。財散ずればすなわち民聚る。
10 是故言悖而出者、亦悖而入、貨悖而入者、亦悖而出。
このゆえに言悖って出ずる者は、また悖って入る。貨悖って入る者は、また悖って出ず。
11 康誥曰、惟命不于常。道善則得之、不善則失之矣。
康誥に曰く、「これ命常に于てせず」と。善なればすなわちこれを得、不善なればすなわちこれを失うをいう。
12 楚書曰、楚國無以爲寶、惟善以爲寶。
楚書に曰く、「楚国はもって宝となすものなきも、ただ善もって宝となす」と。
13 舅犯曰、亡人無以爲寶、仁親以爲寶。
舅犯曰く、「亡人もって宝となすなきも、親を仁するをもって宝となす」と。
14 秦誓曰、若有一个臣、斷斷兮無他技、其心休休焉、其如有容焉。
秦誓に曰く、「もし一个の臣あり、断断として他技なく、その心休休焉として、それ容るることあるがごとし。
人之有技、若己有之、人之彦聖、其心好之。
人の技ある、己これあるがごとく、人の彦聖なる、その心これを好みす。
不啻若自其口出、寔能容之。
啻にその口より出ずるがごとくなるのみならず、寔によくこれを容る。
以能保我子孫黎民。尚亦有利哉。
もってよくわが子孫・黎民を保つ。尚わくはまた利あらんかな。
人之有技、媢疾以悪之、人之彦聖、而違之俾不通。
人の技ある、媢疾してもってこれを悪み、人の彦聖なる、これに違いて通ぜざら俾む。
寔不能容。以不能保我子孫黎民。亦曰殆哉。
寔に容るるあたわず。もってわが子孫・黎民を保つあたわず。また曰く殆いかな」と。
15 唯仁人放流之、逬諸四夷、不與同中國。
ただ仁人のみこれを放流し、諸を四夷に迸け、ともに中国を同じくせず。
此謂唯仁人為能愛人能悪人。
これを「ただ仁人のみよく人を愛しよく人を悪むことをなす」という。
16 見賢而不能舉、舉而不能先、命也。
賢を見て挙ぐることあたわず、挙げて先んずることあたわざるは、命るなり。
見不善而不能退、退而不能遠、過也。
不善を見て退くることあたわず、退けて遠ざくることあたわざるは、過ちなり。
17 好人之所惡、惡人之所好、是謂拂人之性。菑必逮夫身。
人の悪むところを好み、人の好むところを悪む、これを人の性に払るという。菑い必ずその身に逮ぶ。
18 是故君子有大道。必忠信以得之、驕泰以失之。
このゆえに君子に大道あり。必ず忠信もってこれを得、驕泰もってこれを失う。
19 生財有大道。生之者衆、食之者寡、為之者疾、用之者舒。則財恒足矣。
財を生ずるに大道あり。これを生ずる者衆くして、これを食う者寡なく、これを為る者疾くして、これを用うる者舒やかなれば、すなわち財恒に足る。
20 仁者以財發身、不仁者以身發財。
仁者は財をもって身を発し、不仁者は身をもって財を発す。
21 未有上好仁、而下不好義者也。
いまだ上仁を好みて、下義を好まざる者あらざるなり。
未有好義、其事不終者也。未有府庫財非其財者也。
いまだ義を好みて、その事終らざる者あらざるなり。いまだ府庫の財その財にあらざる者あらざるなり。
22 孟獻子曰、畜馬乘、不察於雞豚。伐冰之家、不畜牛羊。百乘之家、不畜聚斂之臣。與其有聚斂之臣、寧有盜臣。
孟献子曰く、「馬乗を畜うものは、鶏豚を察せず。伐氷の家は、牛羊を畜わず。百乗の家は、聚斂の臣を畜わず。その聚斂の臣あらんよりは、むしろ盗臣あれ」と。
此謂國不以利爲利、以義爲利也。
これを国、利をもって利となさずして、義をもって利となすという。
23 長國家而務財用者、必自小人矣。彼為善之。
国家に長として財用を務むる者は、必ず小人に自る。(彼これを善しとなす。)
- 彼為善之 … 朱子の注に「此句上下、疑有闕文誤字」とある。
小人之使爲國家、菑害並至。
小人をして国家を為めしむれば、菑害ならび至る。
雖有善者、亦無如之何矣。
善者ありといえども、またこれをいかんともするなし。
此謂國不以利爲利、以義爲利也。
これを国、利をもって利となさずして、義をもって利となすという。
右傳之十章。釋治國平天下。
右は伝の十章、国を治め天下を平らかにすることを釈す。
凡傳十章。前四章統論綱領指趣。後六章細論條目工夫。
およそ伝は十章にして、前の四章は綱領の指趣を統論す。後の六章は条目の工夫を細論す。
其第五章乃明善之要、第六章乃誠身之本。
その第五章はすなわち善を明らかにするの要、第六章はすなわち身を誠にするの本。
在初學尤爲當務之急。讀者不可以其近而忽之也。
初学にありてはもっともまさに務むべきの急となす。読者その近きをもってこれを忽せにすべからざるなり。