酬浩初上人欲登仙人山見貽(柳宗元)
酬浩初上人欲登仙人山見貽
浩初上人が仙人山に登らんと欲して貽らるるに酬ゆ
浩初上人が仙人山に登らんと欲して貽らるるに酬ゆ
- 〔テキスト〕 『唐詩選』巻七、『全唐詩』巻三百五十二、『増広註釈音弁唐柳先生集』巻四十二(『四部叢刊 初編集部』所収)、『唐柳河東集』巻四十二(『四部備要 集部』所収)、趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻十六(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)、『古今詩刪』巻二十二(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、64頁)、『唐詩品彙』巻五十二、『柳宗元集』巻四十二(中華書局、1979年)他
- 七言絶句。微・違・飛(平声庚韻)。
- ウィキソース「浩初上人見貽絕句欲登仙人山因以酬之」「增廣註釋音辯唐柳先生集 (四部叢刊本)/卷第四十二」参照。
- 詩題 … 『全唐詩』『四部備要本』『古今詩刪』『唐詩品彙』では「浩初上人、絶句を貽らる、仙人山に登らんと欲す。因って以て之に酬ゆ」(浩初上人見貽絶句欲登仙人山因以酬之)に作る。『四部叢刊本』では「浩初上人見貽絶句欲登仙人山因以詶之」に作る。「詶」は「酬」と同義。『万首唐人絶句』では「浩初上人見貶絶句欲登僊人山因以酬」に作る。「僊」は「仙」と同義。
- 浩初 … 作者の知人の僧。潭州(今の湖南省長沙市)の人。龍安寺(今の湖南省湘潭市の近くにあった寺)の周如海禅師(728~808)の弟子。浩初らが作者に師の行状を持って碑文の依頼をした。「龍安海禅師碑」に「其の弟子玄覚洎び懐直、浩初等、其の師の行いを状り、余に謁し碑を為る。曰く、師は、周姓。如海は、名なり」(其弟子玄覺洎懷直、浩初等、狀其師之行、謁余爲碑。曰、師、周姓。如海、名也)とある。ウィキソース「龍安海禪師碑」参照。また作者には、「浩初上人と同に山を看て、京華の親故に寄す」(與浩初上人同看山寄京華親故)という詩と、「僧浩初を送る序」(送僧浩初序)という文がある。ウィキソース「與浩初上人同看山寄京華親故」「送僧浩初序」参照。
- 上人 … 知識が豊かで人格のすぐれた僧の尊称。
- 仙人山 … 柳州武宣県(今の広西チワン族自治区来賓市武宣県)にある山。仙人の形をした岩があったという。『元和郡県図志』嶺南道、龔州の条に「仙人山は、県の東北三十里に在り」(仙人山、在縣東北三十里)とある。ウィキソース「元和郡縣圖志/卷37」参照。また『太平寰宇記』嶺南道、柳州、馬平県の条に「仙人山は州の西南に在り、山に石形有り、仙人の如し」(仙人山在州西南、山有石形、如仙人)とある。ウィキソース「太平寰宇記 (四庫全書本)/卷168」参照。
- 貽 … 贈る。
- 見 … 「る」「らる」と読み、「~される」と訳す。受身の意を示す。
- 酬 … お返しをする。ここでは浩初上人が誘いの詩を作って作者に贈ったのに対し、作者が答えたもの。
- この詩は、浩初上人から仙人山にいっしょに登ろうという誘いの詩をもらったのに対し、作者が病身のため辞退したいと返答したもの。晩年の柳州(広西チワン族自治区柳州市)での作。
- 柳宗元 … 773~819。中唐の文人・政治家。河東(山西省永済県)の人。字は子厚。貞元九年(793)、劉禹錫とともに進士に及第。校書郎、藍田県(陝西省)尉、監察御史裏行を歴任。政治改革に乗り出したが失脚。辺地に左遷され、柳州(広西チワン族自治区柳州市)で死去した。唐宋八大家のひとり。韓愈とともに古文復興につとめた。詩においては王維・孟浩然・韋応物らと同様、自然をうたった詩が優れている。ウィキペディア【柳宗元】参照。
珠樹玲瓏隔翠微
珠樹玲瓏として翠微を隔つ
- 珠樹 … 仙境に生えるという、玉のように美しい木。『淮南子』墬形訓に「禹乃ち息土を以て洪水を塡めて、以て名山と為し、崑崙の虚を掘りて、以て地に下す。中に増城の九重なる有り。……珠樹・玉樹・琁樹・不死樹、其の西に在り」(禹乃以息土塡洪水、以爲名山、掘崑崙虛、以下地。中有增城九重。……珠樹、玉樹、琁樹、不死樹、在其西)とある。ウィキソース「淮南子/墜形訓」参照。また『山海経』海外南経に「三珠樹、厭火の北に在り、赤水の上に生ず。其の樹たる柏の如く、葉は皆珠たり」(三珠樹在厭火北、生赤水上。其爲樹如柏、葉皆爲珠)とある。ウィキソース「山海經/海外南經」参照。
- 玲瓏 … 美しく澄みきっている様子。前漢の楊雄「甘泉の賦」(『文選』巻七)に「前殿崔巍として、和氏玲瓏たり」(前殿崔巍兮、和氏玲瓏)とある。崔巍は、高く険しいさま。和氏は、和氏の璧。美玉の代名詞。その晋灼の注に「玲瓏は、明見の貌なり」(玲瓏、明見貌也)とある。ウィキソース「昭明文選/卷7」参照。また南朝斉の謝朓「中書省に直す」(『文選』巻三十)に「玲瓏として綺銭を結び、深沈として朱網に映ず」(玲瓏結綺錢、深沈映朱網)とある。ウィキソース「昭明文選/卷30」参照。また張祜の「東山寺」に「半夜四山鐘磬尽き、水精の宮殿月玲瓏たり」(半夜四山鐘磬尽、水精宮殿月玲瓏)とある。ウィキソース「全唐詩/卷511」参照。
- 翠微 … 緑の木々の茂る山の中腹。ここでは山をおおう靄を指す。『爾雅』釈山篇に「未だ上に及ばざるを、翠微という」(未及上、翠微)とあり、その疏に「未だ頂上に及ばず、旁に在りて陂陀の処、名づけて翠微と謂う。一説に、山気青縹色なり。故に翠微と曰うなり」(謂未及頂上、在旁陂陀之處、名翠微。一說、山氣青縹色。故曰翠微也)とある。陂陀は、起伏があって平らでないさま。ウィキソース「爾雅註疏/卷07」参照。
- 隔 … 隔てる。ここでは仙人山が靄にかすむ山の向こうにあるということ。
病來方外事多違
病来 方外 事多く違う
仙山不屬分符客
仙山は符を分つ客に属せず
- 仙山 … 仙人山。
- 仙 … 『万首唐人絶句』では「僊」に作る。「仙」と同義。
- 分符客 … 朝廷から割符を授けられて来た地方官。刺史が任命されるとき、天子は割符を二分して、半分を刺史に与え、もう半分を朝廷に留め置き、証拠とした。客は、故郷を離れている人。作者自身を指す。『漢書』文帝紀に「九月、初めて郡守に与うるに銅虎符・竹使符を為る」(九月、初與郡守爲銅虎符、竹使符)とあり、師古の注に「郡守に与うるに符を為るとは、各〻其の半ばを分ち、右は京師に留め、左は以て之に与うることを謂う」(與郡守爲符者、謂各分其半、右留京師、左以與之)とある。『漢書評林』巻四(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
- 不属 … 縁が遠い存在である。
一任凌空錫杖飛
一任す 空を凌いで錫杖の飛ぶに
- 一任 … (浩初上人に)お任せします。
- 凌空 … 空中を推し切って行くこと。空を飛んで行くこと。
- 錫杖 … 僧侶や道士などが用いる杖。頭部に錫の輪がはめてある。昔、梁の僧宝誌と白鶴道人が舒州の潜山に住もうとした。道人は鶴が止まった所に住むことにした。宝誌の錫杖が空中高く飛んで行き、山の麓に立った。宝誌はその場所に住むことにしたという故事を踏まえる。『神僧伝』に「忽ち空中に錫の飛ぶ声を聞く。誌公の錫は遂に山麓に卓つ」(忽聞空中錫飛聲。誌公之錫遂卓於山麓)とある。CBETA 漢文大藏經「神僧傳卷第四」参照。
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