題延平剣潭(欧陽詹)
題延平劍潭
延平の剣潭に題す
延平の剣潭に題す
- 〔テキスト〕 『唐詩選』巻七、『全唐詩』巻三百四十九、『欧陽行周文集』巻三(『四部叢刊 初編集部』所収)、趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻二十二(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)、『古今詩刪』巻二十二(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、64頁)、『唐詩品彙』巻五十二、他
- 七言絶句。難・漫・寒(平声寒韻)。
- ウィキソース「題延平劍潭」参照。
- 詩題 … 延平は、今の福建省南平市延平区。剣潭は、閩江の上流にあった渡し場。延平津・剣津・剣渓とも呼ばれる。建渓・西渓(富屯渓)・沙渓が合流する辺りに位置する。昔、晋の雷煥は、張華と協力して地中から名剣二ふりを掘り出し、一つを張華に与え、もう一つを自分で所持した。後に張華が殺され、剣は所在不明となった。その後、雷煥も死んでその子がその剣を帯び、この渡し場を渡ったところ、剣が自然に抜け出て川に落ちた。川の中には剣は見当たらず、二匹の竜が泳いでいたという。『晋書』張華伝に「煥、県に到り、獄屋の基を掘り、地に入ること四丈余、一石の函を得たり。光気非常にして、中に双剣有り。並びに題を刻む。一を龍泉と曰い、一を太阿と曰う。……使いを遣わして一剣並びに土を送りて華に与え、一を留めて自ら佩ぶ。……華誅せられ、剣の所在を失う。煥卒し、子の華、州の従事と為る。剣を持じて行き、延平津を経しとき、剣忽ち腰間より躍り出でて水に堕つ。人をして水に没りて之を取らしむるも、剣を見ず。但だ両竜の各〻長さ数丈なるを見る。蟠縈し文章有り、没りし者懼れて反る。須臾にして光彩水を照らし、波浪驚沸す。是に於いて剣を失う」(煥到縣、掘獄屋基、入地四丈餘、得一石凾。光氣非常、中有雙劍。竝刻題。一曰竜泉、一曰太阿。……遣使送一劍竝土與華、留一自佩。……華誅、失劍所在。煥卒、子華爲州從事。持劍行經延平津、劍忽於腰閒躍出墮水。使人沒水取之、不見劍。但見兩龍各長數丈。蟠縈有文章、沒者懼而反。須臾光彩照水、波浪驚沸。於是失劍)とある。ウィキソース「晉書/卷036」参照。
- この詩は、作者が都へ上る途中、延平(今の福建省南平市延平区)の剣潭まで来て、ここの渡し場を渡ったとき、この地にまつわる宝剣の伝説を思い出し、当時を偲んで詠んだもの。
- 欧陽詹 … 755?~800。中唐の詩人。欧陽が姓。名は詹。泉州晋江(福建省晋江市)の人。字は行周。貞元八年(792)、韓愈らとともに進士に及第。貞元十五年(799)、国子監四門助教に任ぜられた。韓愈を推挙して四門博士にした。貞元十六年(800)、長安にて客死。韓愈は彼のために「欧陽生哀辞」と「哀辞の後に題す」という二文を書いている。ウィキソース「全唐文/卷0567」参照。『欧陽行周文集』十巻が『四部叢刊 初編』に収録されている。ウィキペディア【欧陽詹】参照。
想像精靈欲見難
精霊を想像して 見んと欲すれども難し
- 精霊 … 精妙なる霊気。ここでは竜に化した宝剣の霊気。江淹の「清思詩五首 其の五」(『古詩紀』巻八十六)に「草木根蔕に還り、精霊妙理に帰す」(草木還根蔕、精靈歸妙理)とある。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷086」参照。
- 想像 …心に思い浮かべること。『楚辞』の「遠遊」に「旧故を思いて以て想像し、長太息して涕を掩う」(思舊故以想像兮、長太息而掩涕)とある。ウィキソース「楚辭/遠遊」参照。
- 像 … 『全唐詩』『四部叢刊本』『万首唐人絶句』では「象」に作る。
- 欲見難 … 見たいと思ってもできそうにない。
通津一去水漫漫
通津 一たび去って水漫漫たり
- 通津 … 渡し場。通は、四通八達。四方八方に通じていること。津は、船着き場。渡し場。ここでは剣潭を指す。謝瞻の「王撫軍、庾西陽との集いにて別る。時に予章太守と為る。庾は徴されて東に還る」(『文選』巻二十)に「頹陽は通津を照らし、夕陰は平陸に曖し」(頹陽照通津、夕陰曖平陸)とある。ウィキソース「王撫軍庾西陽集別時為豫章太守庾被徵還東」参照。
- 一去 … ここでは宝剣が水中に沈み去ったということ。
- 水漫漫 … 川の水が広々と果てしなく流れるさま。沈約の「早に定山を発す」(『文選』巻二十七)に「海に帰して流れは漫漫たり、浦より出でて水は浅浅たり」(歸海流漫漫、出浦水淺淺)とある。ウィキソース「昭明文選/卷27」参照。
空餘千載凌霜色
空しく余す 千載 霜を凌ぐ色
- 空余 … ただ空しく残っているのは。ここでは宝剣が人に使われることもなくの意。
- 千載 … 千年の後までも。『全唐詩』『四部叢刊本』『万首唐人絶句』では「昔日」に作る。
- 凌霜色 … 霜にも勝る冴えて凛然とした刃の色。宝剣の刃の形容。謝恵連の「甘賦」に「性耿介として霜を凌ぐ」(性耿介而凌霜)とある。ウィキソース「漢魏六朝百三家集 (四庫全書本)/卷071」参照。
長與澄潭白日寒
長しえに澄潭と与に白日寒し
- 長 … 永遠に。いつまでも。
- 澄潭 … 清く澄み切った潭。
- 白日寒 … 白昼の日に照り映えて寒々としている。
- 白日 … 『全唐詩』では「生晝」に作り、「一作白日」とある。『四部叢刊本』『万首唐人絶句』では「生晝」に作る。こちらは「昼寒を生ず」(生晝寒)と読む。
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