自朗州至京戯贈看花諸君(劉禹錫)
自朗州至京戲贈看花諸君
朗州より京に至り、戯れに花を看る諸君に贈る
朗州より京に至り、戯れに花を看る諸君に贈る
- 〔テキスト〕 『唐詩選』巻七、『全唐詩』巻三百六十五、『劉夢得文集』巻四(『四部叢刊 初編集部』所収)、『劉賓客集』巻二十四(『四部備要 集部』所収)、趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻十七(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)、『古今詩刪』巻二十二(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、63頁)、『唐詩品彙』巻五十一、『才調集』巻五、『唐詩紀事』巻三十九、他
- 七言絶句。來・囘・栽(平声灰韻)。
- ウィキソース「元和十一年自朗州召至京,戲贈看花諸君子」「劉夢得文集 (四部叢刊本)/卷第四」参照。
- 詩題 … 『全唐詩』では「元和十一年自朗州召至京戲贈看花諸君子」に作る。『四部備要本』では「元和十一年自朗州承召至京戲贈看花諸君子」に作る。元和十一年(816)は誤り。正しくは元和十年(815)。『四部叢刊本』では「元和十年自朗州承召至京戲贈看花諸君子」に作る。『唐詩紀事』では「元和十年自朗州召至京戯贈看花君子」に作る。『万首唐人絶句』『唐詩品彙』『才調集』では「自朗州至京戲贈看花諸君子」に作る。
- 朗州 … 今の湖南省常徳市。『読史方輿紀要』歴代州域形勢、唐上、朗州の条に「朗州は、漢は武陵郡と曰い、隋は朗州と曰い、唐は之に因り、亦た武陵郡と曰い、武陵等の県二つを領す。今は常徳府なり」(朗州、漢曰武陵郡、隋曰朗州、唐因之、亦曰武陵郡、領武陵等縣二。今常德府)とある。ウィキソース「讀史方輿紀要/卷五」参照。ウィキペディア【朗州】参照。
- 自 … 「より」と読み、「~から」と訳す。時間・場所などの起点を示す。
- 京 … 京師。都。長安を指す。
- 至 … 行き着く。帰り着く。
- 戯 … たわむれて。ふざけて。遊びで。
- 看花諸君 … 花見をしている人たちに。
- 諸君 … 同輩以下の多数の人を指す語。人々。人たち。連中。
- 贈 … 詩を直接手渡すこと。「寄」は、詩を人に託して送り届けること。
- この詩は、永貞元年(805)、王叔文の党に連座して朗州(湖南省常徳市)に流されていた作者が、元和十年(815)、都に召還されたとき、玄都観という道観(道教の寺院)の桃の木について詠んだもの。しかし、この詩が今の出世した権力者たちを桃の花に喩えて風刺したものだと言いふらす者が出て、作者はまた連州(広東省連州市)刺史に左遷されることになったという。孟棨の『本事詩』事感第二に「劉尚書、屯田員外より郎州司馬に左遷せらる。凡そ十年にして始めて徴し還さる。春に方りて、花を看る諸君子に贈る詩を作りて曰く、……其の詩一たび出でて都下に伝わる。素より其の名を嫉む者有り、執政に白し、又其の怨憤有るを誣う。他日、時宰に見え与に坐す。慰問すること甚だ厚し。既に辞す。即ち曰く、近者の新詩、未だ累を為すを免れず、奈何と。数日ならずして出でて連州刺史たり」(劉尚書自屯田員外左遷郎州司馬。凡十年始徴還。方春、作贈看花諸君子詩曰、……其詩一出傳於都下。有素嫉其名者、白於執政、又誣其有怨憤。他日見時宰與坐。慰問甚厚。旣辭。卽曰、近者新詩、未免爲累、奈何。不數日出爲連州刺史)とある。ウィキソース「本事詩/2」参照。
- 劉禹錫 … 772~842。中唐の詩人。字は夢得。中山(河北省)の人。貞元九年(793)、柳宗元とともに進士に及第。永貞元年(805)、王叔文らの政治改革に加わり、朗州(湖南省常徳市)に左遷された。太和二年(828)に長安に復帰。その後も都と地方の諸官を歴任。開成元年(836)、太子賓客となった。柳宗元とは無二の親友。晩年は白居易とも親交があり、白居易は彼を「詩豪」と称賛した。『劉賓客文集』30巻、『外集』10巻がある。ウィキペディア【劉禹錫】参照。
紫陌紅塵拂面來
紫陌の紅塵 面を払って来る
- 紫陌 … 都大路。都の道路のこと。陌は、道路。
- 紅塵 … にぎやかな町の道路に舞い上がる土ぼこり。班固の「両都の賦」(『文選』巻一)に「紅塵四もに合いて、煙雲相連る」(紅塵四合、煙雲相連)とある。ウィキソース「西都賦」参照。
- 払面来 … 顔に当たって飛んで来る。
無人不道看花回
人の花を看て回ると道わざるは無し
- 人 … 道を行く人。
- 看花回 … 花を見ての帰り。
- 回 … 『唐詩選』『万首唐人絶句』では「囘」に作る。異体字。『四部叢刊本』では「迴」に作る。同義。
- 無~不道 … 言わない人はいない。みな言う。
玄都觀裏桃千樹
玄都観裏 桃千樹
- 玄都観 … 長安にあった道観(道教の寺院)。南宋の程大昌『雍録』唐西内太極宮、龍首原六坡の条に「玄都観は朱雀街西の第一街に在り」(玄都觀在朱雀街西之第一街)とある。ウィキソース「雍錄/卷03」参照。また『長安志』巻九、崇業坊の条に「玄都観は、隋の開皇二年、長安故城より通道観を此に徙し、改めて玄都と名づく」(玄都觀、隋開皇二年、自長安故城徙通道觀於此、改名玄都)とある。ウィキソース「長安志 (四庫全書本)/卷09」参照。
- 裏 … ~の中。~のうち。場所をあらわす接尾辞。
- 桃千樹 … 千本の桃の木。
盡是劉郎去後栽
尽く是れ劉郎去って後に栽えたり
- 尽是 … それは皆。
- 劉郎 … 劉さん。劉禹錫自身をいう。郎は、妻が夫を呼ぶ言葉。転じて男子を呼ぶ美称。自分で郎の字を使ったところに、詩題にいうふざけた気持ちを表している。昔、劉晨と阮肇という二人の男が薬を採りに天台山に入り、道に迷って桃の実を食べ、二人の仙女に出逢った。二人は迎えられて、それぞれ仙女と夫婦になって暮らした。そのうち家が恋しくなって別れて帰ったところ、知っている人は皆亡くなっており、そこには七代目の子孫が住んでいたという故事を踏まえ、劉晨(劉郎)に作者自身の姓をかけている。『幽明録』巻一に「漢の明帝の永平五年、剡県の劉晨・阮肇、共に天台山に入り穀皮を取り、迷いて返ることを得ず、十三日を経て、糧食乏尽し、饑餒して殆ど死せんとす。遥かに山上を望むに一桃樹有りて、大いに子実有り。而るに絶巌邃澗ありて、永く登路無し。藤葛を攀援し、乃ち上に至るを得たり。各〻数枚を啖いて、饑止み体充つ。復た山を下り、杯を持ちて水を取り、盥漱せんと欲するに、蕪菁の葉の山腹より流出するを見る。甚だ鮮新たり。復た一の杯流出し、胡麻飯の糝有り、相謂いて曰く、此れ人の径を去ること遠からざるを知る、と。便ち共に水に没し、流れに逆いて二三里にして、山を度りて一大渓に出ずるを得たり。渓辺に二女子有り、姿質妙絶なり。二人の杯を持ちて出ずるを見て、便ち笑いて曰く、劉・阮二郎、向に流れに失いし所の杯を捉りて来る、と。晨・肇既に之を識らざるも、二女の便ち其の姓を呼ぶや、旧有るに似たるが如きに縁りて、乃ち相見て忻喜す。問う、来ること何ぞ晩きや、と。因りて邀えて家に還る。其の家は銅の瓦屋にして、南壁及び東壁の下に各〻一大床有り。皆絳き羅帳を施し、帳角に鈴を懸け、金銀交錯す。床頭に各〻十侍婢有り。勅して云う、劉・阮二郎、山岨を経渉し、向に瓊実を得と雖も、猶尚お虚弊す。速やかに食を作る可し、と。胡麻の飯、山羊の脯、牛肉を食らう。甚だ甘美なり。食畢わりて酒を行う。一群の女の来る有り。各〻五三の桃子を持ち、笑いて言う、汝の婿の来るを賀す、と。酒酣にして楽を作す。劉・阮忻怖交〻并さる。暮に至りて、各〻をして一帳に就きて宿せしむ。女も往きて之に就き、言声清婉にして、人をして憂いを忘れしむ。十日の後に至り、還り去らんことを求めんと欲す。女云う、君の已に是に来るは、宿福の牽く所なり。何ぞ復た還らんと欲するや、と。遂に停まること半年なり。気候草木は是れ春時、百鳥啼鳴するも、更に悲思を懐き、帰らんことを求むること甚だ苦りなり。女曰く、罪君を牽く。当に如何ともす可けんや、と。遂に前に来りし女子を呼ぶに、三四十人有り。集まり会して楽を奏し、共に劉・阮を送り、還る路を指示す。既に出ずるや、親旧零落し、邑屋改異し、復た相識るもの無し。問訊して七世の孫を得たり。伝え聞く、上世山に入り、迷いて帰るを得ずと。晋の太元八年に至り、忽ち復た去り、何れの所なるかを知らず」(漢明帝永平五年、剡縣劉晨、阮肇共入天臺山取穀皮、迷不得返、經十三日、糧食乏盡、饑餒殆死。遙望山上有一桃樹、大有子實。而絕巖邃澗、永無登路。攀援藤葛、乃得至上。各啖數枚、而饑止體充。復下山、持杯取水、欲盥漱、見蕪菁葉從山腹流出。甚鮮新。復一杯流出、有胡麻飯糝、相謂曰、此知去人徑不遠。便共沒水、逆流二三里、得度山出一大溪。溪邊有二女子、姿質妙絕。見二人持杯出、便笑曰、劉、阮二郎、捉向所失流杯來。晨、肇既不識之、緣二女便呼其姓、如似有舊、乃相見忻喜。問、來何晚邪。因邀還家。其家銅瓦屋、南壁及東壁下各有一大床。皆施絳羅帳、帳角懸鈴、金銀交錯。床頭各有十侍婢。敕云、劉、阮二郎、經涉山岨、向雖得瓊實、猶尚虛弊。可速作食。食胡麻飯、山羊脯、牛肉。甚甘美。食畢行酒。有一群女來。各持五三桃子、笑而言、賀汝婿來。酒酣作樂。劉、阮忻怖交幷。至暮、令各就一帳宿。女往就之、言聲清婉、令人忘憂。至十日後、欲求還去。女云、君已來是、宿福所牽。何復欲還邪。遂停半年。氣候草木是春時、百鳥啼鳴、更懷悲思、求歸甚苦。女曰、罪牽君。當可如何。遂呼前來女子有三四十人。集會奏樂、共送劉、阮、指示還路。既出、親舊零落、邑屋改異、無復相識。問訊得七世孫。傳聞上世入山、迷不得歸。至晉太元八年、忽復去、不知何所)とある。ウィキソース「幽明錄」参照。
- 去後栽 … 長安を去ったあとで植えられたものである。
- 去 … 『全唐詩』には「一作別」とある。
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