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題慈恩塔(荊叔)

題慈恩塔
慈(じ)恩(おん)の塔(とう)に題(だい)す
(伝)荊(けい)叔(しゅく)
  • ウィキソース「全唐詩/卷774」参照。
  • この詩は、作者が都長安の慈恩寺の大雁塔に登り、その感慨を詠んだもの。なお、前半二句は、盛唐の杜甫「春望」詩の「国破れて山河在り、城春にして草木深し」(國破山河在、城春草木深)を踏まえたものと思われる。ただ『唐詩別裁集』では、暗合(偶然の一致)に過ぎないとする。
  • 詩題 … 『唐詩別裁集』『古今詩刪』では「慈恩寺の墖(とう)に題す」(題慈恩寺墖)に作る。墖は、塔の異体字。
  • 慈恩塔 … 現在の陝西省西安市雁塔区にある大慈恩寺の境内にある仏塔。大雁(だいがん)塔(とう)ともいう。永徽三年(652)、玄奘三蔵によって建立された。ウィキペディア【大雁塔】参照。
  • 題 … 詩を作って、壁などに書きつけること。
  • 荊叔 … 生没年・事蹟ともに不詳。晩唐の人と思われる。今に伝わる詩はこの一首のみ。
漢國山河在
漢国(かんこく) 山(さん)河(が)在(あ)り
  • 漢国 … 昔の漢の国。漢の時代。前漢の都長安を指す。『漢書』翟方進(てきほうしん)伝に「天、帝室を安んじ、我が漢国を興(おこ)すことを休(よみ)す」(天休於安帝室、興我漢國)とある。ウィキソース「漢書/卷084」参照。また、南朝梁の劉孝威の楽府「隴頭水」(『楽府詩集』巻二十一)に「時に胡騎の飲(みずか)うを観れば、常に漢国の為に羞(は)ず」(時觀胡騎飮、常爲漢國羞)とある。ウィキソース「樂府詩集/021卷」参照。
  • 山河在 … 山も河も昔のままだ。『史記』呉王濞(ひ)列伝に「願わくは大王過ぐる所の城(じょう)邑(ゆう)下(くだ)さず、直ちに棄て去り、疾(と)く西(にし)して雒陽(らくよう)の武庫に拠り、敖倉(ごうそう)の粟(ぞく)を食らい、山河の険に阻(よ)りて以て諸侯に令せよ」(願大王所過城邑不下、直棄去、疾西據雒陽武庫、食敖倉粟、阻山河之險以令諸侯)とある。雒陽は、洛陽に同じ。武庫は、武器を納める倉庫。敖倉は、秦が敖山(ごうざん)の上に建てた倉。粟は、食糧。ウィキソース「史記/卷106」参照。
  • 山河 … 『万首唐人絶句』では「河山」に作る。
秦陵草樹深
秦(しん)陵(りょう) 草樹(そうじゅ)深(ふか)し
  • 秦陵 … 秦の始皇帝の陵墓。陝西省臨潼(りんどう)県の驪(り)山(ざん)の麓(ふもと)にある。『明一統志』巻三十二に「秦の始皇陵は、驪山の下に在り」(秦始皇陵、在驪山下)とある。ウィキソース「明一統志 (四庫全書本)/卷32」参照。また『史記』秦始皇本紀に「始皇初め位に即(つ)くや、酈(り)山(ざん)を穿(うが)ち治む。天下を幷(あわ)すに及びて、天下の徒の送詣するもの七十余万人なりき。三泉を穿ち、銅を下にして槨(かく)を致す」(始皇初即位、穿治酈山。及幷天下、天下徒送詣七十餘萬人。穿三泉、下銅而致槨)とある。徒は、徒刑者。労役の刑に服する者。送詣は、送られてここへ来る。槨は、棺を入れる外箱。外棺。ウィキソース「史記/卷006」参照。
  • 草樹深 … 草や木が深々と生(お)い茂っている。梁の武帝の楽府「臨高台」(『玉台新詠』巻七、『楽府詩集』巻十八では簡文帝の作とする)に「草樹参(しん)差(し)たる無く、山河同じく一(いっ)色(しょく)」(草樹無參差、山河同一色)とある。参差は、高低。ウィキソース「臨高臺 (蕭衍)」参照。
  • 草樹 … 草木に同じ。『唐詩別裁集』では「草木」に作る。
暮雲千里色
暮(ぼ)雲(うん) 千(せん)里(り)の色(いろ)
  • 暮雲 … 夕暮れの雲。古楽府「古(いにし)えの八変(はちへん)歌(か)」(『古詩紀』巻十七)に「浮雲に暮色多く、崦(えん)嵫(じ)より来(きた)るに似たり」(浮雲多暮色、似從崦嵫來)とある。崦嵫は、山名。太陽が沈む場所と考えられていた。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷017」参照。
  • 千里色 … 夕焼け雲が千里の彼方まで、茜(あかね)色(いろ)一色に染まっている。南朝斉の劉(りゅう)絵(かい)「謝文学に餞(せん)す」詩(『古詩紀』巻七十二)に「汀(てい)洲(しゅう) 千里芳(かぐわ)しく、朝雲 万里の色」(汀洲千里芳、朝雲萬里色)とある。汀洲は、水際(みずぎわ)と中洲。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷072」参照。
無處不傷心
処(ところ)として心(こころ)を傷(いた)ましめざるは無(な)し
  • 無処不傷心 … どこを眺めても痛ましく思わないところはない。前漢の蘇武「詩四首」(『文選』巻二十九)の第二首に「俛(ふ)仰(ぎょう)して内に心を傷ましめ、涙下(くだ)りて揮(ふる)う可からず」(俛仰内傷心、涙下不可揮内傷心)とある。俛仰は、うつむいたり、あおむいたりすること。揮は、拭(ぬぐ)うこと。ウィキソース「昭明文選/卷29」参照。
  • 処 … どこを見ても。どこもかしこも。
  • 「無~不…」 … 「~として…せざるはなし」と読み、「どんな~でも…しないものはない」と訳す。二重否定。
  • 無 … 『唐詩紀事』では「何」に作る。
詩型・韻字
  • 五言絶句。
  • 深・心(下平声侵韻)。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻六(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
  • 『全唐詩』巻七百七十四(排印本、中華書局、1960年)
  • 『万首唐人絶句』五言・巻二十一(明嘉靖本影印、文学古籍刊行社、1955年)
  • 『唐詩紀事』巻八十(『四部叢刊 初篇集部』所収)
  • 『唐詩解』巻二十四(順治十六年刊、内閣文庫蔵)
  • 『唐詩品彙』巻四十五([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
  • 『唐詩別裁集』巻十九([清]沈徳潜編、乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
  • 『古今詩刪』巻二十(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、汲古書院)
  • 松浦友久編『続校注 唐詩解釈辞典〔付〕歴代詩』(大修館書店、2001年)
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