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鹿柴(裴迪)

鹿柴
鹿柴(ろくさい)
裴迪(はいてき)
  • ウィキソース「輞川集 (裴迪)/鹿柴」参照。
  • この詩は、王維の「鹿柴」詩に和して詠んだもの。鹿柴は、鹿を放し飼いにするための囲いの柵。「輞川(もうせん)二十景」の第一首。輞川(もうせん)は、長安の南郊の藍田(らんでん)(陝西省藍田県)にあった王維の別荘で、「輞川(もうせん)荘」と名づけられた。輞川荘には、二十か所の景勝の地があり、作者はこの別荘に出入りし、王維とともにそれぞれ一首ずつ唱和し、合計四十首の五言絶句の作品を作った。
  • 詩題 … 『全唐詩』では「輞川集二十首其五 鹿柴」に作る。
  • 裴迪 … 716~?。盛唐の詩人。関中(陝西省西安を中心とした一帯)の人。字(あざな)は不詳。安禄山の乱の後、蜀州刺史、尚書郎などになったという。王維の詩友として知られる。『全唐詩』に二十九首の詩が収められている。ウィキペディア【裴迪】(中文)参照。
日夕見寒山
日夕(にっせき) 寒山(かんざん)を見(み)ては
  • 日夕 … 夕方。夕暮れ。日暮れ。『詩経』王風・君子于(う)役(えき)に「日の夕べ、羊(よう)牛(ぎゅう)下(くだ)り来(きた)る」(日之夕矣、羊牛下來)とある。于役は、国が義務として課した戦争や労働に行くこと。于は、往(ゆ)く。羊牛は、羊(ひつじ)と牛。ウィキソース「詩經/君子于役」参照。また、三国魏の王粲「従軍詩五首」(『文選』巻二十七)の第五首に「日夕涼風発し、翩翩(へんぺん)として吾が舟を漂(ただよ)わす」(日夕涼風發、翩翩漂吾舟)とある。翩翩は、ここではゆらゆらと揺れるさま。ウィキソース「從軍詩 (王粲)」参照。また、東晋の陶潜の詩「飲酒二十首」(『陶淵明集』巻三、『文選』巻三十では「雑詩二首其一」に作る)の第五首に「山気 日夕に佳(よ)く、飛(ひ)鳥(ちょう) 相与(あいとも)に還る」(山氣日夕佳、飛鳥相與還)とある。ウィキソース「飲酒二十首」参照。また、南朝梁の何遜「日夕に江を望み、魚司馬に贈る」詩(『玉台新詠』巻五)に「日夕に高城を望めば、耿耿(こうこう)たり青雲の外(ほか)」(日夕望高城、耿耿青雲外)とある。耿耿は、きらきらと輝く様子。ウィキソース「日夕望江贈魚司馬」参照。
  • 寒山 … 冬枯れの山。寒々とした山。劉宋の謝霊運「華子(かし)岡(こう)に入る、是れ麻源の第三谷なり」詩(『文選』巻二十六)に「南州は実に炎徳あり、桂樹は寒山を凌(しの)ぐ」(南州實炎德、桂樹凌寒山)とある。華子岡は、臨川郡(現在の江西省撫州市一帯)の北西にあった麻源山の谷の名。南州は、南方の地。炎徳は、火徳のこと。天子が受ける五(ご)行(ぎょう)の徳の一つ。桂樹は、桂の木。ウィキソース「昭明文選/卷26」参照。
便爲獨往客
便(すなわ)ち 独往(どくおう)の客(かく)と為(な)る
  • 便 … ~すればすぐに。ここでは、寒山が見えたので、すぐさま。
  • 独往 … 一人で出かけること。自然に任せて世俗を顧みないこと。『荘子』在宥篇に「六合(りくごう)に出入し、九州に遊び、独往独来す、是(これ)を独有と謂う。独有の人、是(これ)を之れ至貴(しき)と謂う」(出入六合、遊乎九州、獨往獨來、是謂獨有。獨有之人、是之謂至貴)とある。六合は、東・西・南・北・上・下の六つの方角。転じて、天下。世界。宇宙。九州は、中国の古代、全国を分けて九つの州にしたもの。至貴は、最も貴い人物。ウィキソース「莊子/在宥」参照。また、劉宋の謝霊運「華子(かし)岡(こう)に入る、是れ麻源の第三谷なり」詩(『文選』巻二十六)に「且つ独往の意を申べ、月に乗じて潺湲(せんかん)を弄す」(且申獨往意、乘月弄潺湲)とあり、その李善注に「淮南王荘子略要に曰く、江海の士、山谷の人は、天下を軽んじ、万物を細(いや)しとして独り往く者なり、と。司馬彪曰く、独往とは、自然に任せ、復た世を顧みざるなり、と」(淮南王莊子略要曰、江海之士、山谷之人、輕天下、細萬物而獨往者也。司馬彪曰、獨往、任自然、不復顧世也)とある。潺湲は、さらさらと流れる水の音。ウィキソース「昭明文選/卷26」参照。
  • 客 … 旅人。
不知松林事
知(し)らず 松(しょう)林(りん)の事(こと)
  • 不知 … よく分からない。
  • 松林事 … 松(まつ)林(ばやし)の中のこと。松林の奥のこと。林間(りんかん)(林の中)の事と同じ。松の字には大して意味はない。北魏の彭城王元(げん)勰(きょう)「応制 銅鞮山(どうていざん)の松を賦す」詩(『古詩紀』巻一百十八)に「松林に問う、松林は幾冬を経(へ)たるや、と。山川は昔に何如(いかん)、風雲は古(いにしえ)と同じ」(問松林、松林經幾冬。山川何如昔、風雲與古同)とある。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷118」参照。
  • 松 … 『全唐詩』『蜀刊本』『顧可久注本』『万首唐人絶句』『唐詩紀事』では「深」に作る。
但有麏麚跡
但(た)だ麏(きん)麚(か)の跡(あと)有(あ)るのみ
  • 但有麏麚跡 … ただ鹿の足跡だけが残っていた。
  • 麏麚 … 麏は、のろ。きばのろ。鹿の一種。角がなく、牙がある。群れをなして集まる。麚は、牡(お)鹿(じか)。雄の鹿。ここでは、漠然と鹿の意味に用いている。『楚辞』招隠士に「青(せい)莎(さ)と雑樹と薠草(はんそう)靃(すい)靡(び)たり、白鹿と麏麚と或いは騰(のぼ)り或いは倚(よ)る」(青莎雜樹兮薠草靃靡、白鹿麏麚兮或騰或倚)とあり、北宋の洪興祖の注に「麏は、麞(のろ)なり。麚は、牝鹿なり」(麏、麞也。麚、牝鹿)とある。青莎は、青いはますげ。薠草は、おおはますげ。靃靡は、草がなびくさま。ウィキソース「楚辭補註/卷第十二」参照。
詩型・韻字
  • 五言絶句。
  • 客・跡(入声陌韻)。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻六(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
  • 『全唐詩』巻一百二十九(排印本、中華書局、1960年)
  • 『王右丞文集』巻四(静嘉堂文庫蔵、略称:静嘉堂本)
  • 『王摩詰文集』巻六(宋蜀刻本唐人集叢刊、上海古籍出版社、1982年、略称:蜀刊本)
  • 『須渓先生校本唐王右丞集』巻四(『四部叢刊 初篇集部』所収、略称:四部叢刊本)
  • 顧可久注『唐王右丞詩集』巻四(『和刻本漢詩集成 唐詩1』所収、略称:顧可久注本)
  • 趙殿成注『王右丞集箋注』巻十三(中国古典文学叢書、上海古籍出版社、1998年、略称:趙注本)
  • 『唐詩品彙』巻四十([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
  • 『唐詩解』巻二十二(順治十六年刊、内閣文庫蔵)
  • 『万首唐人絶句』五言・巻四(明嘉靖本影印、文学古籍刊行社、1955年)
  • 『古今詩刪』巻二十(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、汲古書院)
  • 『唐詩紀事』巻十六([宋]計有功輯撰、上海古籍出版社、1987年)
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