湖中対酒作(張謂)
湖中對酒作
湖中 酒に対して作る
湖中 酒に対して作る
夜坐不厭湖上月
夜坐厭わず 湖上の月
- 夜坐 … 「夜坐して」と読んでもよい。夜は坐ったままで。
- 不厭 … 「厭かず」と読んでもよい。飽きない。見て飽きない。
- 湖上月 … 湖の水面にかかる月。
晝行不厭湖上山
昼行厭わず 湖上の山
- 昼行 … 「昼行きて」と読んでもよい。昼は(湖のほとりの山を)歩く回って。
- 湖上山 … 湖畔の山。
眼前一樽又長滿
眼前の一樽 又長しえに満つ
- 眼前一樽 … 目の前の酒樽。
- 樽 … 『全唐詩』では「尊」に作る。同義。
- 又長満 … いつも酒がいっぱいに入っている。
心中萬事如等閑
心中の万事 等閑の如し
- 等閑 … 気に留めないこと。意に介しないこと。
- 閑 … 『全唐詩』では「閒」に作る。同義。
主人有黍萬餘石
主人黍有り 万余石
- 黍 … きび。酒を作る原料。
- 万余石 … 一万石余り。
- 萬 … 『全唐詩』では「百」に作る。
濁醪數斗應不惜
濁醪数斗 応に惜しまざるべし
- 濁醪 … 濁り酒。どぶろく。
- 応不惜 … 何の惜しまれるはずがあろう。
- 応 … 「まさに~すべし」と読み、「きっと~であろう」と訳す。再読文字。強い推量の意を示す。
即今相對不盡歡
即今相対して歓を尽くさずんば
- 即今 … ただいま。現在。
- 相対 … 向かい合って。
- 對 … 『全唐詩』には「一作逢」とある。
- 不尽歓 … 思う存分喜びを尽くさなかったら。
別後相思復何益
別後相思うも復た何の益かあらん
- 別後 … 別れた後。
- 相思 … 互いに懐かしがる。
- 復何益 … 何の役に立つものか。
茱萸灣頭歸路賖
茱萸湾頭 帰路賖かなり
- 茱萸湾 … 江蘇省揚州市の東北にあった湾という説、あるいは長沙府益陽県にあった洞庭湖の一つの湾という説とがある。
- 湾頭 … 湾口。湾の出入り口。
- 賖 … はるかに遠い。
願君且宿黄公家
願わくは君且く宿せよ 黄公の家
- 宿 … 泊まる。
- 黄公家 … 竹林の七賢の一人、晋の王戎が、阮籍・嵆康とともに黄公の酒場で痛飲したことを懐かしんだという『世説新語』に見える故事に基づく。ここでは主人の家を指す。
風光若此人不醉
風光此の若くして人酔わずんば
- 風光 … よい景色。
參差辜負東園花
参差として東園の花に辜負せん
- 参差 … 食い違って。ここでは咲きほこっている東園の花の心意気と食い違うこと。
- 東園花 … 東の庭に咲いている桃や李の花。「東」は春の意。阮籍「詠懐詩」に、「嘉樹の下、蹊を成す、東園の桃と李と」とある。
- 辜負 … 相手の気持ちにそむく。違背する。
- 辜 … 底本では「孤」に作るが、諸本に従い改めた。
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