贈喬琳(張謂)
贈喬琳
喬琳に贈る
喬琳に贈る
- 七言古詩。收・留・憂(平声尤韻)、客・宅(入声陌韻)、專(平声先韻)門・論(平声元韻)通押。
- 『全唐詩』巻197所収。ウィキソース「贈喬琳 (張謂)」参照。
- 贈喬琳 … 『全唐詩』には「一作劉眘虚詩」とある。
- 喬琳 … 714~784。太原の人。天宝の初め進士に及第。朔方節度使郭子儀(697~781)の書記となり、のち地方の刺史(州の長官)を歴任した。徳宗のとき、朱泚(742~784)が叛乱を起こし、その時、朱泚のもとで大臣であったため、叛乱が鎮圧された後、死刑に処された。ウィキソース「舊唐書/卷127」参照。なお、「琳」は底本(『漢文大系』冨山房)では「林」に作る。
- 張謂 … 721~780?。盛唐の詩人。河南省沁陽の人。字は正言。大暦六年(771)に礼部侍郎となったが、のちに潭州(湖南省長沙)の刺史に左遷された。ウィキペディア【張謂】参照。
去年上策不見收
去年 策を上って収められず
- 策 … 意見書。
- 上 … 天子に提出すること。
- 不見収 … 採用されない。
- 見 … 「る」「らる」と読み、「~される」と訳す。受身の意を示す。
- 上策不見収 … 「官吏登用試験を受け、落第した」と解釈する説もある。
今年寄食仍淹留
今年 寄食して仍お淹留す
- 寄食 … 居候すること。
- 仍 … 「なお」と読み、「まだ」「依然として」と訳す。
- 淹留 … 長い間とどまっていること。
羨君有酒能便醉
羨む 君が酒有らば能く便ち酔うを
- 羨 … うらやましい。
- 君 … 喬琳を指す。
- 便 … 「すなわち」と読み、「~すればすぐに」と訳す。
羨君無錢能不憂
羨む 君が銭無きも能く憂えざるを
- 不憂 … 平気でいられる。いよいよせずにいられる。
如今五侯不待客
如今 五侯 客を待たず
- 如今 … 今。ただいま。
- 五侯 … 漢の成帝が皇后王氏の兄弟五人を同時に侯爵に封じたため、世間の人々がこれを五侯と呼んだ故事に基づく。ここでは権勢のある人々に喩える。
- 待 … 『全唐詩』では「愛」に作り、「一作待」とある。
- 待客 … 客を大切にもてなす。「待」は接待。
羨君不入五侯宅
羨む 君が五侯の宅に入らざることを
- 入 … 『全唐詩』では「問」に作り、「一作過」とある。
如今七貴方自專
如今 七貴 方に自ら専らにす
- 七貴 … 前漢諸帝の皇后の一族として、羽振りをきかした七つの氏族。呂・霍・上官・丁・趙・傅・王の七氏。ここでは今を時めく貴族たちに喩える。
- 専 … 『全唐詩』では「尊」に作る。
羨君不過七貴門
羨む 君が七貴の門に過らざるを
- 過 … 「よぎる」と読む。立ち寄る。『史記』田叔伝に「会〻賢大夫少府趙禹来りて衛将軍に過る」(會賢大夫少府趙禹來過衛將軍)とある。ウィキソース「史記/卷104」参照。
丈夫會應有知己
丈夫 会ず応に知己有るべし
- 丈夫 … 立派な男。ますらお。ここでは作者自身を指す。『説文解字』巻十下、夫部に「周制に八寸を以て尺と為し、十尺を丈と為す。人の長さは八尺、故に丈夫と曰う」(周制以八寸爲尺、十尺爲丈。人長八尺、故曰丈夫)とある。ウィキソース「說文解字/10」参照。また『春秋穀梁伝』巻十一、文公十二年に「男子は二十にして冠す。冠して丈夫に列す」(男子二十而冠。冠而列丈夫)とある。ウィキソース「春秋穀梁傳註疏/卷11」参照。
- 会 … 「かならず」と読み、「かならず~」と訳す。
- 知己 … 自分をよく理解してくれる人。自分の真価を認めてくれる人。『史記』晏嬰伝に「君子は己を知らざるに詘するも、己を知る者に信ぶ」(君子詘於不知己、而信於知己者)とある。ウィキソース「史記/卷062」参照。また刺客伝・豫譲の条にも「嗟乎、士は己を知る者の為に死し、女は己を説ぶ者の為に容る」(嗟乎、士爲知己者死、女爲説己者容)とある。ウィキソース「史記/卷086」参照。また秦宓の「遠遊」(『古詩紀』巻二十七)に「巌穴我が隣に非ず、林麓知己無し」(巖穴非我鄰、林麓無知己)とある。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷027」参照。
世上悠悠安足論
世上の悠悠たる 安くんぞ論ずるに足らん
- 世上 … 世の中。世間の人。
- 悠悠 … ここでは無関心なこと。
- 安 … 「いずくんぞ~ん(や)」と読み、「どうして~であろうか(いや~ない)」と訳す。反語の意を表す。『全唐詩』では「何」に作る。
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