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孟門行(崔顥)

孟門行
孟門行(もうもんこう)
崔顥(さいこう)
  • 七言古詩。隙・射(入声陌韻)/春・賓・人(上平声真韻)/道・保(上声皓韻)/枝・移・知(上平声支韻)、換韻。
  • ウィキソース「孟門行」参照。
  • 孟門行 … 新楽府。孟門は、河南省輝(き)県から太行山を越える古い峠道を指す。狭く、険阻な道だったらしい。ここでは世の中を渡る道の険しさに喩える。行は、歌・曲の意。
  • この詩は、作者が讒言(ざんげん)によって地位を移されたことがあったらしく、主人に対して讒言などに惑わされず、人物を正しく評価してほしいという意を寓したもの。
  • 崔顥 … ?~754。盛唐の詩人。卞(べん)州(しゅう)(河南省開封市)の人。字(あざな)は不詳。開元十一年(723)、進士に及第。河東節度使の幕僚などを経て、最後は司勲員外郎に至った。酒と賭博を好んだという。ウィキペディア【崔顥】参照。
黃雀銜黃花
黄(こう)雀(じゃく) 黄(こう)花(か)を銜(ふく)み
  • 黄雀 … すずめの一種。入内雀。ウィキペディア【ニュウナイスズメ】参照。ここでは梁の呉(ご)均(いん)の『続(ぞく)斉諧(せいかい)記(き)』にみえる次の故事を踏まえる。後漢の楊宝(ようほう)が怪我をした黄雀を助け、黄色い花を餌にして百日ほど育ててやった。やがて黄雀は傷も癒え、飛び去った。その夜の夢に黄衣の童子が現われ、自分は西王(せいおう)母(ぼ)(西方に住む仙女)の使者であるといい、四つの白玉の環を宝に手渡しながら、君が助けてくれた恩に報いるため、君の子孫を出世させてあげようと告げた。のちに宝の子孫は代々公卿(こうけい)となって繁栄したという。
  • 黄花 … 黄色い花。『全唐詩』『楽府詩集』には「一作蘋(花)」と注する。
  • 銜 … 口にくわえる。
翩翩傍簷隙
翩翩(へんぺん)として簷隙(えんげき)に傍(そ)う
  • 翩翩 … 鳥が軽やかに飛ぶさま。羽をひらひらさせて飛ぶさま。
  • 簷隙 … 軒端。軒先。また、軒のすき間。『唐詩選』では「簷陳」に作る。
  • 傍 … 寄り添うように飛ぶ。そばを飛び回る。
本擬報君恩
本(もと) 君恩(くんおん)に報(むく)いんと擬(ぎ)す
  • 本 … もともと。
  • 報君恩 … あなたに恩返しをすること。
  • 擬 … ~しようと思う。欲する。『全唐詩』には「一作欲」と注する。
如何反彈射
如何(いかん)ぞ反(かえ)って弾射(だんせき)する
  • 如何 … それをどうして。
  • 反 … かえって。
  • 弾射 … はじき玉で射る。弾丸で撃つ。
  • 射 … 「隙」と押韻するので「シャ」と去声に読まず、「セキ」と入声に読む。
金罍美酒滿座春
金罍(きんらい)の美(び)酒(しゅ) 満(まん)座(ざ)の春(はる)
  • 金罍 … 黄金で美しく飾った酒樽。
  • 美酒 … うまい酒。味のよい酒。「古詩十九首」(『文選』巻二十九)の第十三首に「如(し)かず美(び)酒(しゅ)を飲(の)みて、紈(がん)と素(そ)とを被(ひ)服(ふく)せんには」(不如飲美酒、被服紈與素)とある。紈・素は、白い練絹・生絹。華美な衣服の意。ウィキソース「驅車上東門」参照。
  • 満座春 … 一座に春の気分が満ち溢れること。
平原愛才多衆賓
平原(へいげん) 才(さい)を愛(あい)して衆(しゅう)賓(ひん)多(おお)し
  • 平原 … 平原君(?~前251)のこと。戦国時代の四君の一人。趙の武霊王の子。名は勝。平原は号。食客は常に数千人に達したという。ウィキペディア【平原君】参照。
  • 愛才 … 才能ある人物を愛する。才は、人才。
  • 才 … 『楽府詩集』『唐詩紀事』『唐文粋』では「財」に作る。
  • 多衆賓 … 大勢の賓客が集まってくる。
滿堂盡是忠義士
満堂(まんどう) 尽(ことごと)く是(こ)れ忠(ちゅう)義(ぎ)の士(し)
  • 満堂 … 部屋いっぱいに居並ぶ賓客。
  • 尽 … すべて。みな。
  • 尽 … 真心を尽くして国家や主君に仕えること。
何意得有讒諛人
何(なん)ぞ意(おも)わん 讒(ざん)諛(ゆ)の人(ひと)有(あ)るを得(え)んとは
  • 何意 … 思いがけぬことだった。思いもよらぬことだった。
  • 讒諛 … へつらい、告げ口をする。讒は、そしる。人の悪口を言う。告げ口をする。中傷する。諛は、へつらう。気に入られようとおもねる。
  • 得有 … ~するような人間がいようとは。
諛言反覆那可道
諛(ゆ)言(げん)反覆(はんぷく) 那(なん)ぞ道(い)う可(べ)けん
  • 諛言 … こびへつらう言葉。
  • 言 … 『全唐詩』には「一作人」と注する。『楽府詩集』『唐詩紀事』『唐文粋』では「人」に作る。
  • 反覆 … 何度も繰り返すこと。
  • 那 … 「なんぞ」と読み、「どうして~か(いや~ではない)」と訳す。反語の意を示す。
  • 那可道 … こちらは何も言いようがない。道は、言う。
能令君心不自保
能(よ)く君(きみ)が心(こころ)をして自(みずか)ら保(たも)たざらしむ
  • 令 … 「令AB」の形で「AをしてB(せ)しむ」と読み、「AにBさせる」と訳す。使役を表す。「使・遣・教」に同じ。
  • 能令君心不自保 … あなたの心に判断の自主性を保持させないようにしてしまった。あなたの心をぐらつかせてしまった。保は、判断の自主性を保持する。
北園新栽桃李枝
北園(ほくえん)新(あら)たに栽(う)う 桃(とう)李(り)の枝(えだ)
  • 北園 … 北の庭園。
  • 新栽 … 新しく植える。
  • 桃李枝 … 桃や李(すもも)の木。君子に喩える。『漢詩外伝(がいでん)』巻七に「春桃李を樹(う)うれば、夏其の下に陰(かげ)するを得(え)、秋其の実を食(くら)うを得(う)」(春樹桃李、夏得陰其下、秋得食其實)とあるのに基づく。
根株未固何轉移
根株(こんしゅ)未(いま)だ固(かた)からざるに 何(なん)ぞ転(てん)移(い)するや
  • 根株 … 根。土の中にあるものを「根」、土の上に出たものを「株」という。
  • 未固 … まだ固まっていないのに。
  • 何転移 … どうして移しかえようとなさるのか。転移は、移植する。
成陰結實君自取
陰(かげ)を成(な)し実(み)を結(むす)ばば君(きみ)自(みずか)ら取(と)れ
  • 成陰結実 … 葉が茂って木(こ)陰(かげ)ができ、実がなれば。
  • 實 … 『全唐詩』には「一作子」と注する。『河岳英霊集』『楽府詩集』『唐詩紀事』『唐文粋』では「子」に作る。
  • 君自取 … あなたが御自分でお取りになってください。
若問傍人那得知
若(も)し傍人(ぼうじん)に問(と)うも那(なん)ぞ知(し)るを得(え)ん
  • 若 … 『全唐詩』『河岳英霊集』には「一作借」と注する。
  • 傍人 … そばにいる人。第三者。
  • 問 … お尋ねになっても。
  • 那得知 … 真実がわかる筈はない。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻二(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
  • 『全唐詩』巻一百三十(排印本、中華書局、1960年)
  • 『唐詩品彙』巻三十([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
  • 『河岳英霊集』巻下(傅璇琮編撰『唐人選唐詩新編』、陝西人民教育出版社、1996年)
  • 『楽府詩集』巻九十一・新楽府辞(北京図書館蔵宋刊本影印、中津濱渉『樂府詩集の研究』所収)
  • 『唐詩紀事』巻二十一(『四部叢刊 初編集部』所収)
  • 『唐文粋』巻十二(姚鉉撰、明嘉靖本影印、『四部叢刊 初篇集部』所収)
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