孟門行(崔顥)
孟門行
孟門行
孟門行
- 〔テキスト〕 『唐詩選』巻二、『全唐詩』巻一百三十、『唐詩品彙』巻三十、『河岳英霊集』巻下、『楽府詩集』巻九十一、『唐詩紀事』巻二十一(『四部叢刊 初編集部』所収)、『唐文粋』巻十二(『四部叢刊 初編集部』所収)、他
- 七言古詩。隙・射(入声陌韻)/春・賓・人(平声真韻)/道・保(上声皓韻)/枝・移・知(平声支韻)、換韻。
- ウィキソース「孟門行」参照。
- 孟門行 … 新楽府。孟門は、河南省輝県から太行山を越える古い峠道を指す。狭く、険阻な道だったらしい。ここでは世の中を渡る道の険しさに喩える。行は、歌・曲の意。
- この詩は、作者が讒言によって地位を移されたことがあったらしく、主人に対して讒言などに惑わされず、人物を正しく評価してほしいという意を寓したもの。
- 崔顥 … ?~754。盛唐の詩人。卞州(河南省開封市)の人。字は不詳。開元十一年(723)、進士に及第。官は司勲員外郎に至った。酒と賭博を好んだという。ウィキペディア【崔顥】参照。
黃雀銜黃花
黄雀 黄花を銜み
- 黄雀 … すずめの一種。入内雀。ウィキペディア【ニュウナイスズメ】参照。ここでは梁の呉均の『続斉諧記』にみえる次の故事を踏まえる。後漢の楊宝が怪我をした黄雀を助け、黄色い花を餌にして百日ほど育ててやった。やがて黄雀は傷も癒え、飛び去った。その夜の夢に黄衣の童子が現われ、自分は西王母(西方に住む仙女)の使者であるといい、四つの白玉の環を宝に手渡しながら、君が助けてくれた恩に報いるため、君の子孫を出世させてあげようと告げた。のちに宝の子孫は代々公卿となって繁栄したという。
- 黄花 … 黄色い花。『全唐詩』『楽府詩集』には「一作蘋(花)」とある。
- 銜 … 口にくわえる。
翩翩傍簷隙
翩翩として簷隙に傍う
- 翩翩 … 鳥が軽やかに飛ぶさま。羽をひらひらさせて飛ぶさま。
- 簷隙 … 軒端。軒先。また、軒のすき間。『唐詩選』では「簷陳」に作る。
- 傍 … 寄り添うように飛ぶ。そばを飛び回る。
本擬報君恩
本 君恩に報いんと擬す
- 本 … もともと。
- 報君恩 … あなたに恩返しをすること。
- 擬 … ~しようと思う。欲する。『全唐詩』には「一作欲」とある。
如何反彈射
如何ぞ反って弾射する
- 如何 … それをどうして。
- 反 … かえって。
- 弾射 … はじき玉で射る。弾丸で撃つ。「射」は「隙」と押韻するので「シャ」と去声に読まず、「セキ」と入声に読む。
金罍美酒滿座春
金罍の美酒 満座の春
- 金罍 … 黄金で美しく飾った酒樽。
- 美酒 … うまい酒。味のよい酒。「古詩十九首 其の十三」(『文選』巻二十九)に「如かず美酒を飲みて、紈と素とを被服せんには」(不如飲美酒、被服紈與素)とある。紈・素は、白い練絹・生絹。華美な衣服の意。ウィキソース「驅車上東門」参照。
- 満座春 … 一座に春の気分が満ち溢れること。
平原愛才多衆賓
平原 才を愛して衆賓多し
- 平原 … 平原君(?~前251)のこと。戦国時代の四君の一人。趙の武霊王の子。名は勝。平原は号。食客は常に数千人に達したという。ウィキペディア【平原君】参照。
- 愛才 … 才能ある人物を愛する。才は、人才。
- 才 … 『楽府詩集』『唐詩紀事』『唐文粋』では「財」に作る。
- 多衆賓 … 大勢の賓客が集まってくる。
滿堂盡是忠義士
満堂 尽く是れ忠義の士
- 満堂 … 部屋いっぱいに居並ぶ賓客。
- 尽 … すべて。みな。
- 尽 … 真心を尽くして国家や主君に仕えること。
何意得有讒諛人
何ぞ意わん 讒諛の人有るを得んとは
- 何意 … 思いがけぬことだった。思いもよらぬことだった。
- 讒諛 … へつらい、告げ口をする。讒は、そしる。人の悪口を言う。告げ口をする。中傷する。諛は、へつらう。気に入られようとおもねる。
- 得有 … ~するような人間がいようとは。
諛言反覆那可道
諛言反覆 那ぞ道う可けん
- 諛言 … こびへつらう言葉。
- 言 … 『全唐詩』には「一作人」とある。『楽府詩集』『唐詩紀事』『唐文粋』では「人」に作る。
- 反覆 … 何度も繰り返すこと。
- 那 … 「なんぞ」と読み、「どうして~か(いや~ではない)」と訳す。反語の意を示す。
- 那可道 … こちらは何も言いようがない。道は、言う。
能令君心不自保
能く君が心をして自ら保たざらしむ
- 令 … 「令AB」の形で「AをしてB(せ)しむ」と読み、「AにBさせる」と訳す。使役を表す。「使・遣・教」と同じ。
- 能令君心不自保 … あなたの心に判断の自主性を保持させないようにしてしまった。あなたの心をぐらつかせてしまった。保は、判断の自主性を保持する。
北園新栽桃李枝
北園新たに栽う 桃李の枝
- 北園 … 北の庭園。
- 新栽 … 新しく植える。
- 桃李枝 … 桃や李の木。君子に喩える。『漢詩外伝』巻七に「春桃李を樹うれば、夏其の下に陰するを得、秋其の実を食うを得」(春樹桃李、夏得陰其下、秋得食其實)とあるのに基づく。
根株未固何轉移
根株未だ固からざるに 何ぞ転移するや
- 根株 … 根。土の中にあるものを「根」、土の上に出たものを「株」という。
- 未固 … まだ固まっていないのに。
- 何転移 … どうして移しかえようとなさるのか。転移は、移植する。
成陰結實君自取
陰を成し実を結ばば君自ら取れ
- 成陰結実 … 葉が茂って木陰ができ、実がなれば。
- 實 … 『全唐詩』には「一作子」とある。『河岳英霊集』『楽府詩集』『唐詩紀事』『唐文粋』では「人」に作る。
- 君自取 … あなたが御自分でお取りになってください。
若問傍人那得知
若し傍人に問うも那ぞ知るを得ん
- 若 … 『全唐詩』『河岳英霊集』には「一作借」とある。
- 傍人 … そばにいる人。第三者。
- 問 … お尋ねになっても。
- 那得知 … 真実がわかる筈はない。
こちらもオススメ!
歴代詩選 | |
古代 | 前漢 |
後漢 | 魏 |
晋 | 南北朝 |
初唐 | 盛唐 |
中唐 | 晩唐 |
北宋 | 南宋 |
金 | 元 |
明 | 清 |
唐詩選 | |
巻一 五言古詩 | 巻二 七言古詩 |
巻三 五言律詩 | 巻四 五言排律 |
巻五 七言律詩 | 巻六 五言絶句 |
巻七 七言絶句 |
詩人別 | ||
あ行 | か行 | さ行 |
た行 | は行 | ま行 |
や行 | ら行 |