短歌行(曹操)
短歌行
短歌行
短歌行
- 〔テキスト〕 『楽府詩集』巻三十、『先秦漢魏晋南北朝詩』魏詩巻一、『古詩源』巻五 魏詩、『古詩賞析』巻八 魏詩、『文選』巻二十七、他
- 四言古詩。歌・何・多(平声歌韻)/慷・忘・康(平声陽韻)/衿・心・今(平声侵韻)/鳴・苹・笙(平声庚韻)/月(入声月韻)・掇(入声曷韻)・絶(入声屑韻)通押/阡(平声先韻)・存・恩(平声元韻)通押/稀・飛・依(平声微韻)/深・心(平声侵韻)。逐解換韻格(四句を一解といい、その一解ごとに換韻すること)。
- ウィキソース「短歌行 (曹操)」「樂府詩集/030卷」参照。
- 短歌行 … 楽府題。行は、歌・曲の意。
- 曹操 … 155~220。三国時代、魏の始祖。沛国譙(安徽省)の人。字は孟徳。幼名は阿瞞。184年、黄巾の乱を平定して名を挙げ、196年、献帝を擁して大将軍となった。200年、官渡の戦いで袁紹を破り、華北を統一した。208年、赤壁の戦いに敗れ、三国が併存することとなった。216年、魏王に封ぜられた。死後、武帝と称された。ウィキペディア【曹操】参照。
對酒當歌
酒に対しては当に歌うべし
- 対酒 … 酒を飲んでは。酒を飲んだら。
- 当 … 「まさに~べし」と読み、「当然~するべきだろう」と訳す。再読文字。
人生幾何
人生 幾何ぞ
- 人生 … 人の命。
- 幾何 … どのくらいあるものか、いかほどもない。
譬如朝露
譬えば朝露の如し
- 朝露 … 朝の露。人生の短さを朝露の消えやすいことに喩えたもの。
去日苦多
去日 苦だ多し
- 去日 … 過ぎ去った日。
- 苦 … 「はなはだ」と読む。「甚だ」「太だ」と同じ。程度が激しくてひどいこと。
- 去日苦多 … 過ぎ去った日は甚だ多いが、功績をなかなか挙げられない。
慨當以慷
慨して当に以て慷すべし
- 慨当以慷 … 「当に慨して慷すべし」(當慨而慷)、または「当に慷慨すべし」(當慷慨)の語順を換え、「以」を加えたものであろう。慷慨は、憤り嘆くこと。これを思えば、当然嘆き憤らずにはおれないだろう。
憂思難忘
憂思 忘れ難し
- 憂思 … 心配する心。憂慮。
- 憂 … 『古詩源』『古詩賞析』では「幽」に作る。
何以解憂
何を以てか憂いを解かん
- 解 … 消し去る。払う。
唯有杜康
唯だ杜康有るのみ
- 唯 … 「ただ~のみ」と読み、「ただ~だけ」「ただ~にすぎない」と訳す。限定の意を示す。『古詩源』『古詩賞析』では「惟」に作る。「唯」と同じ。
- 杜康 … 古代の伝説上の人で、初めて酒を作った人。ここでは酒を指す。
青青子衿
青青たる子が衿
- 青青子衿 … 青々としたあなたの襟。ここでは青襟の服を着た優れた若者。子は、成人した男子に対する敬称。あなた。『詩経』鄭風・子衿の詩の第一句。
悠悠我心
悠悠たる我が心
- 悠悠我心 … あなたを慕う私の思いは尽きない。悠悠は、ここでは思いがいつまでも続くさま。『詩経』鄭風・子衿の詩の第二句。
但爲君故
但だ君が為の故に
- 但 … 「ただ」と読み、「ただ~だけ」と訳す。限定の意を示す。
- 君 … 優れた若者を指す。
- 但為君故 … 『楽府詩集』には、この句がない。
沈吟至今
沈吟して今に至る
- 沈吟 … 深く思いに沈む。深く考え込む。
- 沈吟至今 … 『楽府詩集』には、この句がない。
呦呦鹿鳴
呦呦として鹿鳴き
- 呦呦 … 鹿のか細い鳴き声を表す擬声語。
- 呦呦鹿鳴 … 鹿はユウユウと鳴き交わす。『詩経』小雅・鹿鳴の詩の第一句。ウィキソース「詩經/鹿鳴」参照。
食野之苹
野の苹を食う
- 苹 … 草の名。よもぎ。
- 食 … 「食む」と読んでもよい。
- 食野之苹 … 野原のよもぎを食っている。『詩経』小雅・鹿鳴の詩の第二句。
我有嘉賓
我に嘉賓有り
- 嘉賓 … よい賓客。立派な客。ここでは優れた人材を指す。
- 我有嘉賓 … 『詩経』小雅・鹿鳴の詩の第三句。
鼓瑟吹笙
瑟を鼓し 笙を吹かん
- 瑟 … おおごと。二十五弦。
- 笙 … 管楽器の一つ。十九管または十三管の笛。
- 鼓瑟吹笙 … 宴席を設けて、瑟を奏で笙を吹いて歓迎しよう。『詩経』小雅・鹿鳴の詩の第四句。
明明如月
明明として月の如し
- 明明 … 明るく輝くさま。
何時可掇
何れの時にか掇る可けん
- 何時可掇 … いつになったら手に取ることができよう。掇は、手に取る。優れた人材の得難さの喩え。
憂從中來
憂いは中より来りて
- 憂 … 優れた人材がなかなか得られないという憂い。
- 中 … 胸中。心中。
- 従 … 「より」と読み、「~から」と訳す。時間・場所の起点の意を示す。「自」と同じ。
不可斷絕
断絶す可からず
- 不可断絶 … (憂いを)断ち切ることができない。
越陌度阡
陌を越え 阡を度り
- 陌 … 東西に通る道。
- 阡 … 南北に通る道。
- 越・度 … ともに、道を乗り越える。
枉用相存
枉げて用て相存す
- 枉 … 無理してわざわざ~してくださった。
- 用 … ~でもって。「以」とほぼ同じ。
- 相 … ここでは「互いに」という意味ではなく、動作に対象があることを示す言葉。
- 存 … 訪ねる。訪問する。
契闊談讌
契闊 談讌して
- 契闊 … ここでは久しぶりに再会すること(諸説あり)。
- 談讌 … 集まって歓談する。
心念舊恩
心に旧恩を念う
- 旧恩 … 昔のよしみ。昔の友情。
- 念 … ここでは温め直す。
月明星稀
月明らかに星稀にして
- 星稀 … 星がまばらであるさま。
烏鵲南飛
烏鵲 南に飛ぶ
- 烏鵲 … カササギ。仕官先を求める優れた人材に喩える。
繞樹三匝
樹を繞ること三匝
- 繞樹 … 木の周りを回ること。繞は、めぐる。周りを回る。
- 三匝 … 三周する。匝は、回る度数を数える言葉。
何枝可依
何れの枝にか依る可き
- 何枝可依 … さてどの枝に止まろうとするのであろうか。依は、ここでは枝に身を寄せること。枝に止まること。
山不厭高
山は高きを厭わず
- 山不厭高 … 山はいくらでも高くなることを嫌がらない。優れた人材をいくらでも求めようとすること。次の句とともに、『管子』形勢解篇の「海は水を辞せず、故に能く其の大を成す。山は土石を辞せず、故に能く其の高きを成す。明主は人を厭わず、故に能く其の衆きを成す」(海不辭水、故能成其大。山不辭土石、故能成其高。明主不厭人、故能成其眾)を踏まえる。ウィキソース「管子/第64篇形勢解」参照。
海不厭深
海は深きを厭わず
- 海不厭深 … 海はいくらでも深くなることを嫌がらない。前の句と同じく、優れた人材をいくらでも求めようとすること。
周公吐哺
周公 哺を吐きて
- 周公 … 文王の子。姓は姫、名は旦。兄の武王を助けて紂王を討った。武王の死後は、その子成王を補佐して周王朝の基礎を固めた。ウィキペディア【周公旦】参照。
- 吐哺 … 口の中の食べ物を吐き出すこと。哺は、口の中に含んだ食べ物。周公旦は客を迎えるのに、食事中のときは口の中の食べ物を吐き出し、洗髪中のときは髪を握ったまま面接したという故事から。優れた人材を得るのに熱心なことの喩え。『韓詩外伝』巻三に「吾の天下に於ける、亦た軽からず。然れども一沐に三たび髪を握り、一飯に三たび哺を吐くも、猶お天下の士を失わんことを恐る」(吾於天下、亦不輕矣。然一沐三握髮、一飯三吐哺、猶恐失天下之士)とある。ウィキソース「韓詩外傳/卷第3」参照。
天下歸心
天下 心を帰す
- 天下 … 天下の人々。
- 帰心 … 心を寄せる。心から従う。心から帰順する。信服する。『論語』堯曰篇に「天下の民心を帰す」(天下之民歸心焉)とある。
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