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七哀詩三首其一(王粲)

七哀詩三首其一
七(しち)哀(あい)の詩(し)三首(さんしゅ) 其(そ)の一(いち)
王(おう)粲(さん)
  • ウィキソース「七哀詩 (王粲)」参照。
  • 七哀 … 七種類の哀しみ。または、いろいろな悲しみ。
  • 三首 … 『六臣註文選』巻二十三(『四部叢刊 初編集部』所収)には第一首と第二首(荊蠻非我郷……)が収録されており、第三首(邊城使心悲……)は『古文苑』巻八(『四部叢刊 初編集部』所収)に収録されている。
  • 王粲 … 177~217。三国魏の文学者、詩人。山陽郡高平(山東省)の人。建安七子の第一人者。字(あざな)は仲(ちゅう)宣(せん)。曹操に仕え、侍中となった。その詩と賦は哀愁を帯びている。ウィキペディア【王粲】参照。
西京亂無象
西京(せいけい) 乱(みだ)れて象(みち)無(な)く
  • 西京 … 西の都長安を指す。東京(とうけい)洛陽に対する言い方。
  • 象 … 道。法。秩序。
豺虎方遘患
豺(さい)虎(こ) 方(まさ)に患(わざわい)を遘(かま)う
  • 豺虎 … 山犬と虎。粗暴で残酷な悪人に喩える。ここでは董卓(とうたく)の死後、覇権を争った軍閥の李(り)傕(かく)・郭(かく)汜(し)らを指す。
  • 方 … ちょうど。
  • 遘患 … 戦乱などの災いをなすこと。
復棄中國去
復(ま)た中(ちゅう)国(ごく)を棄(す)てて去(さ)り
  • 復棄 … 「復」は「また」と読み、「もう一度」「再び」と訳す。ちなみに「亦」は「~(も)また」と読み、「~も同様に」と訳す。「又」も「また」と読み、「さらにまた」「その上にまた」「またもや」と訳す。ここでは、作者が最初に洛陽を棄てて長安に移り、再び長安から荊州(現在の湖北省)へ移ったことを指す。
  • 中国 … 中原の地。都がある地方。黄河中流域の長安から洛陽の辺り。
遠身適荊蠻
身(み)を遠(とお)ざけて荊蛮(けいばん)に適(ゆ)く
  • 遠身 … 遠くへ身を寄せる。遠くへ避難する。『古詩源』『古詩賞析』では「委身」に作る。
  • 荊蠻 … 南蛮荊州(現在の湖北省)の地。
  • 適 … 行く。
親戚對我悲
親戚(しんせき) 我(われ)に対(むか)いて悲(かな)しみ
  • 対我 … 私と向き合って。私を前にして。
朋友相追攀
朋友(ほうゆう) 相(あい)追攀(ついはん)す
  • 朋友 … 友人。
  • 相 … ここでは「互いに」という意味ではなく、動作に対象があることを示す接頭語。「(対象に)~する」「(対象を)~する」と訳す。
  • 追攀 … 追いすがって別れを惜しむ。
出門無所見
門(もん)を出(い)づれば見(み)る所(ところ)無(な)く
  • 出門 … 城門を出れば。
  • 無所見 … 荒れ果てて見渡す限り何もない。
白骨蔽平原
白骨(はっこつ) 平原(へいげん)を蔽(おお)う
  • 白骨蔽平原 … 戦禍で犠牲になった人々の白骨が平野を埋め尽くしている。
路有飢婦人
路(みち)に飢(う)えたる婦(ふ)人(じん)有(あ)り
  • 路 … 道端に。
抱子棄草間
子(こ)を抱(いだ)きて草間(そうかん)に棄(す)つ
  • 抱子 … 子どもを抱いていたが。
  • 棄草間 … 草むらに棄てた。
顧聞號泣聲
顧(かえり)みて号(ごう)泣(きゅう)の声(こえ)を聞(き)くも
  • 顧 … 振り返って。
揮涕獨不還
涕(なみだ)を揮(ふる)いて独(ひと)り還(かえ)らず
  • 揮涕 … 涙をぬぐいながらも。涕は、涙。揮は、手で拭(ぬぐ)う。
  • 独不還 … 我が子のもとへ決して戻ることはしない。
未知身死處
未(いま)だ身(み)の死(し)する処(ところ)を知(し)らず
  • 未 … 「いまだ~(せ)ず」と読み、「まだ~しない」と訳す。再読文字。
  • 未知身死処 … まだ私自身がどこで死ぬかわからないのに。
何能兩相完
何(なん)ぞ能(よ)く両(ふた)つながら相(あい)完(まった)からん
  • 何能 … どうして~できようか(いや、できない)。反語。
  • 両 … 「ふたつながら」と読む。二人とも。
  • 完 … 無事に生き延びること。
驅馬棄之去
馬(うま)を駆(か)って之(これ)を棄(す)て去(さ)る
  • 駆馬 … 馬に鞭をあてて走らせる。
  • 棄之去 … その婦人と子を見捨てて立ち去った。之は、その母子。
不忍聽此言
此(こ)の言(げん)を聴(き)くに忍(しの)びず
  • 此言 … 婦人の言葉。
  • 聴 … 耳を向けてきく。耳を傾ける。
  • 不忍 … 忍びない。耐えない。
南登霸陵岸
南(みなみ)のかた覇(は)陵(りょう)の岸(きし)に登(のぼ)り
  • 南 … 「みなみのかた」と読み、「南に向かって」「南のほうで」「南の方角で」と訳す。
  • 覇陵 … 前漢の文帝(在位前180~前157)の陵墓。今の陝西省西安市の東にあり、傍らを灞(は)水(すい)が流れている。ウィキペディア【文帝 (漢)】参照。
  • 岸 … 高台。水ぎわの意ではない。
迴首望長安
首(こうべ)を迴(めぐ)らして長(ちょう)安(あん)を望(のぞ)む
  • 迴首 … 振り返って。振り向いて。
  • 望長安 … 遥か長安の方を眺める。
悟彼下泉人
悟(さと)る 彼(か)の下(か)泉(せん)の人(ひと)
  • 悟 … わかる。
  • 下泉人 … 『詩経』曹風・下泉の作者の気持ち。下泉は、悪政に苦しむ民衆が周王室の善政を慕う詩。ウィキソース「詩經/下泉」参照。
喟然傷心肝
喟(き)然(ぜん)として心肝(しんかん)を傷(いた)ましむるを
  • 喟然 … ため息をつくさま。嘆息するさま。
  • 傷心肝 … 心を痛める。心肝は、心臓と肝臓。転じて、心。心の底。
詩型・韻字
  • 五言古詩。
  • 患・蠻・攀(上平声刪韻)、原(上平声元韻)、間・還(上平声刪韻)、完(上平声寒韻)、言(上平声元韻)、安・肝(上平声寒韻)通押。
テキスト
  • 『先秦漢魏晋南北朝詩』魏詩 巻二(逯欽立輯校、中華書局、1983年)
  • 『古詩源』巻六 魏詩(中国古典文学基本叢書、中華書局、1963年)
  • 『古詩賞析』巻九 魏詩(『漢文大系 第十八巻』、冨山房、1914年)
  • 『六臣註文選』巻二十三(『四部叢刊 初編集部』所収、上海涵芬楼蔵宋刊本)
歴代詩選
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巻三 五言律詩 巻四 五言排律
巻五 七言律詩 巻六 五言絶句
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