楓橋夜泊(張継)
楓橋夜泊
楓橋夜泊
楓橋夜泊
- 〔テキスト〕 『唐詩選』巻七、『唐詩三百首』七言絶句、『三体詩』七言絶句・実接、『全唐詩』二百四十二、『中興間気集』巻下、『唐詩別裁集』巻二十、『唐詩紀事』巻二十五(『四部叢刊 初編集部』所収)、『文苑英華』巻二百九十二、『唐詩品彙』巻五十、趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻二十六(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)、『古今詩刪』巻二十二(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、62頁)、『唐百家詩選』巻九、『唐人万首絶句選』巻四、他
- 七言絶句。天・眠・船(平声先韻)。
- ウィキソース「楓橋夜泊」参照。
- 詩題 … 『中興間気集』では「夜泊(一作宿)松江」に作る。『全唐詩』には題下に「一作夜泊楓江」とある。松江は、呉淞江(蘇州河)を指す。黄浦江(長江の支流)の支流で、太湖の瓜涇口を源とし、上海に入って蘇州河と呼ばれ、黄浦江に注ぐ。ウィキペディア【呉淞江】参照。『元和郡県図志』江南道、蘇州の条に「松江は、県の南五十里に在り、昆山を経て海に入る」(松江、在縣南五十里、經昆山入海)とある。ウィキソース「元和郡縣圖志/卷25」参照。『読史方輿紀要』江南、三江の条に「淞江は一名笠沢、一名松陵江、一名呉淞江」(淞江一名笠澤、一名松陵江、一名吳淞江)とある。ウィキソース「讀史方輿紀要/卷十九」参照。『中興間気集』は、作者在世の中唐に編纂されたもので、この詩を収めた総集としては最も古い。従って本来は楓橋の付近ではなく、松江であった可能性が高い。
- 楓橋 … 江蘇省蘇州市西郊の運河に架かる石橋の名。『大明一統志』に「楓橋は府城の西七里に在り。山に面し水に臨み、以て遊息す可し。南北往来するに、必ず此を経」(楓橋在府城西七里。面山臨水、可以遊息。南北往來、必經於此)とある。ウィキソース「明一統志 (四庫全書本)/卷08」参照。楓橋は、古くは封橋と書いたという。『大清一統志』に「楓橋は閶門外西九里に在り。宋の周遵道『豹隠紀談』に旧と封橋に作るも、後に唐の張継の詩に因りて相承けて楓に作る」(楓橋在閶門外西九里。宋周遵道豹隱紀談舊作封橋、後因唐張繼詩相承作楓)とある。ウィキソース「欽定大清一統志 (四庫全書本)/卷055」参照。
- 夜泊 … 夜、船中に泊まること。
- この詩は、作者が旅の途中、楓橋のほとりに船を留めて一泊したときの作。
- 張継 … 生没年不詳。中唐の詩人。襄州(湖北省襄州区)の人。字は懿孫。天宝十二年(753)、進士に及第。官は検校祠部郎中に至る。『張祠部詩集』一巻がある。ウィキペディア【張継】参照。
月落烏啼霜滿天
月落ち 烏啼いて 霜天に満つ
- 月落 … 月が沈むこと。陰暦七日頃より前の月は、夜半に西に沈む。陸厥の「京兆歌」(『楽府詩集』巻八十四)に「雁起ちて宵未だ央ならず、雲間月将に落ちんとす」(雁起宵未央、雲間月将落)とある。ウィキソース「樂府詩集/084卷」参照。また劉禹錫の「踏歌詞四首 其の三」に「月落ち烏啼いて雲雨散じ、遊童陌上花鈿を拾う」(月落烏啼雲雨散、遊童陌上拾花鈿)とある。陌上は、畦道の辺り。花鈿は、花かんざし。ウィキソース「踏歌詞四首」参照。
- 烏啼 … 烏が鳴く。夜半に鳴いたという説と、明け方に鳴いたという説とに分かれる。烏が夜半に鳴くのは、「烏夜啼」という楽府題があるように、昔から詩材として詠まれている。
- 霜満天 … 霜の降りるような寒さが一面に満ちわたる。『礼記』月令篇、季秋之月に「是の月や、霜始めて降り、則ち百工休む」(是月也、霜始降、則百工休)とある。ウィキソース「禮記/月令」参照。
江楓漁火對愁眠
江楓 漁火 愁眠に対す
- 江楓 … 川のほとりの楓。『文苑英華』では「江村」に作る。『万首唐人絶句』では「江邨」に作る。「邨」は「村」の異体字。
- 漁火 … いさり火。夜、魚を取るために船でたく火。『全唐詩』では「漁父」に作り、「一作火」とある。また、『文苑英華』でも「漁父」に作り、「詩選作江楓漁火」とある。
- 愁眠 … 旅の寂しさから、寝つかれずうつらうつらしていること。
姑蘇城外寒山寺
姑蘇城外の寒山寺
- 姑蘇城 … 蘇州の古名。姑蘇山にちなんで名付けられた。『大明一統志』蘇州府に「隋の開皇中に改めて蘇州と曰うは、姑蘇山に因りて名を為す」(隋開皇中改曰蘇州、因姑蘇山爲名)とある。ウィキソース「明一統志 (四庫全書本)/卷08」参照。城は、城壁で囲まれた町全体を指す。城市。
- 寒山寺 … 蘇州市の郊外にある寺。楓橋から東南約二百メートルに位置する。ウィキペディア【寒山寺】参照。なお、当時は寒山寺と呼ばれておらず、妙利普明塔院・普明禅院・楓橋寺などと呼ばれていた。したがって、ここは「寒山寺」という固有名詞ではなく、「寒山(晩秋の寒々とした山)の寺」というのが本来の解釈であろう。
夜半鐘聲到客船
夜半の鐘声 客船に到る
- 夜半 … 夜中。『文苑英華』では「半夜」に作り、「詩選作夜半」とある。
- 夜半鐘声 … 夜半に撞く鐘の音。欧陽脩(1007~1072)は、三更(真夜中)に鐘をつくことはないと批判している。『六一詩話』に「詩人好句を貪り求めて、理の通ぜざる有り、亦た語病なり。……句は則ち佳なるも、其れ三更は是れ鐘を打つの時ならざるを如せん」(詩人貪求好句、而理有不通、亦語病也。……句則佳矣、其如三更不是打鐘時)とある。ウィキソース「六一詩話」参照。しかし、これは誤りで、唐代、寺院では夜半に鐘をつく習慣があり、夜半につく鐘を分夜鐘といった。
- 客船 … 客を乗せる船。作者が乗っていた船を指す。
- 船 … 『古今詩刪』では「舩」に作る。異体字。『中興間気集』では「舡」に作る。俗字。
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