聴角思帰(顧況)
聽角思歸
角を聴いて帰るを思う
角を聴いて帰るを思う
- 〔テキスト〕 『唐詩選』巻七、『全唐詩』巻二百六十七、『顧況集』巻下(『唐五十家詩集』所収)、『唐詩品彙』巻五十、趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻十五(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)、『古今詩刪』巻二十二(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、62頁)、『唐人万首絶句選』巻四、他
- 七言絶句。苔・哀・徊(平声灰韻)。
- ウィキソース「聽角思歸 (顧況)」参照。
- 角 … 軍中で吹く角笛の音。角笛は、軍隊で時刻を告げるために打ち鳴らす。『楽書』に「革角は長さ五尺、形は竹筒の如し。本細く末大なり。唐の鹵簿及び軍中に之を用う。或いは竹木を以てし、或いは皮を以てし、定制有ること非ざるなり」(革角長五尺、形如竹筒。本細末大。唐鹵簿及軍中用之。或以竹木、或以皮、非有定制也)とある。鹵簿は、天子の行列。ウィキソース「樂書 (四庫全書本)/卷140」参照。
- 思帰 … 望郷の念。故郷に帰りたいと思うこと。帰郷の思いにかられること。
- この詩は、作者が角笛の音を聞いて、望郷の思いにかられて詠んだもの。饒州(江西省)に貶せられていたときの作。
- 顧況 … 725~814?。中唐の詩人。蘇州海塩県(今の浙江省嘉興市海塩県)の人。字は逋翁。至徳二載(757)、進士に及第。秘書郎、著作郎となった後、饒州(江西省)の司戸参軍に左遷された。晩年は家族を連れて茅山(今の江蘇省鎮江市句容県の東南)に隠棲し、華陽真逸と号した。『華陽真逸詩』二巻がある。ウィキペディア【顧況】参照。
故園黃葉滿靑苔
故園の黄葉 青苔に満つ
- 故園 … 故郷の庭園。
- 黄葉 … 黄色い落ち葉。
- 青苔 … 青い苔。
- 満 … (苔の上に)散り敷いている。
夢後城頭曉角哀
夢後 城頭 暁角哀し
- 夢後 … 夢が覚めたあと。夢は、ふるさとの庭の情景を指す。
- 後 … 『唐人万首絶句選』では「破」に作る。
- 城頭 … 町の城壁の上から。
- 暁角 … 暁の時を告げる角笛(の音)。
- 哀 … 悲しげに鳴り響く。
此夜斷腸人不見
此の夜 断腸 人は見えず
- 此夜 … 今宵(の私は)。
- 断腸 … 非常に悲しい様子。腸がちぎれるほどの悲痛な思い。後漢の蔡琰の「胡笳十八拍」(『楽府詩集』巻五十九、『楚辞後語』巻三)の第五拍に「雁飛ぶこと高く、邈かにして尋ね難し、空しく腸を断ちて思い愔愔たり」(雁飛高兮邈難尋、空斷腸兮思愔愔)とある。ウィキソース「胡笳十八拍」「樂府詩集/059卷」「楚辭集注 (四庫全書本)/後語卷3」参照。また魏の文帝(曹丕)の「燕歌行」(『文選』巻二十七、『玉台新詠』巻九)に「群燕辞し帰り雁南に翔る、君が客遊を念うて思い腸を断つ」(群燕辭歸雁南翔、念君客遊思斷腸)とある。ウィキソース「燕歌行 (曹丕)」参照。
- 人不見 … 故郷にいる思う人の姿は夢にさえ出てこなかった。李白の「峨眉山月の歌」に「君を思えども見えず渝州に下る」(思君不見下渝州)とある。ウィキソース「峨眉山月歌」参照。
起行殘月影徘徊
起ちて残月に行けば 影徘徊す
- 起行 … 寝床から起き上がって(庭に)行けば。
- 残月 … 明け方の空に消えずに残っている月。有明の月。名残の月。残んの月。
- 月 … 中華書局本『全唐詩』では「日」に作る。中華書局本の底本である揚州詩局本では「月」になっており、誤植であろう。
- 影 … わが影。または、月影。
- 徘徊 … 行ったり来たりする。うろうろと歩き回る。魏の曹植の「七哀の詩」(『文選』巻二十三)に「明月高楼を照らし、流光正に徘徊す」(明月照高樓、流光正徘徊)とある。ウィキソース「七哀詩 (曹子建)」参照。また梁の元帝の「傷別離」(『玉台新詠』巻七、『楽府詩集』巻二十三では「関山月」)に「月中桂樹を含み、流影自ずから徘徊す」(月中含桂樹、流影自徘徊)とある。ウィキソース「傷別離」「樂府詩集/023卷」参照。
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