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曾山送別(皇甫冉)

曾山送別
曾山(そうざん)送別(そうべつ)
皇(こう)甫(ほ)冉(ぜん)
  • 七言絶句。蓬・同・中(上平声東韻)。
  • ウィキソース「魯山送別」参照。
  • 詩題 … 「曾山にて別れを送る」と読んでもよい。『全唐詩』では「魯山送別」に作り、題下に「一作曾山送別、一作劉長卿詩」と注する。
  • 曾山 … 場所は不明。『大明一統志』に「曾山(そうざん)は遂(すい)昌(しょう)県(けん)の西(にし)二(に)十(じゅう)里(り)に在(あ)り、一名(いちめい)西山(せいざん)、又(また)文筆(ぶんぴつ)峰(ほう)と名(な)づく」(曾山在遂昌縣西二十里、一名西山、又名文筆峰)とある。遂昌県は、浙江省麗水市に位置する県。ウィキソース「明一統志 (四庫全書本)/卷44」参照。また、釈大典『唐詩解頤』に「疑(うたが)うらくは是(こ)れ常州(じょうしゅう)府(ふ)の甑山(そうざん)ならん、蓋(けだ)し冉(ぜん)、無(む)錫(しゃく)の尉(い)たりし時(とき)の作(さく)」(疑是常州府甑山、盖冉為無錫尉時作)とある。『全唐詩』では魯山となっており、河南省魯山県の東北にある山を指す。『読史方輿紀要』河南、魯山県に「魯(ろ)山(ざん)は、県(けん)の東北(とうほく)八(はち)十(じゅう)里(り)に在(あ)り。山(やま)高(たか)く聳(そび)え、群山(ぐんざん)を迥(けい)出(しゅつ)し、一邑(いちゆう)の巨鎮(きょちん)と為(な)し、此(ここ)を以(もっ)て名(な)づく。一名(いちめい)露(ろ)山(ざん)」(魯山、在縣東北八十里。山高聳、迥出羣山、爲一邑巨鎮、縣以此名。一名露山)とある。ウィキソース「讀史方輿紀要/卷五十一」参照。魯山であるならば、作者が河南節度使の王縉(おうしん)の幕下で書記をしていたときの作ということになる。
  • 送別 … 別れていく人を見送る。
  • この詩は、曾山で別れていく人を見送ったときに詠んだもの。曾山の場所および見送られた人物については不詳。
  • 皇甫冉 … 716?~770?。中唐の詩人。姓は皇甫(二字姓)。潤州丹陽(江蘇省丹陽市)の人。字(あざな)は茂政。天宝十五載(756)、進士に及第。無錫(江蘇省無錫市)の尉に任命され、最後は右補闕に至った。弟は皇甫曾(そう)。『唐皇甫冉詩集』七巻がある。ウィキペディア【皇甫冉】参照。
凄凄遊子若飄蓬
凄凄(せいせい)たる遊(ゆう)子(し) 飄(ひょう)蓬(ほう)の若(ごと)し
  • 凄凄 … 元は冷たい風が吹いたり、雨が降りしきることの形容。ここでは落ちぶれて、寂しく辛(つら)いさま。『詩経』鄭風・風雨に「風(ふう)雨(う)淒淒(せいせい)たり、鶏鳴(けいめい)喈喈(かいかい)たり」(風雨淒淒、雞鳴喈喈)とあり、その集伝に「淒淒(せいせい)は寒凉の気」(凄凄寒凉之氣)とある。淒は、凄に同じ。ウィキソース「詩經/風雨」参照。また、前漢の卓文君の楽府「白頭吟」(『玉台新詠』巻一、『楽府詩集』巻四十一、『古詩源』巻二)に「凄凄(せいせい)復(ま)た凄凄(せいせい)たり、嫁(か)娶(しゅ)に啼(な)くを須(もち)いず」(凄凄復凄凄、嫁娶不須啼)とある。卓文君は、司馬相如の妻。『玉台新詠』では詩題を「皚(がい)たること山(さん)上(じょう)の雪の如し」に作る。嫁娶は、嫁に行くこと。『楽府詩集』では「淒淒重淒淒、嫁娶亦不啼」に作る。ウィキソース「皚如山上雪」「樂府詩集/041卷」参照。
  • 遊子 … 旅人の君。
  • 飄蓬 … 風に吹かれてころがり飛ばされてゆく蓬草(ほうそう)。落ちぶれた流浪の身に譬える。転蓬。飛蓬。三国魏の曹植「雑詩六首」(『文選』巻二十九)の第二首に「転蓬(てんぽう)は本根(ほんこん)より離(はな)れ、飄(ひょう)颻(よう)として長(ちょう)風(ふう)に随(したが)う」(轉蓬離本根、飄颻隨長風)とある。本根は、もとの根。飄颻は、風に翻るさま。長風は、遠くから吹いてくる風。ウィキソース「昭明文選/卷29」参照。また、南朝陳の張正見の楽府「白頭吟」(『文苑英華』巻二百七、『楽府詩集』巻四十一)に「顔(かお)は花(はな)の如(ごと)く落槿(らくきん)し、鬢(びん)は雪(ゆき)に似(に)て飄(ひょう)蓬(ほう)す」(顏如花落槿、鬢似雪飄蓬)とある。ウィキソース「樂府詩集/041卷」参照。
  • 若 … 『唐詩選』では「苦」に作る。
明月清樽祗暫同
明月(めいげつ)清樽(せいそん) 祗(た)だ暫(しばら)く同(おな)じうす
  • 清樽 … 清らかな酒をたたえた樽。古楽府「古歌」に「清樽(せいそん)朱顔(しゅがん)を発(はっ)し、四坐(しざ)楽(たの)しみて且(か)つ康(やす)し」(淸樽發朱顏、四坐樂且康)とある。朱顔は、酔って赤みを帯びた顔。四坐は、その座にいるすべての人。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷017」参照。
  • 祗 … ただ。只に同じ。
  • 暫同 … しばらくはともに酒を傾けよう。
南望千山如黛色
南(みなみ)のかた千山(せんざん)を望(のぞ)めば黛(たい)色(しょく)の如(ごと)し
  • 南 … 「みなみのかた」と読み、「南に向かって」「南のほうで」「南の方角で」と訳す。
  • 千山 … 多くの山々。
  • 望 … 眺める。遠望する。
  • 黛色 … まゆずみの色。かすんで見える遠山の青黒い色に喩える。『釈名(しゃくみょう)』釈首飾篇に「黛(まゆずみ)は代(しろ)なり。眉(び)毛(もう)を滅(めっ)して之(これ)を去(さ)り、此(ここ)を以(もっ)て画(えが)きて、其(そ)の処(ところ)に代(かわ)るなり」(黛代也。滅眉毛去之、以此畫、代其處也)とある。ウィキソース「釋名」参照。また、南朝梁の何遜「照水聯句」詩(『古詩紀』巻九十四)に「橋(はし)に臨(のぞ)んで黛(たい)色(しょく)を看(み)、渚(なぎさ)に映(えい)じて鉛(えん)暉(き)に媚(こ)ぶ」(臨橋看黛色、映渚媚鉛暉)とある。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷094」参照。
愁君客路在其中
愁(うれ)う 君(きみ)が客(かく)路(ろ) 其(そ)の中(うち)に在(あ)るを
  • 愁 … 憂愁に閉ざされる思いである。憂愁に堪えない。
  • 客路 … 旅路。(君の)行く道。
  • 在其中 … 君の行く旅路がその中にあるのかと思うと。あのかすみの中に分け入ることかと思うと。『論語』述而篇に「楽(たの)しみ亦(ま)た其(そ)の中(うち)に在(あ)り」(樂亦在其中矣)とある。ウィキソース「論語/述而第七」参照。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻七(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
  • 『全唐詩』巻二百五十(排印本、中華書局、1960年)
  • 『唐皇甫冉詩集』巻七(『四部叢刊 三編集部』所収)
  • 『皇甫冉集』巻下(明銅活字本、『唐五十家詩集』所収、上海古籍出版社、1989年)
  • 趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻十五(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)
  • 『唐詩品彙』巻四十九([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
  • 『古今詩刪』巻二十二(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、汲古書院)
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