曾山送別(皇甫冉)
曾山送別
曾山送別
曾山送別
- 〔テキスト〕 『唐詩選』巻七、『全唐詩』巻二百五十、『唐皇甫冉詩集』巻七(『四部叢刊 三編集部』所収)、『皇甫冉集』巻下(『唐五十家詩集』所収)、『唐詩品彙』巻四十九、趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻十五(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)、『古今詩刪』巻二十二(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、62頁)、他
- 七言絶句。蓬・同・中(平声東韻)。
- ウィキソース「魯山送別」参照。
- 詩題 … 「曾山にて別れを送る」と読んでもよい。
- 曾 … 『全唐詩』では「魯」に作り、「一作曾」とある。また題下に「一作劉長卿詩」とある。『唐五十家詩集本』『万首唐人絶句』『古今詩刪』では「曽」に作る。「曾」の異体字。
- 曾山 … 場所は不明。『大明一統志』に「曾山は遂昌県の西二十里に在り、一名西山、又文筆峰と名づく」(曾山在遂昌縣西二十里、一名西山、又名文筆峰)とある。遂昌県は、浙江省麗水市に位置する県。ウィキソース「明一統志 (四庫全書本)/卷44」参照。また釈大典の『唐詩解頤』に「疑うらくは是れ常州府の甑山ならん、蓋し冉、無錫の尉たりし時の作」(疑是常州府甑山、盖冉為無錫尉時作)とある。『全唐詩』では魯山となっており、河南省魯山県の東北にある山を指す。『読史方輿紀要』河南、魯山県に「魯山は、県の東北八十里に在り。山高く聳え、群山を迥出し、一邑の巨鎮と為し、此を以て名づく。一名露山」(魯山、在縣東北八十里。山高聳、迥出羣山、爲一邑巨鎮、縣以此名。一名露山)とある。ウィキソース「讀史方輿紀要/卷五十一」参照。魯山であるならば、作者が河南節度使の王縉の幕下で書記をしていた時の作ということになる。
- 送別 … 別れていく人を見送る。
- この詩は、曾山で別れていく人を見送ったときに詠んだもの。曾山の場所および見送られた人物については不明。
- 皇甫冉 … 716~769。中唐の詩人。皇甫は姓(二字姓)。潤州丹陽(江蘇省丹陽市)の人。字は茂政。天宝十五載(756)、進士に及第。無錫(江蘇省無錫市)の尉に任命され、最後は右補闕に至った。弟は皇甫曾。『唐皇甫冉詩集』七巻がある。ウィキペディア【皇甫冉】参照。
凄凄遊子若飄蓬
凄凄たる遊子 飄蓬の若し
- 凄凄 … 元は冷たい風が吹いたり、雨が降りしきることの形容。ここでは落ちぶれて、寂しく辛いさま。『詩経』鄭風・風雨の詩に「風雨淒淒たり、鶏鳴喈喈たり」(風雨淒淒、雞鳴喈喈)とあり、『集伝』(朱子の注)に「淒淒は寒凉の気」(凄凄寒凉之氣)とある。淒は凄に同じ。ウィキソース「詩經/風雨」参照。また卓文君の「白頭吟」(『玉台新詠』巻一、『楽府詩集』巻四十一、『古詩源』巻二)に「凄凄復た凄凄たり、嫁娶に啼くを須いず」(凄凄復凄凄、嫁娶不須啼)とある。卓文君は、司馬相如の妻。『玉台新詠』では詩題を「皚たること山上の雪の如し」に作る。嫁娶は、嫁に行くこと。『楽府詩集』では「淒淒重淒淒、嫁娶亦不啼」に作る。ウィキソース「皚如山上雪」「樂府詩集/041卷」参照。
- 遊子 … 旅人の君。
- 飄蓬 … 風に吹かれてころがり飛ばされてゆく蓬草。落ちぶれた流浪の身に譬える。転蓬。飛蓬。曹植の「雑詩六首 其の二」(『文選』巻二十九)に「転蓬は本根より離れ、飄颻として長風に随う」(轉蓬離本根、飄颻隨長風)とある。本根は、もとの根。飄颻は、風に翻るさま。長風は、遠くから吹いてくる風。ウィキソース「昭明文選/卷29」参照。また張正見の「白頭吟」(『文苑英華』巻二百七、『楽府詩集』巻四十一)に「顔は花の如く落槿し、鬢は雪に似て飄蓬す」(顏如花落槿、鬢似雪飄蓬)とある。ウィキソース「樂府詩集/041卷」参照。
- 若 … 『唐詩選』では「苦」に作る。
明月清樽祗暫同
明月清樽 祗だ暫く同じうす
- 清樽 … 清らかな酒をたたえた樽。古楽府の「古歌」(『古詩紀』巻十七)に「清樽朱顔を発し、四坐楽しみて且つ康し」(淸樽發朱顏、四坐樂且康)とある。朱顔は、酔って赤みを帯びた顔。四坐は、その座にいるすべての人。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷017」参照。
- 樽 … 『全唐詩』『四部叢刊本』『唐五十家詩集本』では「罇」に作る。『万首唐人絶句』『古今詩刪』では「尊」に作る。ともに同義。
- 祗 … ただ。只に同じ。
- 暫同 … しばらくはともに酒を傾けよう。
南望千山如黛色
南のかた千山を望めば黛色の如し
- 南 … 「みなみのかた」と読み、「南に向かって」「南のほうで」「南の方角で」と訳す。
- 千山 … 多くの山々。
- 望 … 眺める。遠望する。
- 黛色 … まゆずみの色。かすんで見える遠山の青黒い色に喩える。『釈名』釈首飾篇に「黛は代なり。眉毛を滅して之を去り、此を以て画きて、其の処に代るなり」(黛代也。滅眉毛去之、以此畫、代其處也)とある。ウィキソース「釋名」参照。また南朝梁の何遜の「照水聯句」(『古詩紀』巻九十四)に「橋に臨んで黛色を看、渚に映じて鉛暉に媚ぶ」(臨橋看黛色、映渚媚鉛暉)とある。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷094」参照。
愁君客路在其中
愁う 君が客路 其の中に在るを
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