>   漢詩   >   唐詩選   >   巻六 五絶   >   秋日(耿湋)

秋日(耿湋)

秋日
しゅうじつ
こう
  • ウィキソース「秋日 (反照入閭巷)」参照。
  • この詩は、村里における秋の日暮れの寂しい景色を詠んだもの。
  • 詩題 … 『文苑英華』では作者を「王昌齢」に作り、「文粋は耿緯に作る」(文粹作耿緯)と注する。『唐文粋』では「耿緯」に作る。『極玄集』では「耿湋」に作り、「或いは緯に作る」(或作緯)と注する。
  • 耿湋 … 736~787。中唐の詩人、政治家。耿緯あるいは耿偉とも書く。あざな洪源こうげん。河東(山西省永済えいさい市)の人。宝応二年(763)、進士に及第。官はしゅうに至る。盧綸、銭起、司空曙、韓翃らと共に大暦たいれきじっさいの一人。『耿拾遺詩集』一巻がある。ウィキペディア【耿湋】参照。
返照入閭巷
へんしょう 閭巷りょこう
  • 返照 … 夕日の照り返し。北周の庾信「北園に新斎の成り、趙王のきょうに応ず」詩(『古詩紀』巻一百二十五)に「月はかかりて唯だ返照あり、蓮は開きて長く倒垂とうすいす」(月懸唯返照、蓮開長倒埀)とある。新斎は、新しい斎館。教は、教令(君主の命令)。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷125」参照。また、盛唐の杜甫「返照」詩に「返照 江にりて石壁にひるがえり、帰雲 を擁して山村をしっす」(返照入江翻石壁、歸雲擁樹失山村)とある。江は、長江。ウィキソース「全唐詩/卷230」参照。
  • 返 … 「反」に作るテキストもある。同義。
  • 閭巷 … 村里。閭は、村里の入り口の門。巷は、村里の路地。『史記』游俠伝に「季次きじ・原憲のごときに及びては、閭巷の人なり」(及若季次原憲、閭巷人也)とある。季次・原憲は、ともに孔子の弟子。季次は、公皙こうせきあいあざな。『論語』には登場しないが、『孔子家語』に見える。ウィキソース「史記/卷124」参照。
  • 閭 … 『文苑英華』には「文粹作窮」と注する。
憂來誰共語
うれきたりて たれともにかかたらん
  • 憂来 … 憂いがわき起こる。憂いが込み上げる。三国魏の文帝(曹丕)の楽府「善哉行」(『文選』巻二十七)に「憂いきたりてほう無く、人の之を知る莫し」(憂來無方、人莫之知)とある。ウィキソース「善哉行(曹丕)」参照。また、西晋の張載「七哀の詩二首」(『文選』巻二十三)の第二首に「憂いきたりて髪をして白からしむ、たれか云う 愁いはう可しと」(憂來令髮白、誰雲愁可任)とある。う可しとは、堪え忍ぶことができること。ウィキソース「七哀詩 (張孟陽)」参照。
  • 憂 … 『文苑英華』には「一作愁」と注する。
  • 憂來誰共 … 『全唐詩』では「憂來與誰」に作り、「一作愁來誰共」と注する。『唐五十家詩集本』『唐文粋』『文苑英華』『才調集』『唐詩紀事』『極玄集』『唐百家詩選』では「誰共」を「與誰」に作る。『唐詩別裁集』では「誰共」を「誰與」に作る。
  • 誰共語 … 誰と語り合えばよいのだろう、語るべき相手もない。反語。南朝梁の呉均「春詠」詩(『玉台新詠』巻六)に「共に語るを得るによし無し、空しく対す相思のはいに」(無由得共語、空對相思杯)とある。ウィキソース「春詠 (吳均)」参照。
古道少人行
どう 人行じんこうまれなり
  • 古道 … 古びた道。荒れた田舎道。盛唐の李白「雍尊師の隠居を尋ぬ」詩(『全唐詩』巻一百八十二)に「雲をひらいて古道を尋ね、石にって流泉を聴く」(撥雲尋古道、倚石聽流泉)とある。ウィキソース「尋雍尊師隱居」参照。
  • 少人行 … する人がほとんどない。行きう人も稀である。『史記』日者伝に「天新たに雨ふり、道に人すくなし」(天新雨、道少人)とある。ウィキソース「史記/卷127」参照。
  • 少 … 『全唐詩』および『極玄集』では「無」に作り、「一作少」と注する。『文苑英華』でも「無」に作り、「詩選作少」と注する。『唐五十家詩集本』『唐文粋』『才調集』『唐詩紀事』『唐詩別裁集』でも「無」に作る。
秋風動禾黍
しゅうふう しょうごかす
  • 秋風 … 秋風あきかぜだけが。『楚辞』九章・抽思に「秋風のようを動かすを悲しむ、何ぞかいきょく浮浮ふふたる」(悲秋風之動容兮、何回極之浮浮)とある。容を動かすとは、草木の様子を変えること。回極は、回転する天の枢軸。浮浮は、慌ただしいさま。さすらい行くさま。ウィキソース「楚辭/九章」参照。また、同じく九歌・湘夫人に「嫋嫋じょうじょうたる秋風、洞庭波だちて木葉もくようくだる」(嫋嫋兮秋風、洞庭波兮木葉下)とある。嫋嫋は、風がそよそよと吹くさま。ウィキソース「九歌」参照。また、同じく九懐・蓄英に「秋風蕭蕭しょうしょうたり、ほうべてえだを振るう」(秋風兮蕭蕭、舒芳兮振條)とある。ウィキソース「九懷」参照。また、古楽府「古歌」(『古詩紀』巻十七)に「秋風蕭蕭として人をしゅうさいす、出づるも亦た愁い入るも亦た愁う」(秋風蕭蕭愁殺人、出亦愁入亦愁)とある。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷017」参照。また、南朝梁の簡文帝(蕭綱)の楽府「怨歌行」に「秋風 海水を吹き、寒霜 ぎょくじょに依る」(秋風吹海水、寒霜依玉除)とある。玉除は、玉階。ウィキソース「怨歌行 (蕭綱)」参照。
  • 禾黍 … 稲や、きびの穂。禾は、あわ。後に稲をいう。黍は、きび。殷が滅亡の後、ちゅうおうの叔父にあたる箕子きしが周に仕え、旧都の跡を通り過ぎたとき、焼け跡に麦が穂を出しているのを見て、悲しんでばくしゅうの歌を作った故事を踏まえる。『史記』宋微子世家に「其ののち箕子きし、周にちょうし、もとの殷の虚を過ぐ。宮室かいし、禾黍を生ずるに感じ、箕子之を傷む。哭せんと欲すれば則ち不可なり。泣かんと欲すれば其れ婦人に近しと為す。乃ち麦秀の詩を作り、以て之を歌詠す。其の詩に曰く、麦ひいでて漸漸ぜんぜんたり、禾黍油油ゆうゆうたり。彼の狡僮こうどう、我とからず、と」(其後箕子朝周、過故殷虚。感宮室毀壞、生禾黍、箕子傷之。欲哭則不可。欲泣爲其近婦人。乃作麥秀之詩、以歌詠之。其詩曰、麥秀漸漸兮、禾黍油油。彼狡僮兮、不與我好兮)とある。漸漸は、麦がじわじわと伸びるさま。油油は、盛んなさま。狡僮は、悪童。紂王を指す。からずとは、相入れないこと。ここでは、箕子の諫めを紂王が聞かなかったこと。ウィキソース「史記/卷038」参照。また『詩経』王風・しょに「彼のしょ 離離たり、彼のしょくの苗。行きくこと靡靡びびたり、中心揺揺ようようたり。我を知る者は、我が心憂うと謂い、我を知らざる者は、我何をか求むと謂う。悠悠たる蒼天、此れ何人なにびとぞや」(彼黍離離、彼稷之苗。行邁靡靡、中心搖搖。知我者、謂我心憂、不知我者、謂我何求。悠悠蒼天、此何人哉)とある。離離は、穂が垂れているさま。稷は、うるきび。靡靡は、なびき従うさま。揺揺は、ゆらゆらと揺れて安定しないさま。悠悠は、どこまでも長く遠く続くさま。蒼天は、青空。ウィキソース「詩經/黍離」参照。
  • 動 … 揺り動かす。そよがせている。
余説
 この詩は、芭蕉の俳句「この道や行く人なしに秋の暮」と、ほぼ同じおもむきである。
詩型・韻字
  • 五言絶句。
  • 語・黍(上声語韻)。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻六(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
  • 『全唐詩』巻二百六十九(排印本、中華書局、1960年)
  • 『耿湋集』巻下(明銅活字本、『唐五十家詩集』所収、上海古籍出版社、1989年)
  • 『唐文粋』巻十八(姚鉉撰、明嘉靖本影印、『四部叢刊 初篇集部』所収)
  • 『文苑英華』巻一百五十一(影印本、中華書局、1966年)
  • 『才調集』巻一(傅璇琮編撰『唐人選唐詩新編』、陝西人民教育出版社、1996年)
  • 『唐詩紀事』巻三十([宋]計有功輯撰、上海古籍出版社、1987年)
  • 『極玄集』(傅璇琮編撰『唐人選唐詩新編』、陝西人民教育出版社、1996年)
  • 『唐百家詩選』巻九([北宋]王安石編、世界書局、1979年)
  • 『唐詩解』巻二十三(順治十六年刊、内閣文庫蔵)
  • 『唐詩品彙』巻四十二([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
  • 『唐詩別裁集』巻十九([清]沈徳潜編、乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
  • 『古今詩刪』巻二十(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、汲古書院)
  • 松浦友久編『校注 唐詩解釈辞典』(大修館書店、1987年)
歴代詩選
古代 前漢
後漢
南北朝
初唐 盛唐
中唐 晩唐
北宋 南宋
唐詩選
巻一 五言古詩 巻二 七言古詩
巻三 五言律詩 巻四 五言排律
巻五 七言律詩 巻六 五言絶句
巻七 七言絶句
詩人別
あ行 か行 さ行
た行 は行 ま行
や行 ら行