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蜀相(杜甫)

蜀相
蜀相(しょくしょう)
杜甫(とほ)
  • 〔テキスト〕 『唐詩三百首』七言律詩、『宋本杜工部集』巻十一、『九家集注杜詩』巻二十一、『杜陵詩史』巻十一、『分門集注杜工部詩』巻六(『四部叢刊 初編集部』所収)、『草堂詩箋』巻十八、『銭注杜詩』巻十一、『杜詩詳注』巻九、『全唐詩』巻二百二十六、『文苑英華』巻三百二十、『唐詩品彙』巻八十四、他
  • 七言律詩。尋・森・音・心・襟(下平声侵韻)。
  • ウィキソース「蜀相」参照。
  • 蜀相 … 蜀(蜀漢)の宰相、諸葛亮、字(あざな)は孔明(181~234)を指す。丞相(宰相職)の地位にいたので、「蜀相」と呼んだ。ウィキペディア【諸葛亮】参照。『文苑英華』では「蜀相廟」に作る。『全唐詩』には、題下に「諸葛亮祠在昭烈廟西」と注する。
  • この詩は、諸葛亮の廟(びょう)を訪れ、その生涯を偲んで詠んだもの。上元元年(760)、杜甫四十九歳のとき、成都(四川省)での作。
  • 杜甫 … 712~770。盛唐の詩人。河南府鞏(きょう)県(河南省鄭(てい)州(しゅう)市鞏(きょう)義(ぎ)市)生まれ。本籍は襄(じょう)州襄(じょう)陽(よう)県(湖北省襄陽市襄州区)の人。字(あざな)は子美(しび)。祖父は初唐の詩人、杜審言。若い頃、科挙を受験したが及第できず、各地を放浪して李白らと親交を結んだ。安史の乱では賊軍に捕らえられたが、やがて脱出し、新帝粛(しゅく)宗(そう)のもとで左拾遺(天子に諫言する職)に任じられた。その翌年左遷されたため官を捨てた。四十八歳の時、成都(四川省成都市)の近くの浣(かん)花(か)渓(けい)に草堂を建てて四年ほど過ごしたが、再び各地を転々とし一生を終えた。中国最高の詩人として「詩聖」と呼ばれ、李白とともに「李杜(りと)」と並称される。『杜工部集』『草堂詩箋』などがある。ウィキペディア【杜甫】参照。
丞相祠堂何處尋
丞相(じょうしょう)の祠(し)堂(どう) 何(いず)れの処(ところ)にか尋(たず)ねん
  • 丞相 … 宰相。天子を補佐する最高の官。
  • 丞 … 『詳注本』には「一作蜀」と注する。
  • 祠堂 … 死者の霊を祀(まつ)った廟(びょう)。みたまや。ほこら。ここでは諸葛亮を祀った武(ぶ)侯(こう)祠(し)を指す。ウィキペディア【武侯祠】参照。
  • 何処尋 … どこに尋ねたらよいのか。次の句と合わせて自問自答の形。『詳注本』には「自ら問答を為して、祠堂の所在を記す」(自爲問答、記祠堂所在)とある。
錦官城外柏森森
錦官(きんかん)城(じょう)外(がい) 柏(はく)森森(しんしん)
  • 錦官城外 … 四川省の成都の郊外。錦官城は、成都の別名。この地の産物である錦(にしき)を管理する役所があったことから。
  • 柏 … コノテガシワ。墓地に植えられる木。ウィキペディア【コノテガシワ】参照。
  • 森森 … 木がこんもりと茂っているさま。鬱蒼と茂っているさま。
映階碧草自春色
階(かい)に映(えい)ずる碧草(へきそう) 自(おの)ずから春色(しゅんしょく)
  • 階 … 「きざはし」と呼んでもよい。祠堂の階段。
  • 映 … 映(うつ)る。照り映(は)える。
  • 碧草 … 緑色の草。
  • 自 … 自然のままに。他のものとはかかわりなく。
  • 春色 … 春の景色。春の趣き。南朝斉の謝朓「徐都曹に和す」詩(『文選』巻三十)に「宛洛(えんらく)は遨游(ごうゆう)に佳(よ)く、春色は皇(こう)州(しゅう)に満つ」(宛洛佳遨游、春色滿皇州)とある。宛洛は、宛邑(南陽)と洛陽との二都。遨游は、気ままに遊び楽しむこと。皇州は、帝都の地。ウィキソース「昭明文選/卷30」参照。
隔葉黃鸝空好音
葉(は)を隔(へだ)つる黄(こう)鸝(り) 空(むな)しく好音(こういん)
  • 隔葉 … 葉陰。
  • 黄鸝 … コウライウグイス。ウィキペディア【コウライウグイス】参照。
  • 鸝 … 『文苑英華』では「鶯」に作る。ただし、「火火」の部分が「艹」になっている。
  • 空 … 聞く人もなしに。『詳注本』には「草は自ら春色、鳥は空しく好音、此れ祠廟の荒涼たるを写す、而して物に感じて人を思うの意、即ち言外に在り」(草自春色、鳥空好音、此寫祠廟荒涼、而感物思人之意、即在言外)とある。『全唐詩』には「一作多」と注する。
  • 好音 … きれいな音(ね)色(いろ)。
三顧頻煩天下計
三(さん)顧(こ)頻煩(ひんぱん)なり 天(てん)下(か)の計(けい)
  • 三顧 … 孔明がまだ隠棲していたとき、劉備がその草堂を三度も訪ねて宰相になることを求めた故事。三顧の礼。
  • 頻煩 … しばしば。たびたび。何度も。しょっちゅう。頻繁に同じ。
  • 煩 … 『全唐詩』には「一作繁」と注する。
  • 天下計 … 劉備が孔明に天下を統一しようとする計略を相談したこと。また、孔明が劉備に天下三分の計を説いたとする説もある。「天下三分の計」については、ウィキペディア【隆中策】参照。
兩朝開濟老臣心
両朝(りょうちょう)開済(かいさい)す 老臣(ろうしん)の心(こころ)
  • 両朝 … 先主劉備と後主劉禅の二代を指す。
  • 開済 … 劉備とともに建国の基礎を築き、劉禅を補佐してよく国が治まるように努力すること。諸説ある。
  • 老臣 … 年をとった重臣。孔明を指す。
  • 心 … 真心を尽くした。
出師未捷身先死
師(し)を出(い)だして 未(いま)だ捷(か)たざるに 身(み)は先(ま)ず死(し)し
  • 出師 … 軍隊を出すこと。出兵。師は、軍隊。ここでは劉禅に奉った「出(すい)師(し)の表(ひょう)」の語を借りたもの。
  • 捷 … 戦いに勝つこと。『全唐詩』には「一作用」と注する。
  • 身先死 … 勝利を収めないうちに、その身が先に死んでしまった。建興十二年(234)、魏の司馬懿との五丈原の戦いを指す。ウィキペディア【五丈原の戦い】参照。
長使英雄淚滿襟
長(とこ)しえに英雄(えいゆう)をして 涙(なみだ) 襟(きん)に満(み)たしむ
  • 長 … いつまでも。永遠に。
  • 使 … 「使AB」の形で「AをしてB(せ)しむ」と読み、「AにBさせる」と訳す。使役を表す。
  • 英雄 … 孔明の志がわかる後世の英雄たち。杜甫自身も含まれるであろう。
  • 涙満襟 … 襟を濡らすほど痛恨の涙を流させる。
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巻三 五言律詩 巻四 五言排律
巻五 七言律詩 巻六 五言絶句
巻七 七言絶句
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