司馬法 用衆第五
凡戰之道、用寡固、用衆治。寡利煩、衆利正。用衆進止、用寡進退。
凡そ戦いの道は、寡を用うるには固く、衆を用うるには治む。寡は煩わしきに利あり、衆は正に利あり。衆を用うるには進止し、寡を用うるには進退す。
- ウィキソース「司馬法」参照。
- 寡 … 小部隊。
- 衆 … 大部隊。
衆以合寡、則遠裹而闕之、若分而迭擊。
衆を以て寡に合えば、則ち遠く裹みて之を闕き、若しくは分ちて迭いに撃つ。
- 裹 … 包囲する。「裏」とは、別字。
寡以待衆、若衆疑之、則自用之。
寡以て衆を待ち、若し衆之を疑わば、則ち自りて之を用う。
擅利、則釋旗迎而反之。
利を擅にすれば、則ち旗を釈て、迎えて之に反る。
敵若衆、則相衆而受裹。
敵若し衆ければ、則ち衆を相て裹を受く。
敵若寡若畏、則避之開之。
敵若しくは寡なく若しくは畏るれば、則ち之を避け之を開く。
凡戰、背風、背高、右高、左險、歴沛、歴圯、兼舍環龜
凡そ戦いは、風を背にし、高きを背にし、高きを右にし、険を左にし、沛を歴、圯を歴、兼ねて環亀を舎てよ。
- 凡 … 底本および『武経本』では「凢」に作るが、『直解』に従い改めた。「凢」は「凡」の異体字。
凡戰、設而觀其作、視敵而舉。
凡そ戦いは、設けて其の作るを観、敵を視て挙ぐ。
待則循、而勿鼓。待衆之作。攻則屯而伺之。
待つには則ち循いて、鼓すること勿かれ。衆の作るを待て。攻むるには則ち屯して之を伺え。
凡戰、衆寡以觀其變、進退以觀其固、危而觀其懼、靜而觀其怠、動而觀其疑、襲而觀其治。
凡そ戦いは、衆寡以て其の変を観、進退以て其の固きを観、危うくして其の懼るるを観、静にして其の怠るを観、動かして其の疑うを観、襲いて其の治まるを観る。
擊其疑、加其卒、致其屈、襲其規。
其の疑うを撃ち、其の卒に加え、其の屈するを致し、其の規を襲う。
因其不避、阻其圖、奪其慮、乘其懾。
其の避けざるに因り、其の図を阻み、其の慮を奪い、其の懾るるに乗ず。
- 懾 … 底本および『武経本』では「懼」に作るが、『直解』に従い改めた。
凡從奔勿息。敵人或止於路、則慮之。
凡そ奔るを従うに息むこと勿かれ。敵人或いは路に止まらば、則ち之を慮れ。
- 反 … 底本および『武経本』では「返」に作るが、『直解』に従い改めた。
凢近敵都、必有進路。退必有反慮。
凡そ敵の都に近づけば、必ず進路有り。退くときは必ず反慮有り。
- 凡 … 底本および『武経本』では「凢」に作るが、『直解』に従い改めた。「凢」は「凡」の異体字。
凡戰、先則弊、後則懾。
凡そ戦いは、先んずれば則ち弊れ、後るれば則ち懾る。
- 弊 … 底本および『武経本』では「」に作る。
息則怠、不息亦弊、息久亦反其懾。
息めば則ち怠り、息まざるも亦た弊れ、息むこと久しきも亦た反って其れ懾る。
- 弊 … 底本および『武経本』では「」に作る。
書親絶、是謂絶顧之慮。
書は親しきをも絶つ、是れを顧の慮を絶つと謂う。
選良次兵、是謂益人之強。
良を選び兵を次す、是れを人の強を益すと謂う。
棄任節食、是謂開人之意。
任を棄て食を節す、是れを人の意を開くと謂う。
自古之政也。
古よりの政なり。
- 政 … 軍政。
仁本第一 | 天子之義第二 |
定爵第三 | 厳位第四 |
用衆第五 |