司馬法 定爵第三
凡戰、定爵位、著功罪、収遊士、申教詔、訊厥衆、求厥技、方慮極物、變嫌推疑、養力索功、因心之動。
凡そ戦いは、爵位を定め、功罪を著し、遊士を収め、教詔を申べ、厥の衆に訊い、厥の技を求め、慮を方べ物を極め、嫌を変じ疑を推し、力を養い功を索め、心の動きに因る。
- ウィキソース「司馬法」参照。
- 遊士 … 遊説の士。
- 教詔 … 教誨。教訓。
- 厥 … その。それ。「其」とほぼ同じ。
凡戰、固衆相利、治亂進止、服正成恥、約法省罰。小罪乃殺、小罪勝、大罪因。
凡そ戦いは、衆を固くし利を相し、乱を治め止まるを進め、正を服し恥を成し、法を約し罰を省く。小罪乃ち殺さば、小罪は勝げ、大罪は因る。
順天、阜財、懌衆、利地、右兵。是謂五慮。
天に順い、財を阜にし、衆を懌ばせ、地を利し、兵を右ぶ。是を五慮と謂う。
順天奉時。
天に順うは時を奉ずるなり。
阜財因敵。
財を阜にするは敵に因るなり。
懌衆勉若。
衆を懌ばすは若うことを勉むるなり。
利地守隘險阻。
地を利するは、隘険阻を守るなり。
右兵弓矢禦、殳矛守、戈戟助。
兵を右ぶとは、弓矢は禦ぎ、殳矛は守り、戈戟は助くるなり。
凡五兵五當、長以衞短、短以救長。
凡そ五兵は五つながら当り、長は以て短を衛り、短は以て長を救う。
迭戰則久、皆戰則強。
迭いに戦えば則ち久しく、皆戦えば則ち強し。
見物與侔、是謂兩之。
物を見て与に侔しくする、是れ之を両にすと謂う。
主固勉若、視敵而舉。
主は固くして若うことを勉め、敵を視て挙ぐ。
將心心也。衆心心也。
将の心も心なり。衆の心も心なり。
馬牛車兵佚飽力也。
馬牛車兵の佚飽するは力なり。
教惟豫、戰惟節。
教えは惟れ予めし、戦いは惟れ節にす。
將軍身也。卒肢也。伍指拇也。
将軍は身なり。卒は肢なり、伍は指拇なり。
- 肢 … 底本および『武経本』では「支」に作るが、『直解』に従い改めた。
凡戰權也。闘勇也。陳巧也。
凡そ戦いは権なり。闘いは勇なり。陣するは巧なり。
- 權 … 底本および『武経本』では「智」に作るが、『直解』に従い改めた。
用其所欲、行其所能。廢其不欲不能。於敵反是。
其の欲する所を用い、其の能くする所を行い、其の欲せず能くせざるを廃す。敵に於いては是れに反す。
凡戰有天、有財、有善。
凡そ戦いは天有り、財有り、善有り。
時日不遷、龜勝微行。是謂有天。
時日遷さず、亀勝ち微に行う。是れを天有りと謂う。
衆有有、因生美。是謂有財。
衆、有を有とし、因って美を生ず。是れを財有りと謂う。
- 美 … 底本および『武経本』では「羙」に作るが、『直解』に従い改めた。
人習陳利、極物以豫。是謂有善。
人、陣の利を習い、物を極めて以て予めする。是れを善有りと謂う。
人勉及任。是謂樂人。
人、勉めて任に及ぶ。是れを人を楽しましむと謂う。
大軍以固、多力以煩、堪物簡治、見物應卒。是謂行豫。
大軍は以て固く、多力は以て煩わしく、物に堪えて簡治し、物を見て卒に応ず。是れを行予と謂う。
輕車、輕徒、弓矢固禦。是謂大軍。
軽車・軽徒・弓矢、固く禦ぐ。是れを大軍と謂う。
密靜多内力。是謂固陳。
密静にして内力多し。是れを固陣と謂う。
因是進退。是謂多力。
是れに因りて進退す。是れを多力と謂う。
上暇人教。是謂煩陳。
上、暇ありて人に教えあり。是れを煩陣と謂う。
然有以職。是謂堪物。
然も以て職とする有り。是れを物に堪うと謂う。
因是辨物。是謂簡治。
是れに因りて物を弁ず。是れを簡治と謂う。
稱衆因地、因敵令陳。攻戰守進退止、前後序。車徒因。是謂戰參。
衆を称り地に因り、敵に因りて陣せしむ。攻、戦、守、進、退、止、前後序あり。車徒因る。是れを戦参と謂う。
不服、不信、不和、怠疑、厭懾、枝柱、詘頓、肆崩緩。是謂戰患。
服せず、信ぜず、和せず、怠り疑い、厭い懾れ、枝れ柱り、詘み頓れ、肆に崩れ緩む。是れを戦患と謂う。
- 柱 … 底本および『武経本』では「拄」に作るが、『直解』に従い改めた。
驕驕、懾懾、吟嚝、虞懼、事悔。是謂毀折。
驕驕、懾懾、吟嚝、虞懼、事悔いあり。是れを毀折と謂う。
大小、賢柔、參伍、衆寡、凡兩。是謂戰權。
大小、賢柔、参伍、衆寡、凡そ両にす。是れを戦権と謂う。
- 凡 … 底本および『武経本』では「凢」に作るが、『直解』に従い改めた。「凢」は「凡」の異体字。
凡戰間遠觀邇、因時因財。貴信惡疑。
凡そ戦いは遠きを間し、邇きを観、時に因り財に因る。信を貴び疑を悪む。
作兵義。作事時。使人惠。
兵を作すに義あり。事を作すに時あり。人を使うに恵あり。
見敵靜、見亂暇。見危難、無忘其衆。
敵を見て静かに、乱を見て暇あり。危難を見て、其の衆を忘るること無し。
居國惠以信、在軍廣以武、刃上果以敏。
国に居りては恵にして以て信、軍に在りては広にして以て武、刃上には果にして以て敏。
居國和、在軍法、刃上察。
国に居りては和し、軍に在りては法あり、刃上には察す。
- 法 … 底本および『武経本』では「灋」に作るが、『直解』に従い改めた。「灋」は「法」の本字。
居國見好、在軍見方、刃上見信。
国に居りては好せられ、軍に在りては方われ、刃上には信ぜらる。
凡陳行惟疏、戰惟密、兵惟雜。
凡そ陣行は惟だ疏にし、戦いは惟だ密にし、兵は惟だ雑う。
- 疏 … 底本および『武経本』では「䟽」に作るが、『直解』に従い改めた。
人教厚、靜乃治、威利章。
人に教うること厚ければ、静にして乃ち治まり、威利、章わる。
相守義、則人勉。慮多成、則人服。時中服、厥次治。
義を相守れば、則ち人勉む。慮、成ること多ければ、則ち人服す。時、中に服すれば、厥の次治まる。
- 時 … 「これ」「この」と読む。之や是に当てた用法。
物既章、目乃明。慮既定、心乃強、進退無疑。
物既に章らかなれば、目乃ち明らかなり。慮既に定まらば、心乃ち強くして、進退疑うこと無し。
見敵無謀、聽誅。
敵を見て謀る無きは、聴きて誅せよ。
無誑其名。無變其旗。
其の名を誑く無かれ。其の旗を変ずる無かれ。
- 誑 … 底本および『武経本』では「誰」に作るが、『直解』に従い改めた。
凡事善則長。因古則行。
凡そ事、善なれば則ち長し。古に因れば則ち行わる。
誓作章、人乃強。滅厲祥。
誓作、章らかなれば、人乃ち強し。厲を滅すれば祥なり。
滅厲之道、一曰義、被之以信、臨之以強。
厲を滅するの道、一に曰く義。之を被らしむるに信を以てし、之に臨むに強を以てす。
成基一天下之形、人莫不説。是謂兼用其人。
基を成して、天下の形を一にし、人、説ばざる莫し。是れ其の人を兼用すと謂う。
一曰權、成其溢、奪其好、我自其外、使自其内。
一に曰く権。其の溢を成し、其の好を奪い、我は其の外よりし、使いは其の内よりす。
一曰人。二曰正。三曰辭。四曰巧。五曰火。六曰水。七曰兵。是謂七政。
一に曰く人。二に曰く正。三に曰く辞。四に曰く巧。五に曰く火。六に曰く水。七に曰く兵。是れを七政と謂う。
榮、利、恥、死、是謂四守。容色積威、不過改意、凡此道也。
栄・利・恥・死、是れを四守と謂う。色を容り威を積み、意を改むるに過ぎず。凡そ此の道なり。
唯仁有親。有仁無信、反敗厥身。
唯だ仁は親しむ有り。仁有りて信無ければ、反って厥の身を敗る。
人人、正正、辭辭、火火。
人を人とし、正を正とし、辞を辞とし、火を火とせよ。
凡戰之道、既作其氣、因發其政。
凡そ戦いの道、既に其の気を作し、因って其の政を発す。
假之以色、道之以辭。
之に仮すに色を以てし、之を道くに辞を以てす。
因懼而戒、因欲而事。
懼に因りて戒め、欲に因りて事とす。
蹈敵制地、以職命之。是謂戰法。
敵を蹈んで地を制し、職を以て之を命ず。是れを戦法と謂う。
- 法 … 底本および『武経本』では「灋」に作るが、『直解』に従い改めた。「灋」は「法」の本字。
凡人之形、由衆之求。試以名行、必善行之。
凡そ人の形は、衆に由りて之れ求む。試みるに名行を以てせば、必ず善く之を行わん。
若行不行、身以將之。若行而行、因使勿忘。
若し行えども行わざれば、身以て之を将う。若し行いて行わるれば、因って忘るる勿からしめよ。
三乃成章。人生之宜。謂之法。
三たびして乃ち章を成す。人生の宜しきなり。之を法と謂う。
- 法 … 底本および『武経本』では「灋」に作るが、『直解』に従い改めた。「灋」は「法」の本字。
凡治亂之道、一曰仁。二曰信。三曰直。四曰一。五曰義。六曰變。七曰專。
凡そ乱を治むるの道は、一に曰く仁。二に曰く信。三に曰く直。四に曰く一。五に曰く義。六に曰く変。七に曰く専。
- 専 … 底本および『武経本』では「尊」に作るが、『直解』に従い改めた。
立法、一曰受。二曰法。三曰立。四曰疾。五曰御其服。六曰等其色。七曰百官宜無淫服。
法を立つるは、一に曰く受。二に曰く法。三に曰く立。四に曰く疾。五に曰く其の服を御す。六に曰く其の色を等す。七に曰く百官宜しく淫服無かるべし。
- 二曰法 … 底本および『武経本』では「二曰灋」に作るが、『直解』に従い改めた。「灋」は「法」の本字。
- 淫 … 底本および『武経本』では「」に作るが、『直解』に従い改めた。
凡軍使法在己曰專。
凡そ軍は、法をして己に在らしむるを専と曰う。
- 法 … 底本および『武経本』では「灋」に作るが、『直解』に従い改めた。「灋」は「法」の本字。
與下畏法曰法。
下と与に法を畏るるを法と曰う。
軍無小聽、戰無小利。日成行微曰道。
軍には小聴無く、戦いには小利無し。日に成り行うこと微なるを道と曰う。
凡戰正不行則事專。不服則法。不相信則一。
凡そ戦いは、正行われざれば則ち専を事とす。服せざれば則ち法にす。相信ぜざれば則ち一にす。
- 行 … 底本および『武経本』では「符」に作るが、『直解』に従い改めた。
若怠則動之。若疑則變之。若人不信上、則行其不復。自古之政也。
若し怠らば則ち之を動かす。若し疑わば則ち之を変ず。若し人、上を信ぜざれば、則ち行うこと其れ復びせず。古よりの政なり。
仁本第一 | 天子之義第二 |
定爵第三 | 厳位第四 |
用衆第五 |