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郷党第十 10 郷人飮酒章

245(10-10)
郷人飮酒、杖者出、斯出矣。郷人儺、朝服而立於阼階。
きょうじん飲酒いんしゅには、じょうしゃづれば、ここづ。きょうじんには、ちょうふくしてかいつ。
現代語訳
  • 村の宴会では、(六十以上の)老人が帰ると、すぐ帰りかける。村の「やくばらい」には、礼服をきて戸主の位置に立つ。(がえり善雄『論語新訳』)
  • 村人の酒盛さかもりにも、長老が退席するのを待って続いて出た。村人が鬼やらいをしに来ると、たいの官服をつけ玄関に立ってそれを受ける。(穂積重遠しげとお『新訳論語』)
  • 村人と酒宴をされる時でも、老人が退席してからでないと退席されない。村人が鬼やらいにくると、礼服をつけ、玄関に立ってそれをむかえられる。(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
  • 郷人 … 村人。「郷」は、一万二千五百戸のこと。
  • 飲酒 … 酒宴。宴会。懇親会。
  • 杖者 … 杖をつく人。老人のこと。
  • 斯出矣 … 老人が退席してから、退出された。「斯」は「則」に同じ。
  • 儺 … 鬼やらい。つい。疫病の悪鬼を追い払う民間行事。我が国では節分の行事となった。
  • 朝服 … 朝廷へ出仕するときの礼服を着ること。
  • 阼階 … 東側の階段。客を迎えるとき、主人がそこに立った。
補説
  • 『注疏』では「郷人飮酒、杖者出、斯出矣」までを前章とし、「此れ孔子の室神を存するの礼を明らかにするなり」(此明孔子存室神之禮也)とある。『論語注疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 郷人飮酒、杖者出、斯出矣 … 『集解』に引く孔安国の注に「杖者は、老人なり。郷人の飲酒の礼は、老者を主とす。老者礼畢わりて出ずれば、孔子従いて之を出ず」(杖者、老人也。郷人飮酒之禮、主於老者。老者禮畢出、孔子從而出之)とある。『論語集解』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『義疏』に「郷人の飲酒は、郷の飲酒の礼を謂うなり。杖者は、老人なり。礼に、五十にして家に杖し、六十にして郷に杖す、と。故に老人を呼んで杖者と為すなり。郷人の飲酒には、齢を貴び年を崇ぶ、故に出入の老人を以てするは節と為すなり。若し飲酒の礼畢わりて、杖者先ず出づるときは、則ち同飲の人乃ち之に従いて出づ、故に云う、杖者出づれば斯に出づ、と」(郷人飮酒、謂郷飮酒之禮也。杖者、老人也。禮、五十杖於家、六十杖於郷。故呼老人爲杖者也。郷人飮酒者貴齡崇年、故出入以老人者爲節也。若飮酒禮畢、杖者先出、則同飮之人乃從之而出、故云、杖者出斯出矣也)とある。『論語義疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『注疏』に「杖者は、老人なり。郷人の飲酒の礼は、老者を主とす。老者礼畢わりて出づれば、孔子は則ち従いて後に出づ」(杖者、老人也。郷人飮酒之禮、主於老者。老者禮畢出、孔子則從而後出)とある。また『集注』に「杖者は、老人なり。六十にして郷に杖す。未だ出でざれば敢えて先んぜず、既に出ずれば敢えて後れず」(杖者、老人也。六十杖於郷。未出不敢先、既出不敢後)とある。『論語集注』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『礼記』王制篇に「五十にして家に杖し、六十にして郷に杖し、七十にして国に杖し、八十にしてちょうに杖す」(五十杖於家、六十杖於郷、七十杖於國、八十杖於朝)とある。ウィキソース「禮記/王制」参照。
  • 郷人儺、朝服而立於阼階 … 『集解』に引く孔安国の注に「儺は、疫鬼を駆逐するなり。先祖を驚かしむるを恐る。故に朝服して廟の阼階に立つなり」(儺、驅逐疫鬼也。恐驚先祖。故朝服立廟之阼階也)とある。また『義疏』に「儺とは、疫鬼を逐うなり。陰陽の気の為に即時には退かず。疫鬼随いて人の為に禍いを作す。故に天子方相氏をして、黄金四目、熊の皮をかぶり、戈を執り楯を揚げ、玄衣朱裳して、口もて儺儺の声を作し、以て疫鬼を駆するなり。一年三過之を為す。三月、八月、十二月なり。故に月令の季春に云う、国に命じて儺せしむ、と。鄭玄曰く、此の儺は、陰気を儺するなり。陰寒此に至りて止まざれば、害将に人に及ばんとす、厲鬼之に随いて出でて行く、と。仲秋に至りて又た云う、天子乃ち儺す、と。鄭玄曰く、此の儺は、陽気を儺するなり。陽暑此に至りて衰えず、害も亦た将に人に及ばんとす、厲鬼も亦た之に随いて出でて行く、と。季冬に至りて又た云う、有司に命じて大いに儺す、と。鄭玄曰く、此の儺は、陰気を儺するなり。此に至りて止まず、害将に人に及ばんとす、厲鬼将に強陰に随いて出でて人を害せんとするなり、と。侃案ずるに、三儺、二は是れ陰を儺す、一は是れ陽を儺す。陰陽は乃ち異なり。倶に是れ天子の命ずる所なり。春は是れ一年の始めなり、弥〻いよいよ災害を畏る。故に国民に命じて家家悉く儺せしむ。八月は陽を儺す、陽は是れ君法なり、臣民君を儺す可からず、故に天子乃ち儺すと称するなり。十二月の儺は是れ陰なりと雖も、既に一年の急に非ず、故に民も亦た同じく儺することを得ざるなり。今云う、郷人の儺するときは、是れ三月ならん、と。阼階は、東階、主人の階なり。孔子郷人の鬼を逐うを聞きて、宗廟を驚動せられんことを恐る、故に朝服を著て阼階に立ちて以て先祖に侍して、孝の心を為すなり。朝服とは、玄冠緇布の衣、素積裳なり、是れ卿大夫の祭服なり。礼に、唯だ孤卿は爵弁して自ら祭る、若し卿大夫以下は、悉く玄冠して以て自ら斉祭す。斉祭すること冠服を異にせざるなり」(儺者、逐疫鬼也。爲陰陽之氣不即時退。疫鬼隨而爲人作禍。故天子使方相氏黄金四目蒙熊皮、執戈揚楯、玄衣朱裳、口作儺儺之聲、以驅疫鬼也。一年三過爲之。三月八月十二月也。故月令季春云、命國儺。鄭玄曰、此儺、儺陰氣也。陰寒至此不止、害將及人、厲鬼隨之而出行。至仲秋又云、天子乃儺。鄭玄曰、此儺、儺陽氣也。陽暑至此不衰、害亦將及人、厲鬼亦隨之而出行。至季冬又云、命有司大儺。鄭玄曰、此儺、儺陰氣也。至此不止、害將及人、厲鬼將隨強陰出害人也。侃案、三儺、二是儺陰、一是儺陽。陰陽乃異。倶是天子所命。春是一年之始、彌畏災害。故命國民家家悉儺。八月儺陽、陽是君法、臣民不可儺君、故稱天子乃儺也。十二月儺雖是陰、既非一年之急、故民亦不得同儺也。今云郷人儺、是三月也。阼階、東階、主人之階也。孔子聞郷人逐鬼、恐見驚動宗廟、故著朝服而立於阼階以侍先祖、爲孝之心也。朝服者、玄冠緇布衣、素積裳、是卿大夫之祭服也。禮、唯孤卿爵弁自祭、若卿大夫以下、悉玄冠以自齊祭。齊祭不異冠服也)とある。また『注疏』に「難は、室をもとめて疫鬼を駆逐するなり。先祖を驚かすを恐る、故に孔子は朝服して廟の阼階に立つ。鬼神は人に依り、其の己に依りて安んずるをねがうなり。朝服する所以は、大夫は朝服して以て祭る、故に祭服を用いて以て神を依らしむるなり」(難、索室驅逐疫鬼也。恐驚先祖、故孔子朝服而立於廟之阼階。鬼神依人、庶其依己而安也。所以朝服者、大夫朝服以祭、故用祭服以依神也)とある。また『集注』に「儺は、疫を逐う所以なり。周礼に、方相氏之を掌る、と。阼階は、東階なり。儺は、古礼と雖も、而れども戯れに近し。亦た必ず朝服して之に臨むとは、其の誠敬を用いざる所無ければなり。或ひと曰く、其の先祖五祀の神を驚かさんことを恐れ、其の己に依りて安んずることを欲するなり、と」(儺、所以逐疫。周禮、方相氏掌之。阼階、東階也。儺雖古禮而近於戲。亦必朝服而臨之者、無所不用其誠敬也。或曰、恐其驚先祖五祀之神、欲其依己而安也)とある。誠敬は、誠実で、慎み敬うこと。
  • 『集注』に「此の一節は、孔子の郷に居るの事を記す」(此一節、記孔子居郷之事)とある。
  • 伊藤仁斎『論語古義』に「孔子はもと俗に違うことを欲せず。且つ郷人之を行う。故に朝服して主人の位に立ち、敬を郷人に加う」(孔子本不欲違俗。且郷人行之。故朝服立于主人位、加敬於郷人)とある。『論語古義』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 荻生徂徠『論語徴』に「郷人の儺に、朝服して阼階に立つ、蓋し古礼爾りと為す、故に孔子之を行う。而うして其の礼の義は、得て之を知る可からず。……朱註に、儺は古えの礼なりと雖も而も戯に近し。亦た必ず朝服して之に臨む者は、其の誠敬を用いざる所無きなりと。妄なるかな。是れ其の意に謂えらく先王の礼孔子の心に合せざる者有りと。宋儒の持敬、乃ち其の心に合せざるのみ」(郷人儺、朝服而立於阼階、蓋古禮爲爾、故孔子行之。而其禮之義、不可得而知之矣。……朱註、儺雖古禮而近於戲。亦必朝服而臨之者、無所不用其誠敬也。妄哉。是其意謂先王之禮有不合孔子之心者。宋儒持敬、乃不合其心爾)とある。『論語徴』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
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