• 出典：『帝範』務農（国立公文書館デジタルアーカイブ「『帝範』寛文八年刊本」参照）
• 解釈：農業こそが国家の根本である。「本」は、物事の根本をなすもの。

夫（そ）れ食（しょく）は人（ひと）の天（てん）為（た）り、農（のう）は政（まつりごと）の本（もと）為（た）り。倉廩（そうりん）実（み）つるときは則（すなわ）ち礼節（れいせつ）を知（し）り、衣（い）食（しょく）乏（とぼ）しきときは則（すなわ）ち廉（れん）恥（ち）を忘（わす）る。故（ゆえ）に躬（みずか）ら東郊（とうこう）に耕（たがや）し、敬（つつし）んで民（たみ）に時（とき）を授（さず）く。

国（くに）に九（きゅう）歳（さい）の儲（たくわ）え無（な）きときは、水旱（すいかん）に備（そな）うるに足（た）らず。家（いえ）に一年（いちねん）の服（ふく）無（な）きときは、寒温（かんおん）を禦（ふせ）ぐに足（た）らず。然（しか）り而（しこう）して犢（とく）を帯（お）び牛（うし）を佩（お）び、堅（かた）きを棄（す）て偽（いつわ）りに就（つ）き、伎（ぎ）巧（こう）の利（り）を求（もと）め、農桑（のうそう）の基（もとい）を廃（す）てざるは莫（な）し。

一人（いちにん）を以（もっ）て耕（たがや）して百（ひゃく）人（にん）食（は）むときは、其（そ）の害（がい）を為（な）すや、秋（しゅう）螟（めい）より甚（はなは）だし。浮華（ふか）を禁絶（きんぜつ）し、耕（こう）織（しょく）を勧（かん）課（か）するに若（し）くは莫（な）し。

民（たみ）をして其（そ）の本（もと）に還（かえ）り、俗（ぞく）をして其（そ）の真（しん）に反（かえ）らしむに、則（すなわ）ち競（きそ）って仁（じん）義（ぎ）の心（こころ）を懐（いだ）き、永（なが）く貪残（たんざん）の路（みち）を絶（た）つ、此（こ）れ農（のう）を務（つと）むるの本（もと）なり。