胡笳曲(無名氏)
胡笳曲
胡笳の曲
胡笳の曲
- 〔テキスト〕 『唐詩選』巻七、『全唐詩』巻七百八十六、『古今詩刪』巻二十二(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、61頁)、『唐詩品彙』巻五十五、他
- 七言絶句。野・下・馬(上声馬韻)。
- ウィキソース「御定全唐詩 (四庫全書本)/卷786」参照。
- 胡笳曲 … 楽府題。『楽府詩集』巻五十九・琴曲歌辞に収める楽曲の名。胡笳は、胡人が用いた葦の葉を巻いた笛。物悲しい音色を出す。『文献通考』に「胡笳は觱篥に似て孔無く、後世鹵部に之を用う」(胡笳似觱篥而無孔、後世鹵部用之)とある。觱篥は、管楽器の一つ。竹製の縦笛で前面に七つ、裏面に二つの指孔がある。音色は鋭く、哀調を帯びる。ウィキペディア【篳篥】参照。鹵部は、大駕(天子の乗り物)の儀仗。鹵簿(天子の行列)。ウィキソース「文獻通考 (四庫全書本)/卷138」参照。
- この詩は、辺塞の緊迫した情況を詠んだもの。胡笳については詠まれていない。
- 無名氏 … 読み人知らず。
月明星稀霜滿野
月明らかに星稀にして霜は野に満つ
- 月明星稀 … 月が明るいので星の光が薄れ、まばらに見えること。魏の曹操の「短歌行」(『楽府詩集』巻三十)に「月明らかに星稀にして、烏鵲南に飛ぶ」(月明星稀、烏鵲南飛)とあるのに基づく。ウィキソース「短歌行其一 (曹操)」「樂府詩集/030卷」参照。
- 霜満野 … 霜が野原一面に降りている。
氈車夜宿陰山下
氈車夜宿す 陰山の下
- 氈車 … 毛氈の幌をした車。毛氈を覆いにした車。匈奴の王の乗り物。
- 氈 … 『唐詩品彙』では「氊」に作る。『古今詩刪』では「」に作る。いずれも異体字。
- 夜宿 … この夜、宿営する。
- 陰山 … 陰山山脈のこと。内モンゴル自治区を東西に走る山脈。漢族と匈奴との境界となっていた。『史記』匈奴伝に「趙の武霊王も亦た俗を変じ、胡服して騎射を習い、北のかた林胡・楼煩を破り、長城を築き、代より陰山の下に並い、高闕に至るまで塞を為り、雲中・雁門・代郡を置く」(趙武靈王亦變俗、胡服習騎射、北破林胡樓煩、築長城、自代竝陰山下、至高闕爲塞、而置雲中雁門代郡)とある。ウィキソース「史記/卷110」参照。ウィキペディア【陰山山脈】参照。
- 下 … ふもと。
漢家自失李將軍
漢家 李将軍を失いしより
- 漢家 … 漢の朝廷。漢の王室。暗に唐の朝廷を指す。『史記』梁孝王世家に「梁の孝王は、親愛の故を以て膏腴の地に王たりと雖も、然も漢家隆盛にして百姓殷富なるに会う。故に能く其の財貨を植し、宮室を広め、車服、天子に擬す。然れども亦た僭なり」(梁孝王雖以親愛之故王膏腴之地、然會漢家隆盛百姓殷富。故能植其財貨、廣宮室、車服擬於天子。然亦僭矣)とある。膏腴は、肥沃。殷富は、栄えて豊かなこと。僭は、僭越。ウィキソース「史記/卷058」参照。
- 李将軍 … 李広。?~前119。前漢の将軍。匈奴討伐に勇名をはせ、飛将軍と恐れられた。『史記』李広伝に「広、右北平に居り、匈奴之を聞き、号して漢の飛将軍と曰い、之を避くること数歳、敢えて右北平に入らず」(廣居右北平、匈奴聞之、號曰漢之飛將軍、避之數歳、不敢入右北平)とある。ウィキソース「史記/卷109」参照。ウィキペディア【李広】参照。
- 自失 … 失ってからというもの。失ってからは。
- 自 … 「より」と読み、「~から」と訳す。時間・場所などの起点を示す。
單于公然來牧馬
単于公然と来って馬を牧す
- 単于 … 匈奴の王の称号。『史記』匈奴伝の注(集解)に「単于とは、広大の貌。其の天に象りて単于然たるを言う」(單于者、廣大之貌。言其象天單于然)とある。ウィキソース「史記三家註/卷110」参照。
- 公然 … 誰はばからず。おおっぴらに。『全唐詩』では「一作日暮」とある。
- 来 … わが領土へ侵入してきて。
- 牧馬 … 馬を放し飼いにしている。匈奴は遊牧人種であるから、馬を放牧する土地と水草を求めるために侵入してきた。賈誼の「過秦論」(『新書』巻一、『史記』秦始皇本紀、『文選』巻五十一)に「乃ち蒙恬をして北のかた長城を築きて藩籬を守らしめ、匈奴を却くること七百余里、胡人、敢て南に下りて馬を牧せず」(乃使蒙恬北築長城而守藩籬、卻匈奴七百餘里、胡人不敢南下而牧馬)とある。ウィキソース「過秦論」参照。
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