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初過漢江(無名氏)

初過漢江
はじめて漢江かんこう
めい
  • 〔テキスト〕 『唐詩選』巻七、『全唐詩』巻七百八十五、『古今詩刪』巻二十二(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、61頁)、『唐詩品彙』巻五十五、『唐人万首絶句選』巻七、他
  • 七言絶句。看・闌・寒(平声寒韻)。
  • ウィキソース「御定全唐詩 (四庫全書本)/卷785」参照。
  • 漢江 … 川の名。漢水の別名。陝西省の秦嶺山脈に源を発し、南東に流れて湖北省の武漢で長江に注ぐ。ウィキペディア【漢江 (中国)】参照。
  • この詩は、作者が歳末に初めて漢江を渡ったときの感慨を詠んだもの。
  • 無名氏 … 読み人知らず。『唐詩品彙』によれば、この詩は『蘆中集』という詩集に出ているとあるが、詳細は不明。
襄陽好向峴亭看
じょうよう 峴亭けんていむかってるに
  • 襄陽好向峴亭看 … 襄陽の町は、峴山亭から眺めるのが一番よい。
  • 襄陽 … 湖北省北部、今の湖北省襄陽市。漢水の南岸。ウィキペディア【襄陽市】参照。
  • 好 … ~するのに都合がよい。~するのに好都合である。
  • 峴亭 … 襄陽の南、峴山の上にあった亭。峴山亭。『大明一統志』に「峴山亭は、府の城南、峴山の上に在り」(峴山亭在府城南峴山上)とある。ウィキソース「明一統志 (四庫全書本)/卷60」参照。晋のよう(221~278)は襄陽の長官となり、地元の人々に慕われた。あるとき峴山けんざんに登り、「昔からこの山に登った賢者は多くいたが、その名を知られている者はいない。死後、わが魂魄こんぱくが必ずこの山に登るだろう」と言った。彼の死後、人々は彼の徳を慕い、山頂に碑を立てた。その碑を見た者はみな彼を思い出して涙を流したので、杜預が「堕涙碑」と名付けたという。『晋書しんじょ』羊祜伝に「宇宙有りてより、便ち此の山有り。由来賢達の勝士、此に登り遠望すること、我と卿とが如き者多し。皆湮滅して聞ゆる無し。人をして悲傷せしむ。如し百歳の後知る有らば、魂魄猶お応に此に登るべしと。……襄陽の百姓、峴山の祜が平生遊憩の所に於いて、碑を建て廟を立て、歳時に饗祭す。其の碑を望む者、流涕せざるは莫く、杜預因りて名づけて堕涙の碑と為す」(自有宇宙、便有此山。由來賢達勝士、登此遠望、如我與卿者多矣。皆湮滅無聞。使人悲傷。如百歲後有知、魂魄猶應登此也。……襄陽百姓、於峴山祜平生遊憩之所、建碑立廟、歳時饗祭焉。望其碑者、莫不流涕、杜預因名爲墮涙碑)とある。ウィキソース「晉書/卷034」参照。
  • 向 … 於に同じ。
  • 看 … 眺める。
人物蕭條屬歲闌
人物じんぶつ蕭条しょうじょうとして歳闌さいらんぞく
  • 人物 … 人も物も。物は、人以外の事物。万物。
  • 蕭条 … 物寂しいさま。『楚辞』の「遠遊」に「やま蕭条しょうじょうとしてけものく、寂漠せきばくとしてひとし」(山蕭條而無獸兮、野寂漠其無人)とある。ウィキソース「楚辭/遠遊」参照。また班固「西都の賦」(『文選』巻一)に「げん蕭条しょうじょうとして、えいきわむ」(原野蕭條、目極四裔)とある。四裔は、四方の遠い果て。ウィキソース「西都賦」参照。
  • 歳闌 … 年の暮れ。歳晩。闌は、ここでは尽きるの意。謝荘の「そうこうせん貴妃きひるい」(『文選』巻五十七)に「さくうつしてがんへんじ、はくりてとしまさたけなわならんとす」(移氣朔兮變羅紈、白露凝兮歲將闌)とある。ウィキソース「宋孝武宣貴妃誄」参照。
  • 属 … 当たる。ちょうど~である。『全唐詩』『唐詩品彙』『古今詩刪』『唐人万首絶句選』では「値」に作る。
爲報習家多置酒
ためほうぜよ しゅう おおしゅせよ
  • 為報 … どうか知らせておくれ。
  • 習家 … 峴山の南にいた豪族。後漢のとき、襄陽侯の習郁が、ここに池を造り、魚を放って釣台を築き、まわりに樹木を植え、池中に蓮を植えて遊宴の地とした。これを習家池といった。晋の山簡が征南将軍として襄陽を治めていたとき、習家池のほとりでよく酒宴を催して遊んだ。山簡は、漢のれき食其いきが沛公に対して「我は高陽の酒徒なり」といったのに因んで「これはわしには高陽池だ」といったという故事を踏まえる。『襄陽記』卷五に「簡、優遊して歳をえ、唯だ酒に是れ耽る。諸習氏は荊土の豪族なり。佳園池有り。簡出でて嬉遊する毎に、多く池上に之き、置酒してすなわち酔い、曰く、此れは我が高陽池なり」(簡優遊卒歲、唯酒是耽。諸習氏荊土豪族。有佳園池。簡每出嬉遊、多之池上、置酒輒醉、曰、此我高陽池也)とある。ウィキソース「襄陽記」参照。
  • 置酒 … 酒の用意をすること。酒宴を開くこと。阮瑀の「雑詩二首 其の一」(『古詩紀』巻二十七)に「置酒高堂の上、友朋光輝あつむ」(置酒髙堂上、友朋集光輝)とある。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷027」参照。また曹植の「へい歌五首 大魏篇」(『古詩紀』巻二十三)に「豊年大いに置酒す、ぎょくそん広庭にれっす」(豐年大置酒、玉樽列廣庭)とある。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷023」参照。
夜來風雪過江寒
らい風雪ふうせつ こうぎてさむしと
  • 夜来 … 昨夜。
  • 風雪 … 吹雪の中を。
  • 過江寒 … 漢江を渡ってきて、寒くてやり切れないから。江は、漢江を指す。
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