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楊柳枝(温庭筠)

楊柳枝
ようりゅう
おん庭筠ていいん
  • 〔テキスト〕 『唐詩選』巻七、『全唐詩』巻五百八十三、『楽府詩集』巻八十一・近代曲辞、『花間集』巻一(『四部叢刊 初編集部』所収)、『唐詩品彙拾遺』巻四、他
  • 七言絶句。西・堤・萋(平声齊韻)。
  • ウィキソース「全唐詩/卷583」参照。
  • 詩題 … 唐代の楽曲名。柳を題材として詠ずる。白居易が楽府題の「折楊柳」を基に、樊素・小蛮という二人の愛妾のために創作したもの。孟棨もうけいの『本事詩』事感第二に「白尚書の姫人樊素は歌を善くし、妓人小蛮は舞を善くす。嘗て詩をつくりて曰く、桜桃樊素の口、楊柳小蛮の腰、と。年既に高邁にして小蛮方に豊艶なり。因って楊柳の詞をつくりて以て意を托す」(白尚書姫人樊素善歌、妓人小蠻善舞。嘗爲詩曰、櫻桃樊素口、楊柳小蠻腰。年旣髙邁而小蠻方豐艷。因爲楊柳之詞以托意)とある。ウィキソース「本事詩/2」参照。『全唐詩』では「楊柳八首 其五」に作り、題下に「一作楊柳枝」とある。『楽府詩集』『花間集』では「楊柳枝八首 其五」に作る。
  • 楊柳 … 柳の総称。楊は、カワヤナギ。柳は、シダレヤナギ。
  • この詩は、呉王夫差の建てた館娃宮や魏の曹操が都を置いた鄴城の遺跡に生える柳の風情を詠んだもの。
  • 温庭筠 … 812~?。晩唐の詩人。太原たいげん(山西省祁県)の人。元の名はあざなけい。何度も進士の試験を受け及第しなかったが、随州随県(湖北省)の尉に任命された。李商隠とともに「温李」と並称されている。『温飛卿詩集』七巻がある。ウィキペディア【温庭イン】参照。
館娃宮外鄴城西
館娃かんあいきゅうがい 鄴城ぎょうじょう西にし
  • 館娃宮 … 春秋時代、呉王夫差の建てた宮殿。西施を住まわせた。江蘇省蘇州市の西、霊巌寺にあった。娃は、美しいこと。美人のこと。『呉地記』に「亭の東二里に館娃宮有り、ひと西施を呼んであいと作す、夫差置く、今の霊巌山は是れなり」(亭東二里有館娃宮、吳人呼西施作娃、夫差置、今靈巖山是也)とある。ウィキソース「吳地記」参照。また左思の「呉都の賦」(『文選』巻五)に「館娃かんあいきゅうみゆきし、女楽じょがくりて群臣ぐんしんたのしましむ」(幸乎館娃之宮、張女樂而娛群臣)とある。ウィキソース「吳都賦」参照。また揚雄『方言』に「呉に館娃の宮有り」(吳有館娃之宮)とある。ウィキソース「方言/卷二」参照。
  • 外 … 外側。ここでは廃墟となった館娃宮の外側に柳が多く生えていることを指す。
  • 鄴城 … 魏の曹操が都を置いたところ。今の河南省臨漳県。ウィキペディア【】参照。
  • 西 … 西側。ここでは廃墟となった鄴城の西側に柳が多く生えていることを指す。
遠映征帆近拂堤
とおくは征帆せいはんえいじ ちかくはつつみはら
  • 遠映征帆 … (柳が)遠くは過ぎ行く舟の帆に影をうつす。
  • 征帆 … 遠くに去っていく舟。庾信「応令おうれいの詩」(『古詩紀』巻一百二十七)に「じんみずむかい、征帆せいはんひとかんそむく」(路塵猶向水、征帆獨背關)とある。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷127」参照。
  • 近払堤 … (柳の垂れた枝が)近くは堤の上をさっと払っている。
繫得王孫歸意切
王孫おうそん 帰意きいせつなるをつな
  • 王孫 … 貴公子。ここでは旅に出ている貴公子。『楚辞』の「招隠士」に「王孫おうそんあそんでかえらず」(王孫遊兮不歸)とあるのを踏まえる。ウィキソース「招隱士」参照。また『史記』淮陰侯伝に「われ王孫おうそんあわれみてしょくすすむ」(吾哀王孫而進食)とある。ウィキソース「史記/卷092」参照。
  • 帰意 … 帰郷を願う心。
  • 繋得 … 柳の糸がこの地に繋ぎとめている。
不關春草綠萋萋
しゅんそうみどり萋萋せいせいたるにかんせず
  • 春草 … 故郷の春の若草。『楚辞』の「招隠士」に「しゅんそうしょうじて萋萋せいせいたり」(春草生兮萋萋)とあるのを踏まえる。ウィキソース「楚辭/招隱士」参照。
  • 春 … 『花間集』では「芳」に作る。
  • 草 … 『唐詩選』『花間集』では「艸」に作る。同義。
  • 萋萋 … 草が盛んに茂っているさま。『詩経』周南・葛覃かつたんの詩に「くずびて、ちゅうこくうつる、萋萋せいせいたり」(葛之覃兮、施于中谷、維葉萋萋)とある。ウィキソース「詩經/葛覃」参照。
  • 不関 … 気にもとめない。関係ない。
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