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度桑乾(賈島)

度桑乾
桑乾そうかんわた
とう
  • 〔テキスト〕 『唐詩選』巻七、『全唐詩』巻五百七十四、『古今詩刪』巻二十二(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、65頁)、『唐詩品彙』巻五十二、『唐詩別裁集』巻二十、他
  • 七言絶句。霜・陽・郷(平声陽韻)。
  • ウィキソース「全唐詩/卷574」参照。
  • 詩題 … 『御覧詩』には、この詩をりゅうそうの作として収める。詩題は「たびして朔方さくほうやどる」(旅次朔方)で、詩句に異同がある。「客舍幷州數十霜、歸心日夜憶咸陽、無端又隔桑乾水、却望并州似故郷」。また『全唐詩』卷四百七十二でも劉皁「旅次朔方」に作り、題下に「一作賈島詩」とある。ウィキソース「旅次朔方」参照。こちらも詩句に異同がある。「客舍幷州數十霜、歸心日夜憶咸陽、無端又渡桑乾水、卻望并州似故郷」。劉皁は、徳宗の貞元年間(785~805)に在世した中唐の詩人。咸陽(今の陝西省咸陽市)の人。生没年不詳。『全唐詩』に詩五首収める。
  • 桑乾 … 河の名。桑乾河。山西省北部から河北省北部へ流れる川。下流は永定えいていとなり、北京の西南を流れ、渤海に注ぐ。『読史方輿紀要』山西、山陰県の条に「桑乾河は県の北に在り。馬邑県より県界に流入し、懐仁県と境を分かち、又た東のかた大同県に入りて応州界に及ぶ」(桑乾河在縣北。自馬邑縣流入縣界、與懷仁縣分境、又東入大同縣及應州界)とある。ウィキソース「讀史方輿紀要/卷四十四」参照。ウィキペディア【桑乾河】参照。『資治通鑑』隋煬皇帝大業八年(612)の条に「四方の兵、皆涿郡たくぐんに集まる。……しゃに南桑干水のほとりし、上帝を臨朔宮の南に類し、馬祖をけいじょうの北に祭る」(四方兵皆集涿郡。……宜社於南桑干水上、類上帝於臨朔宮南、祭馬祖於薊城北)とある。ウィキソース「資治通鑑/卷181」参照。
  • 度 … 渡る。『全唐詩』『古今詩刪』『唐詩品彙』『唐詩別裁集』では「渡」に作る。
  • この詩は、作者が桑乾河を渡りながら、十年滞在した幷州(今の山西省太原)への感慨を詠んだもの。
  • 賈島 … 779~843。中唐の詩人。范陽(河北省涿州市)の人。あざな浪仙ろうせん。はじめ僧となり無本と号したが、のちに韓愈に詩才を認められて還俗げんぞくした。長江(四川省蓬渓県)の主簿に任ぜられ、のち普州(四川省)の司倉参軍に転任となったが、赴任しないうちにしゅっした。「推敲」の故事で有名。『賈浪仙長江集』十巻がある。ウィキペディア【賈島】参照。
客舍幷州已十霜
へいしゅう客舎かくしゃしてすで十霜じっそう
  • 并州 … 今の山西省太原たいげん市。『新唐書』地理志に「太原府太原郡は、もとの并州なり。開元十一年、府と為す」(太原府太原郡、本并州。開元十一年爲府)とある。ウィキソース「新唐書/卷039」参照。ウィキペディア【并州】参照。
  • 客舎 … 旅ぐらしをする。
  • 十霜 … 十年。十秋。霜は、星霜。
歸心日夜憶咸陽
しん にち 咸陽かんようおも
  • 帰心 … 故郷に帰りたいと思う心。
  • 日夜 … 昼も夜も。いつも。『史記』項羽本紀に「日夜、将軍の至らんことを望めり」(日夜、望將軍至)とある。ウィキソース「史記/卷007」参照。
  • 咸陽 … 長安の西北にあり、秦の都があった所。ここでは長安を指す。唐詩では長安を指す場合、漠然と咸陽の地名を用いることが多い。『三輔黄図』三輔沿革の条に「咸陽はきゅうそうざん、渭水の北に在り、山水倶に南に在り。故に咸陽と名づく」(咸陽在九嵕山、渭水北、山水俱在南。故名咸陽)とある。ウィキソース「三輔黃圖/卷之一」参照。ウィキペディア【咸陽市】参照。
  • 憶 … 思い出す。
無端更渡桑乾水
はしくも さらわたる 桑乾そうかんみず
  • 無端 … 思いがけなくも。
  • 更渡 … 更に(桑乾河を)渡って遠方へ行く。
  • 桑乾水 … 桑乾河。桑乾の流れ。
  • 桑 … 『唐詩別裁集』では「桒」に作る。異体字。
  • 水 … 川。流れ。
卻望幷州是故鄉
かえってへいしゅうのぞめば きょう
  • 却 … ふり返って。思い返して。張相『詩詞曲語辞匯釈』の「却(五)」の条に「却は、猶お返のごとし」(却、猶返也)とある。『箋註唐詩選』『全唐詩』『唐詩別裁集』では「卻」に作る。異体字。
  • 望 … 眺めやると。
  • 故郷 … 今まで仮の宿りと思っていた并州が、十年も住み慣れた町だけに、故郷の長安のように懐かしく思えてきた。ただし、作者の実際の故郷は范陽であるが、この詩では長安が故郷ということになっている。
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