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虢夫人(張祜)

虢夫人
かくじん
ちょう
  • 〔テキスト〕 『唐詩選』巻七、『全唐詩』巻五百十一、『古今詩刪』巻二十二(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、65頁)、『唐詩品彙』巻五十二、他
  • 七言絶句。恩・門・尊(平声元韻)。
  • ウィキソース「全唐詩/卷511」参照。
  • 詩題 … 楊貴妃の姉、虢国かくこく夫人のこと。安禄山の乱で西の陳倉に逃れたが、県令が追いかけてきたのを反乱軍と思い、わが子二人を刺し殺して後、自殺した。ウィキペディア【虢国夫人】参照。楊貴妃には姉が三人いて、一番上の姉は韓国夫人、次の姉が虢国夫人、三番目の姉が秦国夫人といった。『新唐書』后妃伝上に「三姉皆しょうなり。帝呼びてと為す。韓・虢・秦の三国に封じて、夫人と為す。きゅうえきに出入す」(三姊皆美劭。帝呼爲姨。封韓、虢、秦三國、爲夫人。出入宮掖)とある。姊は、姉の異体字。姨は、妻の姉妹。宮掖は宮廷のこと。ウィキソース「新唐書/卷076」参照。『全唐詩』では「集靈(一作虚)臺二首 其二」に作る。『唐詩品彙』『古今詩刪』でも「集靈臺」に作る。集霊台は、長生殿の傍らにあった台。ここで神霊を祀って長生を祈願したという。長生殿は驪山の華清宮内にあった。『旧唐書』玄宗紀の天宝元年十月の条に「新たに長生殿を成し、名づけて集霊台と曰い、以て天神をまつる」(新成長生殿名曰集靈台、以祀天神)とある。ウィキソース「舊唐書/卷9」参照。
  • この詩は、楊貴妃の姉、虢国夫人の驕奢を詠んだもの。『全唐詩』では「此の篇、一に杜甫の詩に作る」(此篇一作杜甫詩)とある。『唐詩品彙』でも「又杜集に虢夫人に作るを見ゆ」(又見杜集作虢夫人)とある。『楊太真外伝』巻上(『説郛』巻一百十一)に「当時、杜甫に詩有りて云う、虢国夫人は主恩を承け……」(當時杜甫有詩云、虢國夫人承主恩……)とある。ウィキソース「楊太真外傳」参照。『杜詩詳註』では、詩題を「虢國夫人」として収載している。ウィキソース「杜詩詳註 (四庫全書本)/卷02」参照。
  • 張祜 … 782?~852?。中唐の詩人。清河(河北省邢台市清河県)の人。一説に南陽(河南省南陽市)の人。あざなしょうきつ。穆宗の長慶年間、令狐楚が朝廷に推薦したが、採用されなかった。その後、各地を放浪し、晩年は丹陽(江蘇省丹陽市)に隠棲して、そこで没した。『張承吉文集』十巻がある。ウィキペディア【張祜】参照。
虢國夫人承主恩
虢国かくこくじん 主恩しゅおん
  • 主恩 … 君主から受けた恩。ここでは玄宗皇帝の御恩寵。
  • 承 … 受ける。蒙る。
平明騎馬入宮門
平明へいめい うまってきゅうもん
  • 平明 … 夜明け。明け方。当時の百官は未明に参内し、天子の朝礼を受けた。『荀子』哀公篇に「君昧爽まいそうにして櫛冠しつかんし、平明にしてちょうを聴き、一物いちぶつ応ぜざるは、乱のたんなり」(君昧爽而櫛冠、平明而聽朝、一物不應、亂之端也)とある。ウィキソース「荀子/哀公篇」参照。また『史記』留侯世家に「じゅおしし。のちいつ平明へいめいに、われここかいせよ」(孺子可敎矣。後五日平明、與我會此)とある。ウィキソース「史記/卷055」参照。
  • 騎馬 … 馬にまたがって。馬に乗って。『明皇雑録』に「虢国は禁中に入る毎に、常にそうに乗り、小黄門をしてぎょさしむ。紫驄の駿健なること、黄門の端秀なること、皆一時に冠絶す」(虢國每入禁中、常乘驄馬、使小黃門御。紫驄之駿健、黃門之端秀、皆冠絕一時)とある。ウィキソース「明皇雜錄/卷下」参照。
  • 騎 … 『全唐詩』には「一作下」とある。
  • 宮門 … 宮城の門。『史記』陳渉世家に「宮門をたたきて曰く、われしょうを見んと欲す」(扣宮門曰、吾欲見涉)とある。ウィキソース「史記/卷048」参照。
  • 宮 … 『唐詩品彙』では「金」に作る。
却嫌脂粉汚顏色
かえってふんがんしょくけがすをきら
  • 却 … かえって。逆に。張相『詩詞曲語辞匯釈』の「却(四)」の条に「却は、猶お倒のごとし」(却、猶倒也)とある。李白「江夏行」(『全唐詩』巻一百六十七)に「たれらんしょうし、ひとをしてかえってしゅうせしむ」(誰知嫁商賈、令人却愁苦)とある。商賈は、商人。ウィキソース「江夏行」参照。『箋註唐詩選』『全唐詩』では「卻」に作る。異体字。
  • 脂粉 … べにおしろい。『楊太真外伝』巻上に「然れども虢国はしょうふんを施さず、自らえんてらいて、常にめんにて天にちょうす」(然虢國不施粧粉、自衒美艶、常素面朝天)とある。ウィキソース「楊太真外傳」参照。
  • 汚顔色 … 天性の容色を損なう(と言って、紅おしろいを用いなかった)。顔色は、顔の美しさ。容色。
淡掃蛾眉朝至尊
あわ蛾眉がびはらってそんちょう
  • 淡 … うっすらと。『説文解字』巻十一上、水部に「薄味なり」(薄味也)とある。ウィキソース「說文解字/11」参照。
  • 蛾眉 … 蛾の触角のような、三日月形の美しい女性の眉。『詩経』衛風・碩人の詩に「じゅうていの如く、はだぎょうの如く、うなじしゅうせいの如く、さいの如く、せみこうべまゆこうしょうせんたり、もくへんたり」(手如柔荑、膚如凝脂、領如蝤蠐、齒如瓠犀、螓首蛾眉、巧笑倩兮、美目盻兮)とある。ウィキソース「詩經/碩人」参照。また前漢のばいじょう七発しちはつ」(『文選』巻三十四)に「こう娥眉は、なづけて伐性ばっせいおのと曰う」(皓齒娥眉、命曰伐性之斧)とある。皓歯は、白い歯。美人の形容。伐性之斧は、人の本性を断ち切る斧の意。ウィキソース「七發」参照。なお「蛾眉」については、松浦友久「『蛾眉』考―詩語と歌語Ⅱ」(『詩語の諸相―唐詩ノート』研文出版、1981年)に詳しい。
  • 掃 … (眉墨を)引く。画く。
  • 至尊 … 天子。ここでは玄宗皇帝を指す。『春秋穀梁伝』定公元年に「君は至尊なり」(君至尊也)とある。ウィキソース「春秋穀梁傳註疏/卷19」参照。
  • 朝 … 宮中に参内さんだいして天子にお目にかかること。朝見。朝謁。
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