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夜発袁江寄李潁川劉侍郎(戴叔倫)

夜發袁江寄李潁川劉侍郎
よる袁江えんこうはっし、潁川えいせんりゅうろう
たいしゅくりん
  • 〔テキスト〕 『唐詩選』巻七、『全唐詩』巻二百七十四、『唐詩品彙』巻五十、趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻十四(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)、『古今詩刪』巻二十二(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、63頁)、『唐人万首絶句選』巻四、他
  • 七言絶句。郷・蒼・腸(平声陽韻)。
  • ウィキソース「夜發袁江寄李潁川劉侍御」参照。
  • 詩題… 『全唐詩』には「袁」の下に「一作烏、一作猿」とある。『全唐詩』『万首唐人絶句』『唐人万首絶句選』では「郎」を「御」に作る。『全唐詩』には題下に「ときこうりゅうへんせられてここり」(時二公留貶在此)との自注がある。この詩は『全唐詩』巻二百五十に皇甫冉の詩としても収録。ウィキソース「夜發沅江寄李潁川劉侍郎」参照。
  • 袁江 … 江西省の西端に位置する萍郷ひょうきょう市から東流し、しゅん市を経て贛江かんこうに入る川。皇甫冉の詩は沅江げんこうに作る。沅江であれば、湖南省の洞庭湖に注ぐ川になる。ウィキペディア【ゲン江】参照。また、『全唐詩』の校語にある烏江であれば、安徽省和県付近を流れる川を指す。
  • 発 … 出発する。
  • 李潁川・劉侍郎 … 潁川はかつて河南省にあった郡名。李はそこの刺史(長官)をしていたことのある李某と、侍郎(次官)の劉某。二人とも人物については不明。作者の自注から、二人とも江西の地に流されていたことがわかる。
  • 寄 … 詩を人に託して送り届けること。「贈」は、詩を直接手渡すこと。
  • この詩は、作者が夜中に袁江を出発して、舟の中から目に触れた景色を述べ、李・劉二人の友人に送り届けたもの。
  • 戴叔倫 … 732~789。中唐の詩人。あざな幼公ようこう潤州じゅんしゅう金壇きんだん(江蘇省金壇区)の人。若い時、しょうえいに師事した。撫州(江西省撫州市)刺吏・容管(広西チワン族自治区容県)経略使を歴任した。晩年は辞職して道士となったが、ほどなく死んだ。『戴叔倫詩集』二巻がある。ウィキペディア【戴叔倫】参照。
半夜囘舟入楚郷
はん ふねめぐらしてきょう
  • 半夜 … 夜半。夜中。
  • 回 … もと来た方へ返すこと。
  • 楚郷 … 楚の地。楚の国。
  • 楚 … 春秋・戦国時代の国。首都はえい(今の湖北省江陵県付近)。戦国七雄(秦・楚・斉・燕・趙・魏・韓)の一つ。江西省袁江の辺りも昔の楚の領域。ウィキペディア【楚 (春秋)】参照。
月明山水共蒼蒼
つきあきらかにして山水さんすいとも蒼蒼そうそうたり
  • 月明 … 月明かりのもとに。月が明るく照らしている中。
  • 山水 … 山も川も。
  • 蒼蒼 … 青黒いさま。謝朓の「しばら下都かと使つかいし、よる新林しんりんはっして、京邑けいゆういたり、西せいどうりょうおくる」(暫使下都夜發新林至京邑贈西府同僚)(『古詩源』巻十二 斉詩、『古詩紀』巻六十九)に「しゅうあけぼの耿耿こうこうたり、寒渚かんしょよる蒼蒼そうそうたり」(秋河曙耿耿、寒渚夜蒼蒼)とある。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷069」参照。
孤猿更叫秋風裏
えん さらさけぶ しゅうふううち
  • 孤猿 … 群れを離れた一匹の猿。謝朓の「郡内ぐんない高斎こうさい閑望かんぼうりょ法曹ほうそうこたう」(郡内高齋閑望答呂法曹)(『古詩源』巻十二 斉詩、『古詩紀』巻六十九)に「でて衆鳥しゅうちょうさんじ、やまくらくしてえんうめく」(日出衆鳥散、山瞑孤猿吟)とある。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷069」参照。
  • 更叫 … また悲しげに泣き叫ぶ。
  • 叫 … 『全唐詩』には「一作發」とある。『和刻本』では「呌」に作る。異体字。
  • 秋風裏 … 秋風の吹き渡る中で。
不是愁人亦斷腸
しゅうじんならずとも だんちょうせん
  • 不是愁人 … 心に愁いを抱いていない人でも。梁の簡文帝「夜夜曲」(『楽府詩集』巻七十六)に「しゅうじんよるひといたむ」(愁人夜獨傷)とある。ウィキソース「樂府詩集/076卷」参照。
  • 断腸 … はらわたのちぎれる思いがしよう。非常に悲しいさま。後漢の蔡琰さいえんの「胡笳十八拍」(『楽府詩集』巻五十九、『楚辞後語』巻三)の第五拍に「かりぶことたかく、はるかにしてたずがたし、むなしくはらわたちておも愔愔あんあんたり」(雁飛高兮邈難尋、空斷腸兮思愔愔)とある。ウィキソース「胡笳十八拍」「樂府詩集/059卷」「楚辭集注 (四庫全書本)/後語卷3」参照。また魏の文帝(曹丕)の「燕歌行」(『文選』巻二十七、『玉台新詠』巻九)に「群燕ぐんえんかえかりみなみかける、きみ客遊かくゆうおもうておもはらわたつ」(群燕辭歸雁南翔、念君客遊思斷腸)とある。ウィキソース「燕歌行 (曹丕)」参照。
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