宿昭応(顧況)
宿昭應
昭応に宿す
昭応に宿す
- 〔テキスト〕 『唐詩選』巻七、『全唐詩』巻二百六十七、『顧況集』巻下(『唐五十家詩集』所収)、『唐詩品彙』巻五十、趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻十五(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)、『古今詩刪』巻二十二(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、63頁)、『唐人万首絶句選』巻四、『唐詩別裁集』巻二十、他
- 七言絶句。壇・官・寒(平声寒韻)。
- ウィキソース「宿昭應」参照。
- 昭応 … 今の陝西省西安市臨潼区。驪山の西北。秦始皇帝陵及び兵馬俑坑がある。『新唐書』地理志に「昭応は……本の新豊なり、垂拱二年慶山と曰う、神竜元年故の名に復す。宮有り、驪山の下に在り、貞観十八年置く、咸亨二年始めて温泉宮と名づく。天宝元年驪山を更めて会昌山と曰う。……六載、温泉を更めて華清宮と曰い、湯井を治めて池と為し、山を環りて宮室を列ぬ。……七載、新豊を省き、会昌県及び山を更めて昭応と曰う」(昭應……本新豐、垂拱二年曰慶山、神龍元年復故名。有宮在驪山下、貞觀十八年置、咸亨二年始名溫泉宮。天寶元年更驪山曰會昌山。……六載、更溫泉曰華清宮、治湯井爲池、環山列宮室。……七載省新豐、更會昌縣及山曰昭應)とある。湯井は、湯の出る井戸。ウィキソース「新唐書/卷037」参照。ウィキペディア【臨潼区】参照。
- 宿 … 宿泊する。
- この詩は、作者が昭応の町に宿泊したとき、玄宗の往時を懐かしんで詠んだもの。玄宗が不老長生を祈願したが、その願いは叶えられなかったことを諷している。
- 顧況 … 725~814?。中唐の詩人。蘇州海塩県(今の浙江省嘉興市海塩県)の人。字は逋翁。至徳二載(757)、進士に及第。秘書郎、著作郎となった後、饒州(江西省)の司戸参軍に左遷された。晩年は家族を連れて茅山(今の江蘇省鎮江市句容県の東南)に隠棲し、華陽真逸と号した。ウィキペディア【顧況】参照。
武帝祈靈太乙壇
武帝 霊に祈る 太乙壇
- 武帝 … 漢の武帝(在位前141~前87)。ウィキペディア【武帝 (漢)】参照。
- 祈霊 … 神霊に祈願すること。
- 太乙壇 … 天帝の太乙を祀るために築いた祭壇。太乙は、北辰の神。北極神。天上の最高神。太一・泰一とも書く。『史記』孝武本紀に「亳人(薄)誘忌、泰一を祠る方を奏して曰く、天神の貴き者は泰一なり。泰一の佐を五帝と曰う。古は天子春秋を以て泰一を東南の郊に祭り、太牢の具を用うる七日、壇を為り、八通の鬼道を開く、と。是に於いて天子太祝をして其の祠を長安の東南の郊に立たしめ、常に奉祠すること忌の方の如くす」(亳人薄誘忌、奏祠泰一方曰、天神貴者泰一。泰一佐曰五帝。古者天子以春秋祭泰一東南郊、用太牢具七日、爲壇、開八通之鬼道。於是天子令太祝立其祠長安東南郊、常奉祠如忌方)とある。ウィキソース「史記/卷012」参照。
- 乙 … 『万首唐人絶句』『唐人万首絶句選』では「一」に作る。
- この句は、漢の武帝が方士の言に従い、天帝の太乙を祀った故事をもって、玄宗皇帝が方士田周秀の言に従い、朝元閣に老子を祀り、不老長生を祈願したことに喩えたもの。しかし何のご利益もなかったことを諷している。南宋の程大昌の『雍録』温泉の条、朝元閣の注に「天宝七載、玄元皇帝、朝元閣に見れ、即ち名を降聖閣と改む」(天寶七載、玄元皇帝見於朝元閣、即改名降聖閣)とある。玄元皇帝は、老子のこと。ウィキソース「雍錄/卷04」参照。また『旧唐書』玄宗紀の天宝七載の条に「玄元皇帝、華清宮の朝元閣に見ると言う、乃ち改めて降聖閣と為す。会昌県を改めて昭応県と為す、会昌山を昭応山と為す」(言玄元皇帝見於華清宮之朝元閣、乃改爲降聖閣。改會昌縣爲昭應縣、會昌山爲昭應山)とある。ウィキソース「舊唐書/卷9」参照。
新豐樹色繞千官
新豊の樹色 千官を繞れり
- 新豊 … 昭応の旧名。漢代の呼び名。『漢書』地理志、京兆尹の条の注に「太上皇、東帰せんことを思う、是に於いて高祖、城寺街里を改築して以て豊に象り、豊の民を徙して以て之を実つ、故に新豊と号す」(太上皇思東歸、於是高祖改築城寺街里以象豐、徙豐民以實之、故號新豐)とある。和刻本では「城寺」を「城市」に作る。『漢書評林』巻二十八(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
- 樹色 … 木々の色。ここでは木々の緑が色鮮やかで美しい様子。
- 千官 … 随行の多くの役人。百官にほぼ同じ。
- 繞 … (木々の緑が千官を)取りまく。取り囲む。包む。
那知今夜長生殿
那んぞ知らん 今夜 長生殿
- 那知 … それがどうしたことか。
- 那 … 「なんぞ」と読み、「どうして~か(いや~ではない)」と訳す。反語の意を示す。『全唐詩』には「一作豈」とある。『万首唐人絶句』では「豈」に作る。
- 長生殿 … 華清宮の中にある宮殿の名。もとは斎殿で、朝元閣で祭事をするとき、ここで斎戒沐浴をした。『雍録』温泉の条、長生殿の注に「斎殿なり。朝元閣に事有れば、即ち此の殿に斎沐す」(齋殿也。有事於朝元閣、即齋沐此殿)とある。ウィキソース「雍錄/卷04」参照。また唐の玄宗が楊貴妃と歓楽をつくした所でもある。白居易の「長恨歌」に「七月七日長生殿、夜半人無く私語の時」(七月七日長生殿、夜半無人私語時)とある。ウィキソース「長恨歌」参照。ここでは玄宗が「長生」の名にかけて、不老長寿を祈ったが、その願いは実現されなかったことをいう。
獨閉空山月影寒
独り空山月影の寒きに閉ざされんとは
- 独 … 「ひとり~(のみ)」と読み、「ただ~だけ」と訳す。限定の意を示す。
- 空山 … 人気のない寂しい山。『全唐詩』では「山門」に作り、「一作空山」とある。山門は、驪山の麓にある長生殿の門を指す。
- 月影寒 … 寒々とした月の光の中で。月影は、月光。
- 閉 … 扉を固く閉ざしていようとは。
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