送宇文六(常建)
送宇文六
宇文六を送る
宇文六を送る
- 〔テキスト〕 『唐詩選』巻七、『全唐詩』巻一百四十四、『常建集』巻下(『唐五十家詩集』所収)、趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻十二(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)、『文苑英華』巻二百六十九、『古今詩刪』巻二十一(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、59頁)、『唐詩品彙』巻四十八、『唐人万首絶句選』巻三、他
- 七言絶句。清・輕・情(平声庚韻)。
- ウィキソース「送宇文六」参照。
- 宇文六 … 宇文は復姓(二字の姓)。六は排行(一族中の兄弟やいとこなどの年齢による序列)。人物については不明。
- 送 … 見送る。
- この詩は、宇文六という人物が江南へ旅立つのを見送って詠んだもの。
- 常建 … 生没年不詳。盛唐の詩人。長安(陝西省)の人といわれてきたが、はっきりしない。字は不詳。開元十五年(727)、王昌齢らとともに進士に及第。盱眙(江蘇省)の尉をつとめた。晩年は鄂渚(湖北省)に隠棲して王昌齢・張僨らと交際した。著に『常建詩集』二巻がある。ウィキペディア【常建】参照。
花映垂楊漢水清
花は垂楊に映じて漢水清く
- 花 … くれないの花。
- 垂楊 … しだれ柳。謝朓の「鼓吹曲」(『文選』巻二十八)に「飛甍は馳道を夾み、垂楊は御溝を蔭う」(飛甍夾馳道、垂楊蔭御溝)とある。ウィキソース「昭明文選/卷28」参照。
- 垂 … 『文苑英華』では「隨」に作る。
- 映 … 映える。
- 漢水 … 陝西省西部に源を発し、東流して武漢で長江に注ぐ。漢江とも。ウィキペディア【漢江 (中国)】参照。『書経』禹貢篇に「嶓冢より漾を導き、東流して漢と為り、又東して滄浪の水と為り、三澨を過ぎ、大別に至り、南して江に入り、東して沢に匯りて彭蠡と為り、東して北江と為り、海に入る」(嶓冢導漾、東流爲漢、又東爲滄浪之水、過三澨、至于大別、南入于江、東匯澤爲彭蠡、東爲北江、入于海)とある。ウィキソース「尚書/禹貢」参照。また『山海経』西山経に「又西三百二十里を、嶓冢の山と曰う。漢水焉より出でて、東南流して沔に注ぐ」(又西三百二十里、曰嶓冢之山。漢水出焉、而東南流注于沔)とある。ウィキソース「山海經 (四部叢刊本)/卷第二」参照。『全唐詩』には「一作水徹」とある。『文苑英華』では「水徹」に作り、「一作漢水」とある。
- 清 … 清らかに流れている。
微風林裏一枝輕
微風 林裏 一枝軽し
- 微風 … そよ風。阮籍「詠懐詩十七首 其の七」(『文選』巻二十三)に「微風は羅袂を吹き、明月は清暉を耀かす」(微風吹羅袂、明月耀清暉)とある。羅袂は、うす絹のたもと。ウィキソース「詠懷詩 (開秋兆涼氣)」参照。
- 微 … 『全唐詩』には「一作曉」とある。『文苑英華』では「曉」に作り、「一作微」とある。
- 林裏 … 林の中。
- 一枝 … ひと枝の花。『荘子』逍遙遊篇に「鷦鷯深林に巣くうも、一枝に過ぎず」(鷦鷯巢於深林、不過一枝)とある。鷦鷯は、みそさざい。ウィキソース「莊子/逍遙遊」参照。
- 軽 … 軽やかに揺れ動く。
卽今江北還如此
即今 江北 還た此の如し
- 即今 … ただいま。現在。現今。『唐人万首絶句選』では「秖今」(秖今)に作る。
- 江北 … 長江北部の地方。ここでは長江の北にある漢水のほとりを指す。今、作者は漢水のほとりにいて、宇文六が江南へ行くのを見送っていると解する。臧勵龢等編『中國古今地名大辭典』(商務印書館、1931年)に「長江以北の総称なり。……今は江蘇の長江以北の地を通称して江北と為す」(長江以北之總稱也。……今通稱江蘇長江以北之地爲江北)とある。謝霊運の「江中の孤嶼に登る」(『文選』巻二十六)に「江南は歴覧に倦めり、江北は周旋を曠かにせん」(江南倦歷覽、江北曠周旋)とある。ウィキソース「昭明文選/卷26」参照。
- 還 … 「また」と読み、「また」「なお」「やはり」などと訳す。俗語。
- 如此 … このように美しい春景色である。
愁殺江南離別情
愁殺す 江南 離別の情
- 愁殺 … 深く悲しませる。深い愁いに沈ませる。愁殺とも読む。殺は、程度の強いことを示す助辞。「古歌」(『古詩源』巻三、『古詩紀』巻十七)に「秋風蕭蕭として人を愁殺し、出づるも亦た愁い、入るも亦た愁う」(秋風蕭蕭愁殺人、出亦愁、入亦愁)とある。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷017」参照。
- 殺 … 『唐人万首絶句選』では「煞」に作る。異体字。
- 江南 … 長江中流・下流の南岸地域。今の江蘇省南部・浙江省西北部・安徽省南部・江西省南部などを指す。臧勵龢等編『中國古今地名大辭典』(商務印書館、1931年)に「長江以南の総称なり。今は江蘇・安徽・江西の三省を通称して江南と為す」(長江以南之總稱。今通稱江蘇安徽江西三省爲江南)とある。
- 離別情 … 別れの思い。
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