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与盧員外象過崔処士興宗林亭(王維)

與盧員外象過崔處士興宗林亭
員外いんがいしょうさいしょ興宗こうそう林亭りんていぎる
おう
  • 七言絶句。鄰・塵・人(平声真韻)。
  • 詩題 … 『三体詩』では「崔処士が林亭に題す」(題崔處士林亭)に作る。『万首唐人絶句』では「崔処士が林亭にぎる」(過崔處士林亭)に作る。
  • 盧員外象 … 盛唐の詩人で王維の友人、しょう。?~763。あざなけい汶水ぶんすい(今の山東省泰安市から済寧市曲阜市一帯)の人。ウィキペディア【盧象】(中文)参照。員外は官名。員外郎の略。長官(郎中)の補佐役。本来は定員外の官で、郎に欠員が出たとき補充された。
  • 崔処士興宗 … 崔興宗さいこうそう。王維の母方の従兄弟いとこ。処士は、士大夫階級に属しながら官職に就かないでいる人。彼は王維・裴迪とともに長安南方の終南山に住んでいたが、玄宗の天宝十一載(752)、右補闕の官に任ぜられた。この詩は彼の無官時代のもの。『唐才子伝』に「日に文士丘為・裴迪・崔興宗と遊覧して詩を賦し、琴樽きんそんして自ら楽しむ」(日與文士丘爲、裴迪、崔興宗遊覽賦詩、琴樽自樂)とある。ウィキソース「唐才子傳/卷2」参照。
  • 林亭 … 林中の庵。
  • 過 … 「よぎる」と読む。立ち寄る。訪問する。
  • 王維 … 699?~761。盛唐の詩人、画家。太原(山西省)の人。あざなきつ。開元七年(719)、進士に及第。安禄山の乱で捕らえられたが事なきを得、乱後は粛宗に用いられてしょうじょゆうじょう(書記官長)まで進んだので、王右丞とも呼ばれる。また、仏教に帰依したため、詩仏と称される。『王右丞文集』十巻がある。ウィキペディア【王維】参照。
綠樹重陰蓋四鄰
りょくじゅちょういん りんおお
  • 緑樹 … 緑の木々。梁の武帝「芳樹」詩に「緑樹 始めてほうを揺るがす、芳の生ずる 一葉に非ず」(綠樹始搖芳、芳生非一葉)とある。ウィキソース「玉臺新詠/07卷」参照。
  • 重陰 … 木々が重なり合って作る深い日陰。後漢の張衡「思玄の賦」(『文選』巻十五)に「重陰を経て寂寞せきばくたり、墳羊ふんようの深くひそむをかなしむ」(經重陰乎寂寞兮、愍墳羊之深潛)とある。墳羊は、土中に住む怪物。ウィキソース「思玄賦」参照。また魏の曹植「みことのりに応ずる詩」(『文選』巻二十)に「ここきゅうぼく有り、重陰あるもいこわず」(爰有樛木、重陰匪息)とある。樛木は、枝が曲がりくねった木。ウィキソース「應詔詩」参照。また西晋の陸機「尚書郎なる彦先げんせんに贈る」詩(二首其一、『文選』巻二十四)に「望舒ぼうじょは金虎にかかり、屛翳へいえいは重陰を吐く」(望舒離金虎、屛翳吐重陰)とある。望舒は、月。屛翳は、風神の名。ウィキソース「贈尚書郎顧彥先二首」参照。また南朝宋の謝恵連「冬を詠ず」詩に「繁雲 重陰を起こし、かいひょう 軽雪を流す」(繁雲起重陰、迴飈流輕雪)とある。繁雲は、重なっている雲。層雲。迴飈は、つむじ風。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷059」参照。また晋の趙整「諷諫詩」(二首其二)に「北園に一樹有り、葉を布き重陰を垂る」(北園有一樹、布葉埀重陰)とある。なお、『楽府詩集』では詩題を「琴歌」、「一樹」を「棗樹」に作る。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷046」参照。
  • 重 … 『全唐詩』には「一作垂」とある。『文苑英華』では「垂」に作る。
  • 四隣 … 四方の隣接する所。辺り。四辺。隣は、もと行政区画の名。『説文解字』に「五家を隣と為す」(五家爲鄰)とある。ウィキソース「說文解字/06」参照。また『春秋左氏伝』昭公二十三年に「諸侯の守りは四鄰に在り」(諸侯守在四鄰)とある。ウィキソース「春秋左氏傳/昭公」参照。
  • 蓋 … 『静嘉堂本』『四部叢刊本』『万首唐人絶句』『文苑英華』『古今詩刪』では「盖」に作る。『唐詩品彙』では「葢」に作る。いずれも異体字。
靑苔日厚自無塵
青苔せいたい あつくしておのずからちり
  • 青苔 … 青い苔。『淮南子』泰族訓に「水の性はしゃくにして以て清なるも、きゅうこく、生ずるに青苔を以てするは、其の性を治めざればなり」(水之性淖以清、窮谷之汙、生以青苔、不治其性也)とある。ウィキソース「淮南子/泰族訓」参照。また南朝梁の江淹の詩「ちょう黄門こうもん苦雨くうきょう」(『文選』巻三十一)に「青苔は日夜に黄となり、芳蕤ほうずい宿しゅくを成す」(青苔日夜黃、芳蕤成宿楚)とある。芳蕤は、芳しい花が垂れ下がるさま。宿楚は、古くなった草木が群がり生えているさま。ウィキソース「張黃門苦雨」参照。
  • 日厚 … 日ごとに厚くなって。
  • 自 … 自然に。
  • 無塵 … 塵一つない。『漢書』王莽伝下に「群臣寿をたてまつりて曰く、乃ちこうに雨水みちそそぎ、しんちゅう清靚せいせいにしてちり無く、其の夕べに穀風迅疾じんしつにして、東北よりきたる、と」(群臣上壽曰、乃庚子雨水灑道、辛丑清靚無塵、其夕穀風迅疾、從東北來)とある。ウィキソース「漢書/卷099下」参照。
科頭箕踞長松下
とうにしてきょす 長松ちょうしょうもと
  • 科頭 … 冠や頭巾をかぶらず、頭を丸出しにしていること。『史記』張儀伝に「ほんの士、跿跔とく科頭、かん奮戟ふんげきする者、げてかぞう可からざるに至る」(虎賁之士、跿跔科頭、貫頤奮戟者、至不可勝計)とある。虎賁は、勇士。跿跔は、素足で歩くこと。貫頤奮戟は、弓を引き、げきをふるうこと。戟は、古代の武器で、柄の先に刺すための刃と引っかけるための刃をつけたもの。ウィキソース「史記/卷070」参照。また『後漢書』東夷伝、魁頭かいとうの注に「魁頭は猶お科頭のごとし。髪を以てえいじょうしてけつを成すを謂うなり」(魁頭猶科頭也。謂以髮縈繞成科結也)とある。魁頭は、むきだしの頭のこと。縈繞は、巡らすこと。科結は、髪を頭上でぐっとたばねたところ。もとどり。ウィキソース「後漢書 (四庫全書本)/卷115」参照。
  • 箕踞 … 両足を前に伸ばして坐ること。無作法な坐り方とされる。その形が四角いに似ていることから。『漢書』張耳伝に「高祖箕踞して罵詈ばりし、甚だ之をまんせり」(高祖箕踞罵詈、甚慢之)とあり、顔師古の注に「箕踞は両脚を屈して其の形の如きを謂う」(箕踞者謂屈兩脚其形如箕)とある。『漢書評林』巻三十二(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『荘子』至楽篇に「荘子則ち方に箕踞し、盆を鼓して歌う」(莊子則方箕踞、鼓盆而歌)とある。ウィキソース「莊子/至樂」参照。また『戦国策』燕策に「自ら事のらざるを知り、柱に倚って笑い、箕踞して以て罵って曰く、事の成らざる所以の者は、乃ち以て生きながら之をおびやかし、必ず約契やくけいを得て、以て太子に報ぜんと欲したればなり、と」(軻自知事不就、倚柱而笑、箕踞以罵曰、事所以不成者、乃欲以生劫之、必得約契、以報太子也)とある。軻は、けい。秦王せい(のちの始皇帝)の暗殺に失敗した。ウィキソース「戰國策 (士禮居叢書本)/燕/三」参照。
  • 長松下 … 高い松の木の下で。西晋の劉琨の詩「扶風歌」(『文選』巻二十八)に「馬を長松のもとに繫ぎ、くらを高岳のほとりく」(繫馬長松下、發鞍高岳頭)とある。ウィキソース「扶風歌」参照。
  • 松 … 『全唐詩』『顧起経注本』には「一作林」とある。『文苑英華』では「林」に作り、「集作松」とある。
白眼看他世上人
白眼はくがんもてじょうひと
  • 白眼 … 人を軽蔑した目つき。冷淡な目つき。三国時代、魏の阮籍が気に入らない客に対しては白眼で、親友に対しては青眼で応対したという故事に基づく。『晋書』阮籍伝に「せきは又た能く青白眼をす。礼俗の士を見れば、白眼を以て之に対す」(籍又能爲靑白眼。見禮俗之士、以白眼對之)とある。ウィキソース「晉書/卷049」参照。
  • 看他世上人 … 世間の俗物どもを(冷ややかに)見る。世上は、世間に同じ。他は、三人称の代名詞。彼。彼女。また「かんす 世上人」という読み方もある。看他は、看ること。こちらの他は助詞。『文苑英華』には「集作看君是甚人」とある。
  • 他 … 底本では「佗」に作るが諸本に従い改めた。同義。『静嘉堂本』には「一本作君」とある。『四部叢刊本』には「一作君」とある。
  • 他世上 … 『全唐詩』には「一作君是甚」とある。『蜀刊本』では「君是甚」に作る。
  • 世上 … 『顧起経注本』には「一作是甚」とある。
  • 世 … 『静嘉堂本』では「丗」に作る。異体字。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻七(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
  • 『全唐詩』巻一百二十八(中華書局、1960年)
  • 『王右丞文集』巻四(静嘉堂文庫蔵、略称:静嘉堂本)
  • 『王摩詰文集』巻六(書韻楼叢刊、上海古籍出版社、2003年、略称:蜀刊本)
  • 『須渓先生校本唐王右丞集』巻四(『四部叢刊 初篇集部』所収、略称:四部叢刊本)
  • 顧起経注『類箋唐王右丞詩集』巻十(台湾学生書局、1970年、略称:顧起経注本)
  • 顧可久注『唐王右丞詩集』巻四(『和刻本漢詩集成 唐詩1』所収、略称:顧可久注本)
  • 趙殿成注『王右丞集箋注』巻十四(中国古典文学叢書、上海古籍出版社、1998年、略称:趙注本)
  • 『増註三体詩』巻一・七言絶句・実接(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)
  • 『唐詩品彙』巻四十八([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
  • 『唐詩解』巻二十六(順治十六年刊、内閣文庫蔵)
  • 『万首唐人絶句』七言・巻四(明嘉靖刊本影印、文学古籍刊行社、1955年)
  • 『文苑英華』巻三百十五(影印本、中華書局、1966年)
  • 『古今詩刪』巻二十一(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇8』所収)
  • 『唐詩紀事』巻十六、崔興宗(上海古籍出版社、2008年)
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