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吹笛(杜甫)

吹笛
吹笛すいてき
杜甫とほ
  • 七言律詩。清・聲・明・征・生(平声庚韻)。
  • 吹笛 … 秋の夜、誰かの吹き鳴らす笛の音を聞きながら詠じた詩。
  • 『全唐詩』巻231所収。
  • 杜甫 … 712~770。盛唐の詩人。じょうよう(湖北省)の人。あざな子美しび。祖父は初唐の詩人、杜審言。若い頃、科挙を受験したが及第できず、各地を放浪して李白らと親交を結んだ。安史の乱では賊軍に捕らえられたが、やがて脱出し、新帝しゅくそうのもとで左拾遺に任じられた。その翌年左遷されたため官を捨てた。四十八歳の時、成都(四川省成都市)の近くのかんけいに草堂を建てて四年ほど過ごしたが、再び各地を転々とし一生を終えた。中国最高の詩人として「詩聖」と呼ばれ、李白とともに「李杜りと」と並称される。『杜工部集』がある。ウィキペディア【杜甫】参照。
吹笛秋山風月清
ふえく しゅうざん 風月ふうげつきよきに
  • 秋山 … 秋の山。
  • 山風 … 『全唐詩』には「一作風山」とある。
  • 風月 … 風と月。
誰家巧作斷腸聲
誰家たれたくみにす だんちょうこえ
  • 誰家 … だれ。「家」は人称につく助辞。「いえ」の意味ではない。
  • 断腸声 … はらわたをかきむしるような悲しい響き。故事成語「断腸」参照。
風飄律呂相和切
かぜ律呂りつりょひるがえしてあいすることせつ
  • 律呂 … 当時の音階。六律りくりつ六呂りくりょ合わせて十二あり、十二律という。ウィキペディア【十二律】参照。
  • 切 … 適切なこと。
月傍關山幾處明
つき関山かんざんうて幾処いくしょあきらかなる
  • 関山 … 関所のある山。
  • 傍 … 寄り添う。『全唐詩』には「一作倚」とある。
  • 幾処 … いくつかの峰。
胡騎中宵堪北走
胡騎こき 中宵ちゅうしょう 北走ほくそうするにえたり
  • 胡騎中宵堪北走 … 晋の将軍劉琨りゅうこんが異民族の大軍に包囲されたとき、胡笳を吹いた。その哀切な調べに敵の兵士がみな涙を流し、引き揚げていったという故事を踏まえる。王昌齢「胡笳曲」参照。
  • 胡騎 … きょう突厥とっけつなどの騎馬兵。
  • 中宵 … 真夜中。
  • 北走 … 北方へと逃げる。
武陵一曲想南征
りょういっきょく 南征なんせいおも
  • 武陵一曲 … 後漢の名将えんが南方征伐に出たとき、武渓に駐屯し、笛の上手な部下に新曲を作らせて、「武渓深」と命名したという故事を踏まえる。
  • 南征 … 南方へ征伐に行くこと。
故園楊柳今搖落
えんようりゅう いま揺落ようらく
  • 故園 … ふるさと。
  • 楊柳 … ふるさとに生えるやなぎの木と、笛の曲「折楊柳」とをかけている。
  • 搖 … 『全唐詩』には「一作摧、一作花」とある。
  • 揺落 … 草木の葉が枯れ、風を受けて散ること。
何得愁中卻盡生
なん愁中しゅうちゅうかえってことごとしょうずるを
  • 何 … 「なんぞ」と読み、「どうして~か」と訳す。疑問の意を示す。
  • 愁中 … 愁いに満ちた私の心中。
  • 卻 … 『全唐詩』では「曲」に作り、「一作卻」とある。
  • 卻尽生 … かえっていっぱいに楊柳を生じさせる。
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