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閣夜(杜甫)

閣夜
かく
杜甫とほ
  • 七言律詩。宵・搖・樵・寥(平声蕭韻)。
  • 閣夜 … 閣は西閣。杜甫がしゅうで一時住んでいた家。揚子江に面した断崖の上にあった。この家で過ごす夜の光景と感慨を詠じた詩。
  • 『全唐詩』巻二百二十九所収。
  • 杜甫 … 712~770。盛唐の詩人。じょうよう(湖北省)の人。あざな子美しび。祖父は初唐の詩人、杜審言。若い頃、科挙を受験したが及第できず、各地を放浪して李白らと親交を結んだ。安史の乱では賊軍に捕らえられたが、やがて脱出し、新帝しゅくそうのもとで左拾遺に任じられた。その翌年左遷されたため官を捨てた。四十八歳の時、成都(四川省成都市)の近くのかんけいに草堂を建てて四年ほど過ごしたが、再び各地を転々とし一生を終えた。中国最高の詩人として「詩聖」と呼ばれ、李白とともに「李杜りと」と並称される。『杜工部集』がある。ウィキペディア【杜甫】参照。
歳暮陰陽催短景
さい 陰陽いんよう 短景たんけいうなが
  • 歳暮 … 「さいぼ」と読む。年の暮れ。「おせい」の意ではない。
  • 陰陽 … 陰と陽の二気。
  • 短景 … 短い日ざし。
天涯霜雪霽寒宵
天涯てんがい霜雪そうせつ かんしょう
  • 天涯 … 天の果て。空の果て。非常に遠い所。涯は、かぎり。地の果て。『論衡』率性篇に「人間じんかんの水は汚濁なるも、野外に在る者は清潔なり。ともに一水たり、みなもとは天涯よりするも、或いは濁り或いはむは、在る所の勢い、之をして然らしむるなり」(人閒之水汚濁、在野外者淸潔。倶爲一水、源從天涯、或濁或淸、所在之勢、使之然也)とある。ウィキソース「論衡/08」参照。
  • 霜雪 … 霜と雪。底本(『漢文大系』冨山房)では「風雪」に作るが、諸本を従い改めた。
  • 寒宵 … 寒い夜。
  • 霽 … 晴れわたる。
五更鼓角聲悲壯
こうかく こえそう
  • 五更 … 午前四時ごろ。夜明け近く。
  • 鼓角 … 太鼓とつの笛。軍隊で時刻を告げるために打ち鳴らす。『楽書』に「革角かくかくながしゃくかたち竹筒ちくとうごとし。もとほそすえだいなり。とう鹵簿ろぼおよぐんちゅうこれもちう。あるいは竹木ちくぼくもってし、あるいはかわもってし、定制ていせいることあらざるなり」(革角長五尺、形如竹筒。本細末大。唐鹵簿及軍中用之。或以竹木、或以皮、非有定制也)とある。鹵簿は、天子の行列。ウィキソース「樂書 (四庫全書本)/卷140」参照。
三峽星河影動搖
さんきょうせい かげ動揺どうよう
  • 星河 … 天の川。
  • 影動揺 … 「三峽の水面に映った天の川の影が揺れ動く」とする説と、「天の川の光が揺れ動く。これは戦乱が起こる不吉な前兆」とする説の二つがある。
野哭千家聞戰伐
こくせん 戦伐せんばつきこ
  • 野哭 … 葬儀のとき、野原の墓の前で死者の遺族たちが大声で泣き叫ぶこと。
  • 千家 … 多くの家。
  • 千 … 『全唐詩』では「幾」に作り、「一作千」とある。
  • 戦伐 … 戦いのこと。
夷歌幾處起漁樵
夷歌いか幾処いくしょ ぎょしょうよりおこ
  • 夷歌 … 蛮人の歌。異民族の歌。
  • 幾 … 『全唐詩』では「數」に作り、「一作是」とある。
  • 漁樵 … 漁師や、きこり。
臥龍躍馬終黄土
りょう やく ついこう
  • 臥竜 … 諸葛亮孔明のこと。臥竜先生と呼ばれた。『三国志』蜀書・諸葛亮伝に「時に先主新野に屯す。徐庶先主に見ゆ、先主之を器とす。先主に曰いて謂く、諸葛孔明は臥竜なり」(時先主屯新野。徐庶見先主、先主器之。謂先主曰、諸葛孔明者、臥龍也)とある。ウィキペディア【諸葛亮】参照。
  • 躍馬 … 公孫述のこと。晋の左思の「蜀都の賦」に「一人いちにんあいまもれば、ばんむかし。公孫こうそんうまおどらしてていしょうし、りゅうそうれんよりくだりてみずかおうたり」(一人守隘、萬夫莫向。公孫躍馬而稱帝、劉宗下輦而自王)とあるのに基づく。ウィキソース「蜀都賦 (左思)」参照。公孫述については、ウィキペディア【公孫述】参照。
  • 黄土 … 黄泉。あの世。
人事音書漫寂寥
じん 音書いんしょ まんせきりょう
  • 人事 … 人の世の営み。
  • 音書 … 手紙。
  • 音書漫 … 『全唐詩』では「依依漫」に作り、「一作音塵日、一作音書頗」とある。
  • 漫 … そぞろに。いたずらに。
  • 寂寥 … むなしく寂しい。
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