奉使巡検両京路種果樹事畢入秦因詠歌(鄭審)
奉使巡檢兩京路種果樹事畢入秦因詠歌
使いを奉じて両京の路に果樹を種うることを巡検し、事畢りて秦に入り因って詠歌す
使いを奉じて両京の路に果樹を種うることを巡検し、事畢りて秦に入り因って詠歌す
- 〔テキスト〕 『唐詩選』巻四、『全唐詩』巻三百十一、『文苑英華』巻二百九十六、『古今詩刪』巻十九(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、48頁)、『唐詩品彙』巻七十六、他
- 五言排律。畿・菲・微・歸・肥・衣・闈・輝(平声微韻)。
- ウィキソース「全唐詩/卷311」参照。
- 奉使 … 勅命を帯びて出張すること。『漢書』昭帝紀に「使いを奉じて節を全うす」(奉使全節)とある。ウィキソース「漢書/卷007」参照。
- 両京路 … 西京(長安)と東京(洛陽)とを結ぶ街道。
- 京 … 『古今詩刪』では「亰」に作る。異体字。
- 種果樹 … 果樹を植えさせたこと。『旧唐書』玄宗紀の開元二十八年(740)の条に「春正月、両京路及び城中の苑内に果樹を種えしむ」(春正月、兩京路及城中苑內種果樹)とある。ウィキソース「舊唐書/卷9」参照。
- 巡検 … 見回って点検すること。
- 事畢 … 任務が終わって。
- 入秦 … 長安のある地方に入った。顧炎武『日知録』巻十二、官樹の条の原注に「入りて奏す」(入奏)とある。入奏は、宮中に参内して天子に奏上すること。入奏の方が正しいように思われる。ウィキソース「日知錄集釋/12」参照。
- 因 … 「よりて」と読み、「そこで」と訳す。
- 詠歌 … 詩を詠んだ。
- この詩は、作者が勅命を帯びて、長安と洛陽とを結ぶ街道に果樹を植えさせ、それを見回って点検し、任務が終わって長安のある地方に入ったときに詠んだもの。
- 鄭審 … 生没年不詳。盛唐の詩人。鄭州滎陽(河南省滎陽市)の人。鄭繇の子。粛宗の乾元年間(758~760)に袁州(江西省宜春市)刺史となり、さらに代宗の大暦の初め(766頃)には秘書監に任ぜられたが、大暦三年(768)、江陵(湖北省江陵県)少尹に左遷された。その頃から杜甫との詩の往来が始まり、親しい友人の一人となった。今に伝わる詩は、僅かに二首のみ。『全唐詩話続編』巻下(『清詩話』所収)に「審は、開元の時の人なり。大暦の初め、秘書監と為る。三年、出でて江陵の少尹と為る。杜甫に秋日夔府に懐いを詠じ、鄭監審に寄す一百韻有り、又解悶詩に云く、何人か為に覓めん鄭瓜州。註に云く、鄭は秘監の審なり」(審、開元時人。大曆初、爲祕書監。三年、出爲江陵少尹。杜甫有秋日夔府詠懷寄鄭監審一百韻、又解悶詩云、何人爲覓鄭瓜州。註云、鄭祕監審也)とある。ウィキソース「全唐詩話續編/卷下」参照。百度百科【郑审】参照。
聖德周天壤
聖徳 天壌に周く
- 聖徳 … 天子のすぐれた徳。
- 天壌 … 天と地。天地。
- 周 … 隅々まで行き渡る。
韶華滿帝畿
韶華 帝畿に満つ
- 韶華 … うららかな春の光。明るい春の景色。韶は、美しい。
- 帝畿 … 都を取りまく地方。
- 満 … 満ち溢れている。
九重承渙汗
九重 渙汗を承け
千里樹芳菲
千里 芳菲を樹う
- 千里 … 千里の道に。
- 芳菲 … 草木の花が芳しいこと。ここでは芳しい木。
- 樹 … 植えることとなった。
陝塞餘陰薄
陝塞 余陰薄く
- 陝塞 … 陝州(河南省三門峡市陝州区)の塞。
- 余陰薄 … 冬の名残りの陰気が薄れている。または、豊かな木陰が少ない。
關河舊色微
関河 旧色微かなり
- 関河 … 関所のある川のほとり。ここでは黄河を指す。
- 旧色 … 古びた木々の色。または、旧年の気色。冬の気色。
發生和氣動
発生して和気動き
- 発生 … 春になって草木が芽生えること。『爾雅』釈天篇に「春を発生と為す」(春爲發生)とある。ウィキソース「爾雅」参照。
- 和気 … 和らいだ春の気。
封植衆心歸
封植して衆心帰す
- 封植 … 土を盛って木を植えること。『春秋左氏伝』昭公二年に「嘉樹有り。宣子、之を誉む。武子曰く、宿敢えて此の樹を封殖せざらんや。以て角弓を忘るること無からん、と。遂に甘棠を賦す」(有嘉樹焉。宣子譽之。武子曰、宿敢不封殖此樹。以無忘角弓。遂賦甘棠)とある。ウィキソース「春秋左氏傳/昭公」参照。
- 衆心 … 民衆の心。
- 帰 … 天子の徳になびき従う。
春露條應弱
春露 条 応に弱かるべく
- 春露 … 春の露に濡れて。
- 条 … 枝。
- 応弱 … まだ弱々しいだろうが。
- 応 … 「まさに~すべし」と読み、「きっと~であろう」と訳す。再読文字。強い推量の意を示す。
秋霜果定肥
秋霜 果 定めて肥えん
- 秋霜 … 秋の霜に打たれる頃には。
- 果定肥 … きっと豊かな果実をつけるであろう。
影移行子蓋
影は移る 行子の蓋
- 影移行子蓋 … 茂った葉かげが、旅人の車のほろを追って移ることだろう。
- 行子 … 旅人。
- 蓋 … 車蓋。車のほろ。『唐詩品彙』では「葢」に作る。異体字。
香撲使臣衣
香りは撲つ 使臣の衣
- 香撲 … 花の香りがいっぱいに染みわたること。
- 使臣 … 天子の命を受けて派遣されている臣下。
入徑迷馳道
径に入りて馳道に迷い
- 徑 … 小道。『全唐詩』『文苑英華』では「逕」に作る。同義。
- 馳道 … 天子が行幸の際に通る道。お成り道。王延寿の「魯の霊光殿の賦」(『文選』巻十一)に「是に於いてか連閣宮を承け、馳道周環す」(於是乎連閣承宮、馳道周環)とあり、李善注に「馳道は、人君の行く所の道なり。君必ず車馬に乗る。故に馳を以て名と為すなり」(馳道、人君所行之道也。君必乘車馬。故以馳爲名也)とある。ウィキソース「昭明文選/卷11」参照。
分行接禁闈
行を分ちて禁闈に接す
- 分行 … 道の両側に分かれて並ぶ木々の列。
- 禁闈 … 宮中。闈は、宮城の小門。
何當扈仙蹕
何当か仙蹕に扈い
- 何当 … 「いつか」と読む。いつのことであろうか。
- 仙蹕 … 天子の行幸の行列。蹕は、行列の先払い。
- 扈 … 付き従う。君主のお供をすること。
攀折奉恩輝
攀折して恩輝に奉ぜん
- 攀折 … 枝を引き寄せて折ること。攀は、よじる。
- 恩輝 … 恵みの光。天子の輝かしい恩徳をいう。
- 奉 … 捧げまつる。
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