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宿温城望軍営(駱賓王)

宿溫城望軍營
温(おん)城(じょう)に宿(しゅく)して軍営(ぐんえい)を望(のぞ)む
駱(らく)賓王(ひんのう)
  • 五言排律。聞・軍・分・文・雲・氛・勳・君(上平声文韻)。
  • ウィキソース「宿溫城望軍營」参照。
  • 温城 … 今の河南省温県付近とするもの、あるいは寧夏省霊武付近の温池県だとするものなど、諸説ある。
  • 宿 … 宿泊する。
  • 軍営 … 軍隊が陣をしいている所。
  • 駱賓王 … 640?~684?。初唐の詩人。婺(ぶ)州(しゅう)義烏(ぎう)(浙江省義烏県)の人。字(あざな)は不詳。武功(陝西省武功県)を経て長安(陝西省西安市)の主簿を歴任したが、臨海(浙江省臨海県)の丞(じょう)に左遷された。光宅元年(684)、徐敬業の乱に加わり、檄文を草した。武后はこれを読んでその才に感嘆し、彼を重用しなかったことを悔いたという。王勃・楊炯・盧照鄰とともに初唐の四傑の一人。ウィキペディア【駱賓王】参照。
虜地寒膠折
虜(りょ)地(ち) 寒膠(かんこう)折(お)れ
  • 虜地 … えびすの住む地域。
  • 寒膠折 … 凍った膠(にかわ)が折れる。厳しい寒気をいう。
邊城夜柝聞
辺(へん)城(じょう) 夜(や)柝(たく)聞(き)こゆ
  • 辺城 … 辺境の城市。
  • 夜柝 … 夜警の兵士が打つ拍子木。
兵符關帝闕
兵(へい)符(ふ) 帝闕(ていけつ)に関(かん)し
  • 兵符 … 軍隊を出動させるときに朝廷から授かる割(わり)符(ふ)。
  • 関帝闕 … 割(わり)符(ふ)の半分を朝廷に留め置くこと。帝闕は、宮城の門。転じて、朝廷。関は、鍵をかけて大切にしまっておくこと。
天策動將軍
天策(てんさく) 将(しょう)軍(ぐん)を動(うご)かす
  • 天策 … 天子のめぐらした策略。朝廷で決定された戦略。
塞靜胡笳徹
塞(とりで)は静(しず)かにして胡笳(こか)徹(とお)り
  • 塞 … 『全唐詩』には「一作戍」と注する。
  • 胡笳 … 北方民族の胡人が吹く葦(あし)の葉の笛。物悲しい音色を出す。『文献通考』に「胡笳(こか)は觱篥(ひちりき)に似(に)て孔(あな)無(な)く、後世(こうせい)鹵部(ろぶ)に之(これ)を用(もち)う」(胡笳似觱篥而無孔、後世鹵部用之)とある。觱篥は、管楽器の一つ。竹製の縦笛で前面に七つ、裏面に二つの指孔がある。音色は鋭く、哀調を帯びる。ウィキペディア【篳篥】参照。鹵部は、大駕(天子の乗り物)の儀仗。鹵簿(ろぼ)(天子の行列)。ウィキソース「文獻通考 (四庫全書本)/卷138」参照。また『通(つ)典(てん)』巻一百四十四、楽典四、八音に「笳は、杜摯(とし)に笳の賦有りて云う、李伯陽西(せい)戎(じゅう)に入りて造れる所なり、と」(笳、杜摯有笳賦云、李伯陽入西戎所造)とある。杜摯は、三国魏の河東の人。字(あざな)は徳魯。郎中となり、後に校書郎に補せられた。李伯陽は、老子のこと。姓名は李耳(りじ)、字(あざな)は伯陽。西戎は、西方のえびす。ウィキソース「通典/卷144」参照。また、前漢の李陵「蘇武に答うるの書」(『文選』巻四十一)に「胡笳互いに動き、牧(ぼく)馬(ば)悲しく鳴く」(胡笳互動、牧馬悲鳴)とある。ウィキソース「答蘇武書」参照。
  • 徹 … (胡笳の音が)響きわたる。
沙明楚練分
沙(すな)は明(あき)らかにして楚(そ)練(れん)分(わ)かる
  • 沙明 … 砂漠の砂が月の光に照らされ、白く輝いている様子。
  • 楚練 … 練絹(ねりぎぬ)の軍服。練は、練絹(ねりぎぬ)。
  • 分 … はっきり見分けられる。
風旗翻翼影
風(ふう)旗(き) 翼影(よくえい)を翻(ひるがえ)し
  • 風旗 … 風にひるがえる旗。
  • 翼影 … 旗の上につけた鳥の羽飾りの影。
霜劍轉龍文
霜剣(そうけん) 竜(りょう)文(もん)を転(てん)ず
  • 霜剣 … 霜のように冷たく光る名剣。
  • 竜文 … 剣身に彫刻してある竜の模様。
  • 転 … きらめかす。
白羽搖如月
白(はく)羽(う) 揺(ゆら)いで月(つき)の如(ごと)く
  • 白羽 … 白羽扇。白い羽毛で作った軍配のうちわ。
青山斷若雲
青山(せいざん) 断(た)って雲(くも)の若(ごと)し
  • 青山 … 青い山並み。三国魏の阮籍「詠懐詩八十二首」の第十三首(『文選』巻二十三では十七首中第六首)に「高きに登りて四野に臨み、北のかた青山の阿(くま)を望む」(登高臨四野、北望靑山阿)とある。四野は、四方の野原。ウィキソース「詠懷詩十七首」参照。また、南朝斉の謝朓「東田(とうでん)に游ぶ」詩(『文選』巻二十二)に「芳春の酒に対せずして、青山の郭(かく)を還(かえ)り望む」(不對芳春酒、還望青山郭)とある。郭は、城壁。ウィキソース「遊東田」参照。また、南朝梁の簡文帝「秋夜」詩(『玉台新詠』巻七)に「緑(りょく)潭(たん) 雲気を倒(さかしま)にし、青山 月(げつ)眉(び)を銜(ふく)む」(綠潭倒雲氣、青山銜月眉)とある。月眉は、眉のような月。三日月。ウィキソース「秋夜 (蕭綱)」参照。
  • 断 … 中断する。断続する。
煙疎疑卷幔
煙(けむり)は疎(そ)にして幔(まん)を巻(ま)くかと疑(うたが)い
  • 煙 … 煙霧。
  • 疎 … まばら。薄く切れ切れに流れるさま。
  • 幔 … 幔幕。
塵滅似銷氛
塵(ちり)は滅(めっ)して氛(ふん)を銷(け)すに似(に)たり
  • 塵滅 … 砂ぼこりがおさまる。
  • 氛 … 戦乱の気。
  • 銷 … 消滅する。
投筆懷班業
筆(ふで)を投(とう)じて班(はん)業(ぎょう)を懐(おも)い
  • 投筆 … 学問や文章の仕事を捨て、戦争に出ること。後漢の名将班(はん)超(ちょう)(32~102)は、若いとき小役人をしていたが、ある日、男子たるものは異郷に赴いて大功を立て、諸侯の位を獲得すべきであり、こんなことはしていられないと言って筆を投げ捨てたという故事に基づく。ウィキペディア【班超】参照。
  • 班業 … 班(はん)超(ちょう)の成し遂げた功業。
臨戎想顧勳
戎(いくさ)に臨(のぞ)んで顧(こ)勲(くん)を想(おも)う
  • 臨戎 … 戦陣に臨む。
  • 顧勲 … 晋の顧(こ)栄(えい)の勲功。陳敏(ちんびん)が反乱を起こして揚子江を渡ろうとしたとき、巧妙な戦略でこれを潰散させた。ウィキペディア【顧栄】参照。
還應雪漢恥
還(ま)た応(まさ)に漢(かん)の恥(はじ)を雪(すす)ぎ
  • 漢恥 … 漢の七年(紀元前200年)、白登山で高祖が匈奴に七日間包囲されて敗れた。その後、匈奴に貢ぎ物を献上して屈辱的な和睦を結んだ。これを漢の恥といった。ただし、ここでは「我が国の恥」の意。ウィキペディア【白登山の戦い】参照。
  • 雪 … 恥をそそぐこと。
持此報明君
此(これ)を持(じ)して明君(めいくん)に報(ほう)ずべし
  • 此 … えびすを討ち破って我が国の恥をそそぐという功績。
  • 明君 … 賢明な君主。りっぱな君主。我が君主を褒め称える言い方。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻四(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
  • 『全唐詩』巻七十九(排印本、中華書局、1960年)
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