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高都護驄馬行(杜甫)

高都護驄馬行
高(こう)都護(とご)の驄(そう)馬(ば)行(こう)
杜甫(とほ)
  • 七言古詩。驄・東・功(上平声東韻)/致・至・利(去声寘韻)/鐵・裂・血(入声屑韻)/騎・知(上平声支韻)/老・道(上声皓韻)、換韻。
  • ウィキソース「高都護驄馬行」参照。
  • 高 … 唐の武将、高(こう)仙(せん)芝(し)(?~755)のこと。ウィキペディア【高仙芝】参照。
  • 都護 … 官名。西域の辺境の鎮護にあたる武官。
  • 驄馬行 … 楽府題の一つ。驄馬は、黒毛と白毛の混じった葦毛の馬。行は、歌・曲の意。
  • 杜甫 … 712~770。盛唐の詩人。河南府鞏(きょう)県(河南省鄭(てい)州(しゅう)市鞏(きょう)義(ぎ)市)生まれ。本籍は襄(じょう)州襄(じょう)陽(よう)県(湖北省襄陽市襄州区)の人。字(あざな)は子美(しび)。祖父は初唐の詩人、杜審言。若い頃、科挙を受験したが及第できず、各地を放浪して李白らと親交を結んだ。安史の乱では賊軍に捕らえられたが、やがて脱出し、新帝粛(しゅく)宗(そう)のもとで左拾遺(天子に諫言する職)に任じられた。その翌年左遷されたため官を捨てた。四十八歳の時、成都(四川省成都市)の近くの浣(かん)花(か)渓(けい)に草堂を建てて四年ほど過ごしたが、再び各地を転々とし一生を終えた。中国最高の詩人として「詩聖」と呼ばれ、李白とともに「李杜(りと)」と並称される。『杜工部集』『草堂詩箋』などがある。ウィキペディア【杜甫】参照。
安西都護胡靑驄
安西(あんせい)都護(とご)の胡(こ)青驄(せいそう)
  • 安西都護 … 安西都護府の司令官、高(こう)仙(せん)芝(し)を指す。安西は、都護府の名。はじめ新疆ウイグル自治区トルファン市付近に、のちクチャ県に置かれた。ウィキペディア【安西大都護府】参照。
  • 胡青驄 … 胡地産の青馬(あおうま)。胡は、中国の北方や西方など、外地の産物であることを表す言葉。青驄は、青みがかってみえる黒色の毛をした馬。
聲價歘然來向東
声(せい)価(か) 欻然(くつぜん)として 来(きた)りて東(ひがし)に向(むか)う
  • 声価 … 評判。名声。名馬であるという評判。
  • 欻然 … たちまち。突然。にわかに。忽然に同じ。
  • 来向東 … 東のかた長安の都へやってきた。
此馬臨陣久無敵
此(こ)の馬(うま) 陣(じん)に臨(のぞ)んで久(ひさ)しく敵(てき)無(な)く
  • 臨陣 … 戦陣に臨んで。戦陣に出ては。敵と対陣して。
與人一心成大功
人(ひと)と心(こころ)を一(いつ)にして大功(たいこう)を成(な)せり
  • 与人 … 騎(の)り手と。
  • 一心 … 心を一つにして。心を合わせて。
  • 大功 … 大きな手柄。大きな戦功。
功成惠養隨所致
功(こう)成(な)って恵養(けいよう)せられて致(いた)す所(ところ)に随(したが)い
  • 功成 … 功を成し遂げた今。
  • 恵養 … いつくしみ養う。大切に飼育される。劉宋の顔(がん)延(えん)之(し)(384~456)の「赭(しゃ)白(はく)馬(ば)の賦」(『文選』巻十四)に「願わくは恵養を終えて、本枝を蔭(おお)わん」(願終惠養、蔭本枝兮)とある。本枝は、子孫。ウィキソース「赭白馬賦」参照。なお、顔延之については、ウィキペディア【顔延之】参照。
  • 随所致 … 主人が連れて行く所について来る。主人に連れられて。
飄飄遠自流沙至
飄飄(ひょうひょう)として遠(とお)く流(りゅう)沙(さ)より至(いた)る
  • 飄飄 … 風に吹かれて、ひらひらと翻(ひるがえ)るさま。ここでは西域から吹く西風に吹かれるように、はるか遠くからやって来たことの形容。
  • 飄 … 『全唐詩』には「一作颻」と注する。
  • 流沙 … 西域の砂漠を指す。砂が風に吹かれて動く様子が、あたかも水が流れているようであるところからいう。
  • 自 … 「より」と読み、「~から」と訳す。返読文字。時間・場所などの起点を示す。
雄姿未受伏櫪恩
雄(ゆう)姿(し) 未(いま)だ受(う)けず 伏櫪(ふくれき)の恩(おん)
  • 雄姿 … 雄々(おお)しく、立派な姿。
  • 未受 … (いつくしみを)いまだ受けようとしない。
  • 伏櫪 … 馬が厩(うまや)の中につながれて、飼(かい)葉(ば)桶(おけ)の飼料を食べること。老馬となって厩で養われることを指す。櫪は、飼葉桶。まぐさ桶。伏は、ふせる。飼葉桶に首を突っ込むこと。三国魏の曹操の楽府「歩出夏門行五首」の第五首「亀雖寿」に「老いたる驥(き)は櫪に伏すも、志は千里に在り」(老驥伏櫪、志在千里)とあるのに基づく。ウィキソース「龜雖壽」参照。
猛氣猶思戰場利
猛(もう)気(き) 猶(な)お思(おも)う 戦(せん)場(じょう)の利(り)
  • 猛気 … 猛々(たけだけ)しい意気。
  • 戦場利 … 戦場での働き。
踠促蹄高如踣鐵
踠(あし)促(つづ)まり蹄(ひづめ)高(たか)くして鉄(てつ)を踣(ふ)むが如(ごと)く
  • 踠促 … 馬の前脚の下の関節と蹄(ひづめ)の間が短くしまっていること。良馬の条件の一つ。踠は、「えん」と読んでもよい。促は、「促(ちぢ)まり」「促(せま)り」と読んでもよい。
  • 踠 … 『全唐詩』では「腕」に作り、「一作踠」と注する。
  • 蹄高 … 蹄が厚いこと。良馬の条件の一つ。
  • 踣鉄 … 鉄を踏み破る。蹄の固いことの喩え。
交河幾蹴層冰裂
交(こう)河(が) 幾(いく)たびか層(そう)冰(ひょう)を蹴(ふ)みて裂(さ)く
  • 交河 … 川の名。今の新疆ウイグル自治区トルファン市辺りを流れる。
  • 層冰 … 幾重にも重なった厚い氷。
  • 蹴 … 踏み割る。踏み砕く。
五花散作雲滿身
五花(ごか)は散(さん)じて雲(くも)の身(み)に満(み)つるを作(な)し
  • 五花 … 馬の毛並みが五つの花模様のように見えること。また、馬のたてがみを五つに分けて編んだものとする説もある。
  • 散作雲満身 … (五つの花模様が)散らばって、全身に雲をまとっているように見える。
萬里方看汗流血
万(ばん)里(り)方(はじ)めて看(み)る 汗(あせ)の血(ち)を流(なが)すを
  • 方 … 「はじめて」と読む。初めて。やっと。
  • 汗流血 … 西域の大宛(だいえん)国(フェルガナ)で産する名馬は、血のような色の汗を流し、汗血(かんけつ)馬(ば)と呼ばれたという伝説に基づく。
長安壯兒不敢騎
長(ちょう)安(あん)の壮(そう)児(じ)も敢(あ)えて騎(の)らず
  • 壮児 … 血気盛んな若者。威勢のよい若者。
走過掣電傾城知
走(そう)過(か) 掣電(せいでん) 城(しろ)を傾(かたむ)けて知(し)る
  • 走過 … 「走(はし)り過(す)ぎて」と読んでもよい。名馬の走り過ぎるさま。名馬の走り過ぎる疾(はや)さ。
  • 掣電 … 「電(いなずま)を掣(せい)する」と読んでもよい。稲妻が閃(ひらめ)くように疾(はや)い。きわめて疾いことの喩え。
  • 傾城 … 長安の城中。城内全部。町中の人々。「城を挙(あ)げて」に同じ。
靑絲絡頭爲君老
青(せい)糸(し) 頭(かしら)に絡(まと)いて 君(きみ)が為(ため)に老(お)ゆ
  • 青糸絡頭 … 「青(せい)糸(し)の絡頭(らくとう)」と読んでもよい。青い絹糸で編まれた面繋(おもがい)。面繋は、馬具の一つで、馬の頭から頬にかけて飾りとした組み紐のこと。
  • 君 … 主人。高都護(高(こう)仙(せん)芝(し))を指す。
何由卻出橫門道
何(なに)に由(よ)ってか却(かえ)って出(い)でん 横門(こうもん)の道(みち)
  • 何由 … 何とかして。
  • 横門 … 長安城の北側の三つの門のうち、一番西側の門の名。西域に向かう道。
  • 何由却出横門道 … 何とかしてもう一度、横門を出て西域で活躍できないものだろうか。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻二(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
  • 『全唐詩』巻二百十六(排印本、中華書局、1960年)
  • 『宋本杜工部集』巻一(影印本、台湾学生書局、1967年)
  • 『杜詩詳注』巻二(仇兆鰲注、中華書局、1979年)
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