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短歌行贈王郎司直(杜甫)

短歌行贈王郎司直
短(たん)歌(か)行(こう) 王郎(おうろう)司(し)直(ちょく)に贈(おく)る
杜甫(とほ)
  • 七言古詩。哀・才・開・回(上平声灰韻)/開・履・子・矣(上声紙韻)、換韻。
  • ウィキソース「全唐詩/卷220」参照。
  • 短歌行 … 楽府題の一つ。
  • 王郎 … 姓は王。郎は親しみをこめた呼び方。作者の友人ではあるが、人物については不詳。
  • 司直 … 官名。東宮御所の役人や護衛兵の目付役。
  • 杜甫 … 712~770。盛唐の詩人。河南府鞏(きょう)県(河南省鄭(てい)州(しゅう)市鞏(きょう)義(ぎ)市)生まれ。本籍は襄(じょう)州襄(じょう)陽(よう)県(湖北省襄陽市襄州区)の人。字(あざな)は子美(しび)。祖父は初唐の詩人、杜審言。若い頃、科挙を受験したが及第できず、各地を放浪して李白らと親交を結んだ。安史の乱では賊軍に捕らえられたが、やがて脱出し、新帝粛(しゅく)宗(そう)のもとで左拾遺(天子に諫言する職)に任じられた。その翌年左遷されたため官を捨てた。四十八歳の時、成都(四川省成都市)の近くの浣(かん)花(か)渓(けい)に草堂を建てて四年ほど過ごしたが、再び各地を転々とし一生を終えた。中国最高の詩人として「詩聖」と呼ばれ、李白とともに「李杜(りと)」と並称される。『杜工部集』『草堂詩箋』などがある。ウィキペディア【杜甫】参照。
王郎酒酣拔劍斫地歌莫哀
王郎(おうろう) 酒(さけ)酣(たけなわ)にして剣(けん)を抜(ぬ)き地(ち)を斫(き)って莫哀(ばくあい)を歌(うた)う
  • 斫地 … 地面を切りつける。
  • 莫哀 … これ以上の哀しみはないという悲壮な曲。三国魏の曹植「愍(びん)志(し)の賦」に「哀(かな)しきは永(とわ)に絶たるるより哀しきは莫く、悲しきは生きながら離るるより悲しきは莫し」(哀莫哀于永絶、悲莫悲于生離)とあるのを踏まえる。ウィキソース「曹子建集 (四部叢刊本)/卷第二」参照。
我能拔爾抑塞磊落之奇才
我(われ)能(よ)く爾(なんじ)が抑塞(よくそく)磊落(らいらく)の奇(き)才(さい)を抜(ぬ)かん
  • 抜 … 本来は抜擢するの意だが、ここでは相手の才能を高く評価する程度の意。
  • 抑塞 … 押さえつけられていること。
  • 磊落 … 志が大きくて小さな事にこだわらないさま。
豫章翻風白日動
予(よ)章(しょう)は風(かぜ)に翻(ひるがえ)って白日(はくじつ)動(うご)き
  • 予章 … 巨大な楠の木。王郎の奇才にたとえる。
  • 白日動 … 太陽までが揺れ動く。
鯨魚跋浪滄溟開
鯨魚(げいぎょ)は浪(なみ)を跋(ふ)んで滄溟(そうめい)開(ひら)く
  • 鯨魚 … くじら。予章とともに、王郎の奇才にたとえる。
  • 跋 … 踏む。
  • 滄溟 … 大海。
且脱劍佩休徘徊
且(しばら)く剣佩(けんぱい)を脱(だっ)して徘徊(はいかい)するを休(や)めよ
  • 剣佩 … 剣と腰に下げる玉。『全唐詩』では「佩剣」に作り、「一作剣佩」と注する。
  • 休 … やめる。
  • 徘徊 … 歩き回る。『荘子』盗跖篇に「而(なんじ)の意を独成(どくせい)して、道と与(とも)に徘徊せよ」(獨成而意、與道徘徊)とある。独成は、独り自ら成すこと。徘徊は、ここでは転変推移していくこと。ウィキソース「莊子/盜跖」参照。また、三国魏の曹植の楽府「七哀の詩」(『文選』巻二十三、『玉台新詠』巻二では「雑詩五首其一」、『楽府詩集』巻四十一では「怨詩行二首其二」と題す)に「明月高楼(こうろう)を照らし、流(りゅう)光(こう)正(まさ)に徘徊す」(明月照高樓、流光正徘徊)とある。ウィキソース「七哀詩 (曹子建)」参照。また、三国魏の応瑒(おうとう)「五官中郎将の建章台の集(つど)いに侍するの詩」(『文選』巻二十)に「問う子(し)何(いず)れの郷にか遊び、翼を戢(おさ)めて正に徘徊すと」(問子遊何郷、戢翼正徘徊)とある。ウィキソース「侍五官中郎將建章臺集詩」参照。また、南朝梁の元帝の楽府「傷別離」(『玉台新詠』巻七、『楽府詩集』巻二十三では「関山月」に作る)に「月(げっ)中(ちゅう)桂樹(けいじゅ)を含み、流(りゅう)影(えい)自ずから徘徊す」(月中含桂樹、流影自徘徊)とある。ウィキソース「傷別離」「樂府詩集/023卷」参照。『全唐詩』では「裴回」に作る。
西得諸侯棹錦水
西(にし)のかた諸侯(しょこう)を得(え)んとして錦水(きんすい)に棹(さお)さす
  • 得諸侯 … 自分の才能を認めてくれる諸侯を見つけて、その人に仕えること。ここでいう諸侯とは節度使のこと。
  • 錦水 … 四川省成都の近くを流れる川。錦江。
欲向何門趿珠履
何(いず)れの門(もん)に向(む)かってか珠(しゅ)履(り)を趿(ふ)まんと欲(ほっ)する
  • 趿 … 『全唐詩』には「一作颯」と注する。
  • 趿珠履 … 珠履は宝玉で飾った靴。趿はつっかけてはくこと。諸侯に仕え、上客として待遇されること。
仲宣樓頭春色深
仲(ちゅう)宣(せん)の楼頭(ろうとう) 春色(しゅんしょく)深(ふか)し
  • 仲宣楼 … 湖北省荊州(今の江陵)にあった楼。魏の詩人、王粲(おうさん)がこの楼に登って「登楼の賦」を作ったため仲宣楼と呼ばれた。仲宣は、王粲の字(あざな)。
  • 色 … 『全唐詩』には「一作已」と注する。
青眼高歌望吾子
青眼(せいがん)高(こう)歌(か)して吾子(ごし)を望(のぞ)む
  • 青眼 … 親しい人に対するうれしい目つき。三国魏の阮籍が気に入らない客に対しては白眼で、親友に対しては青眼で応対したという故事に基づく。『晋書』阮籍伝に「籍(せき)は又た能く青白眼を為(な)す。礼俗の士を見れば、白眼を以て之に対す。嵇(けい)喜(き)来(きた)りて弔(とむら)うに及び、籍白眼を作(な)す。喜懌(よろこ)ばずして退(しりぞ)く。喜の弟康(こう)之を聞き、乃ち酒を齎(もたら)し琴を挟(さしはさ)んで造(いた)る。籍大いに悦(よろこ)び、乃ち青眼を見(あらわ)す」(籍又能爲靑白眼。見禮俗之士、以白眼對之。及嵇喜來弔、籍作白眼。喜不懌而退。喜弟康聞之、乃齎酒挾琴造焉。籍大悅、乃見靑眼)とある。ウィキソース「晉書/卷049」参照。
  • 高歌 … 声高らかに歌うこと。
  • 吾子 … 相手を親しんでいう言葉。あなた。
眼中之人吾老矣
眼(がん)中(ちゅう)の人(ひと) 吾(われ)老(お)いたり
  • 眼中之人 … 目の中に浮かぶ人。思い慕っている人。ここでは王郎を指す。
  • 吾老矣 … 私はもう老いてしまった。『論語』微子篇に「吾(われ)老(お)いたり。用(もち)うること能(あた)わざるなり」(吾老矣。不能用也)とある。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻二(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
  • 『全唐詩』巻二百二十(排印本、中華書局、1960年)
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