>   漢詩   >   歴代詩選:南宋   >   沈園二首 其一(陸游)

沈園二首 其一(陸游)

沈園二首 其一
沈園しんえんしゅ いち
りくゆう
  • 〔テキスト〕 『須溪精選陸放翁詩集後集』巻七(『四部叢刊 初編集部』所収)、『剣南詩稿』巻三十八(『四庫全書』所収)、他
  • 七言絶句。哀・臺・來(平声灰韻)。
  • ウィキソース「沈園 (陸游)」参照。
  • 慶元五年(1199)春、故郷での作。七十五歳。別れた妻唐琬とうえんへの思慕の情を詠じた詩。
  • 沈園 … しん氏所有の庭園。沈氏については不詳。庭園は紹興の町のせき寺のそばにあった。また、近くには鲁迅故里がある。沈園は陸游の最初の妻、唐琬とうえんとの思い出の地である。陸游は二十歳の頃、母方の姪にあたる唐琬と結婚、夫婦仲は円満だったが、姑との折り合いが悪く、離縁させられ、その後それぞれ再婚した。三十一歳の春、たまたまこの沈園で唐琬とその夫に出会った。唐琬は夫の許しを得て、人をやって陸游に酒肴を届けさせた。陸游は園内の建物の壁に「とうほう」という詞を書き付けて立ち去った。唐琬はその後まもなく他界したという。
  • 陸游 … 1125~1210。南宋の詩人。越州山陰(浙江省紹興市)の人。あざなは務観。号は放翁。二十九歳のとき進士の試験に一位で及第したが、宰相秦檜しんかいに妨害されて殿試で落第させられた。秦檜の死後、三十四歳で初めて官界に入り、福州寧徳(現在の福建省寧徳市)の主簿に就き、さらに都の微官や地方官を歴任した。激情の憂国・愛国詩人でもあり、また自然を愛する田園詩人でもあった。著に『剣南詩稿』八十五巻、『なん文集』五十巻、『入蜀記』などがある。ウィキペディア【陸游】参照。
城上斜陽畫角哀
城上じょうじょう斜陽しゃよう かくかな
  • 城上 … 城壁の上。
  • 斜陽 … 夕日。
  • 画角 … 絵の描いてある角笛つのぶえ。守備兵が吹き鳴らすラッパの一種。朝夕を知らせる。
沈園非復舊池臺
沈園しんえん ふるだいあら
  • 非復 … 「また~にあらず」と読み、「もう二度と~ではない」と訳す。「不復」と同じ。
  • 池台 … 庭の池と、それに面して立つ楼台。
  • 非復旧池台 … 今はもう昔のままではない。
傷心橋下春波綠
しょうしんす きょう しゅんみどりなり
  • 傷心 … 私の心を傷ませるのは。胸が傷むのは。
  • 橋下 … 橋の下。
  • 春波緑 … 春の水が緑の波を揺らめかせている。
曾是驚鴻照影來
かつれ きょうこう かげらしきた
  • 曽 … 「かつて」と読み、「以前に~(したことがあった)」「以前~(していた)」「かつては~(であった)」と訳す。過去の経験の意を示す。「嘗」も同じ。
  • 是 … 「~これ…」と読み、「~は…だ」と訳す。認定の意を示す。けい(英語のbe動詞のようなもの)。
  • 驚鴻 … 驚いて飛び立つおおとり。「鴻」は、おおとり、おおがも。または、ひしくい(大きな雁)。通常は美人の姿の立居振舞に喩えるが、ここでは自分のもとを去って行った妻唐琬とうえんの姿に喩えている。魏のそうしょくの「洛神らくしん」に、神女を形容して「かたちたるや、へんたることきょうこうごとく、えんたることゆうりゅうごとし」(其形也、翩若驚鴻、婉若遊龍)とあるのに基づく。「翩」は、ひらひらと軽やかに飛ぶようなさま。「婉」は、しなやかで美しいさま。ウィキソース「洛神賦」参照。
  • 照影来 … 姿を映したこともあった。
  • 来 … 動詞の後に軽く添える助字。「~したことがあった」と訳す。過去の経験を表す。
余説
 陸游と唐琬とうえんとのエピソードは、幸田露伴の「幽夢」(『幽秘記』所収)に見える。『幽夢』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
歴代詩選
古代 前漢
後漢
南北朝
初唐 盛唐
中唐 晩唐
北宋 南宋
唐詩選
巻一 五言古詩 巻二 七言古詩
巻三 五言律詩 巻四 五言排律
巻五 七言律詩 巻六 五言絶句
巻七 七言絶句
詩人別
あ行 か行 さ行
た行 は行 ま行
や行 ら行