青青河畔草(「古詩十九首」第二首)
靑靑河畔草
青青たる河畔の草
青青たる河畔の草
靑靑河畔草
青青たる河畔の草
- 青青 … 草が青々と茂るさま。畳語。『詩経』衛風・淇奥に「彼の淇奧を瞻れば、緑竹青青たり」(瞻彼淇奧、綠竹靑靑)とある。淇は、川の名。奧は、隈。ウィキソース「詩經/淇奧」参照。また、古楽府「飲馬長城窟行」(『文選』巻二十七、『玉台新詠』巻一では蔡邕の作とする)に「青青たる河辺の草、綿綿として遠道を思う」(靑靑河邊草、綿綿思遠道)とある。ウィキソース「飲馬長城窟行 (蔡邕)」参照。
- 河畔草 … 川のほとりの草。川辺の草。
鬱鬱園中柳
鬱鬱たる園中の柳
- 鬱鬱 … 樹木がさかんに茂っているさま。畳語。『文選』李善注に「鬱鬱は、茂盛なり」(鬱鬱、茂盛也)とある。ウィキソース「昭明文選/卷29」参照。
- 園中柳 … 庭園の柳。
- 青青河畔草、鬱鬱園中柳 … 『文選』張銑注に「此れは人の盛才有りて、暗主に事うるに喩う。故に婦人の夫に事うるの事を以て託して之に言う。言うこころは草柳は、春の盛時に当たるなり」(此喩人有盛才、事於暗主。故以婦人事夫之事託言之。言草柳者、當春盛時也)とある。ウィキソース「六臣註文選 (四庫全書本)/卷29」参照。
盈盈樓上女
盈盈たる楼上の女
皎皎當牕牖
皎皎として窓牖に当たる
- 皎皎 … 白く輝くさま。「きょうきょう」と読んでもよい。畳語。『詩経』陳風・月出に「月出でて皎たり、佼人僚たり、舒ろに窈糾たり、労心悄たり」(月出皎兮、佼人僚兮、舒窈糾兮、勞心悄兮)とある。佼人は、美しい女。ウィキソース「詩經/月出」参照。その毛伝に「皎は、月光なり」(皎、月光也)とある。ウィキソース「毛詩正義/卷七」参照。また「古詩十九首」の第十首に「迢迢たる牽牛星、皎皎たる河漢の女」(迢迢牽牛星、皎皎河漢女)とある。迢迢は、はるかに遠いさま。ウィキソース「迢迢牽牛星」参照。また、同じく第十九首に「明月何ぞ皎皎たる、我が羅の牀幃を照らす」(明月何皎皎、照我羅牀幃)とある。羅は、薄い絹織物。うすぎぬ。牀幃は、寝床のとばり。ウィキソース「明月何皎皎」参照。
- 牕牖 … 窓。「牖」も窓。『文選』李善注に「草河畔に生じ、柳園中に茂る、以て美人の牕牖に当たるに喩うるなり」(草生河畔、柳茂園中、以喩美人當牎牖也)とある。ウィキソース「昭明文選/卷29」参照。
- 当 … (窓辺に)立つこと。
- 盈盈樓上女、皎皎當牕牖 … 『文選』呂向注に「盈盈は志を得ざる貌、皎皎は明なり。楼上は居、危苦にして窓牖に当たるを言う。言うこころは潜隠して明時を伺うなり」(盈盈不得志貌、皎皎明也。樓上言居危苦當䆫牖。言潛隱伺明時也)とある。ウィキソース「六臣註文選 (四庫全書本)/卷29」参照。
娥娥紅粉糚
娥娥たる紅粉の粧い
- 娥娥 … 女性の姿の美しいさま。
- 紅粉 … 紅と白粉。
- 粧 … 化粧をして粧うこと。
纖纖出素手
繊繊として素手を出だす
- 繊繊 … か細いさま。畳語。「古詩十九首」の第十首に「繊繊として素手を擢げ、札札として機杼を弄す」(纎纎擢素手、札札弄機杼)とある。機杼は、機の横糸を通す道具。形は小さい舟形。ウィキソース「迢迢牽牛星」参照。
- 素手 … 白く美しい手。素は、白。
- 娥娥紅粉糚、繊繊出素手 … 『文選』李善注に「方言に曰く、秦・晋の間、美貌、之を娥と謂う、と。韓詩に曰く、繊繊たる女手、以て裳を縫う可し、と。薛君に曰く、繊繊は、女手の貌、と。毛萇に曰く、摻摻は、猶お繊繊のごときなり、と」(方言曰、秦晉之間、美貌謂之娥。韓詩曰、纖纖女手、可以縫裳。薛君曰、纖纖、女手之貌。毛萇曰、摻摻、猶纖纖也)とある。ウィキソース「昭明文選/卷29」参照。
昔爲倡家女
昔は倡家の女たり
今爲蕩子婦
今は蕩子の婦と為る
- 蕩子 … 酒色におぼれる者。道楽者。「遠くへ旅に出たまま帰らない者」という解釈もある。
- 昔為倡家女、今為蕩子婦 … 『文選』呂延済注に「昔は倡家の女たりとは、伎芸有れども未だ時に用いられざるを謂うなり。今は蕩子の婦たりとは、今君に事えて好んで人の征役に労するを言うなり。婦人夫を比して蕩子と為す。夫の征役に従うを言うなり。臣の君に事うるは亦た女の夫に事うるが如し。故に比して之を言う」(昔爲倡家女、謂有伎藝未用時也。今爲蕩子婦、言今事君好勞人征役也。婦人比夫爲蕩子。言夫從征役也。臣之事君亦如女之事夫。故比而言之)とある。ウィキソース「六臣註文選 (四庫全書本)/卷29」参照。
- 昔~、今~ … 前漢の蘇武「詩四首」(『文選』巻二十九)の第一首に「昔は鴛と鴦と為り、今は参と辰と為る」(昔爲鴛與鴦、今爲參與辰)とある。鴛・鴦は、おしどり。鴛は雄。鴦は雌。参・辰は、二つの星の名。参は西、辰は東に在り、同時に天に現れない。ウィキソース「昭明文選/卷29」参照。また、西晋の張載「七哀の詩」(『文選』巻二十三)の第一首に「昔は万乗の君たりしも、今は丘山の土と為る」(昔爲萬乘君、今爲丘山土)とある。万乗の君は、天子のこと。ウィキソース「七哀詩 (張孟陽)」参照。また、西晋の石崇「王昭君の辞」(『玉台新詠』巻二)に「昔は匣中の玉たり、今は糞上の英と為る」(昔爲匣中玉、今爲糞上英)とある。匣中は、箱の中。ウィキソース「王昭君辭」参照。また、西晋の陸機「輓歌」(『文選』巻二十八)の第三首に「昔は四民の宅に居り、今は万鬼の隣に託す。昔は七尺の軀たり、今は灰と塵と成る」(昔居四民宅、今託萬鬼鄰。昔爲七尺軀、今成灰與塵)とある。ウィキソース「昭明文選/卷28」参照。また、西晋の司馬彪「山濤に贈る」詩(『文選』巻二十四)に「昔は朝陽に植ち、枝を傾けて鸞鷟を俟てり。今は世用を絶ち、倥偬として迫束せらる」(昔也植朝陽、傾枝俟鸞鷟。今者絶世用、倥偬見迫束)とある。鸞鷟は、鳳凰の雛。世用は、世の中に役立つもの。倥偬は、うろたえるさま。迫束は、追い詰められる。ウィキソース「贈山濤」参照。また、西晋の王讚「雑詩」(『文選』巻二十九)に「昔往は鶬鶊鳴きたるに、今来は蟀蟋吟ず」(昔往鶬鶊鳴、今來蟀蟋吟)とある。鶬鶊は、高麗うぐいす。蟀蟋は、こおろぎ。また、きりぎりす。ウィキソース「昭明文選/卷29」参照。また、劉宋の顔延之「還りて梁城に至る作」(『文選』巻二十七)に「昔邁きしとき徂師に先だち、今来るとき帰軍に後る」(昔邁先徂師、今來後歸軍)とある。徂師は、出征軍。ウィキソース「昭明文選/卷27」参照。また、劉宋の鮑照の楽府「東武吟」(『文選』巻二十八)に「昔は韝上の鷹の如く、今は檻中の猿に似たり」(昔如韝上鷹、今似檻中猿)とある。韝は、ゆごて。腕を蔽い、鷹をのせる道具。ウィキソース「昭明文選/卷28」参照。また、南朝梁の范雲「古に倣う」詩(『文選』巻三十一)に「昔は前軍の幕に事え、今は嫖姚の兵を逐う」(昔事前軍幕、今逐嫖姚兵)とある。嫖姚は、嫖姚校尉。霍去病の専称。ウィキソース「昭明文選/卷31」参照。
蕩子行不歸
蕩子は行きて帰らず
- 蕩子行不帰 … 『文選』李善注に「列子に曰く、人有りて郷土を去り四方に遊びて帰らざる者、世之を謂いて狂蕩の人と為すなり、と」(列子曰、有人去郷土遊於四方而不歸者、世謂之爲狂蕩之人也)とある。ウィキソース「昭明文選/卷29」参照。
空牀難獨守
空牀 独り守ること難し
- 空牀 … 寂しい寝床。人(夫)のいない臥牀(寝台)。「空閨」に同じ。
- 蕩子行不帰、空牀難独守 … 『文選』李周翰注に「言うこころは君の好んで征役を為すこと止まず、忠諫有りと雖も終に従うことを見ず。以て独り其の志を守り難し」(言君好爲征役不止、雖有忠諫終不見從。難以獨守其志)とある。ウィキソース「六臣註文選 (四庫全書本)/卷29」参照。
テキスト
- 『文選』巻二十九([梁]蕭統編/[唐]李善注、中国古典文学叢書、上海古籍出版社、1986年)
- 『六臣註文選』巻二十九(『四部叢刊 初篇集部』所収、上海涵芬楼蔵宋刊本)
- 『先秦漢魏晋南北朝詩』漢詩 巻十二 古詩(逯欽立輯校、中華書局、1983年)
- 『古詩源』巻四 漢詩(中国古典文学基本叢書、中華書局、1963年)
- 『古詩賞析』巻四 漢詩(『漢文大系 第十八巻』、冨山房、1914年)
- 『玉台新詠箋注』巻一 枚乗雑詩九首([陳]徐陵編/[清]呉兆宜注・程琰刪補/穆克宏点校、中国古典文学基本叢書、中華書局、1985年)
- 松浦友久編『続校注 唐詩解釈辞典〔付〕歴代詩』(大修館書店、2001年)
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