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青青河畔草(「古詩十九首」第二首)

靑靑河畔草
青青(せいせい)たる河(か)畔(はん)の草(くさ)
「古詩(こし)十九(じゅうきゅう)首(しゅ)」第(だい)二(に)首(しゅ)
  • ウィキソース「青青河畔草」「昭明文選/卷29」「六臣註文選 (四庫全書本)/卷29」参照。
  • この詩は、もと妓女であった女性が放蕩者と結婚し、夫が旅に出て、ひとり寂しく留守を守る気持ちを詠んだもの。
  • 古詩十九首 … 『文選』巻二十九、雑詩の中に作者不詳として収められている五言古詩十九首のこと。前漢から後漢にかけて作られた作品。ウィキペディア【古詩十九首】参照。
靑靑河畔草 鬱鬱園中柳
青青(せいせい)たる河(か)畔(はん)の草(くさ)、鬱鬱(うつうつ)たる園(えん)中(ちゅう)の柳(やなぎ)
  • 『文選』李善注に「鬱鬱は、茂(も)盛(せい)なり」(鬱鬱、茂盛也)とある。
  • 『文選』張銑注に「此れは人の盛才有りて、暗主に事うるに喩う。故に婦人の夫に事うるの事を以て託して之に言う。言うこころは草柳は、春の盛時に当たるなり」(此喩人有盛才、事於暗主。故以婦人事夫之事託言之。言草柳者、當春盛時也)とある。
  • 青青 … 草が青々と茂るさま。畳語。『詩経』衛風・淇奥に「彼(か)の淇(き)奧(いく)を瞻(み)れば、緑(りょく)竹(ちく)青青(せいせい)たり」(瞻彼淇奧、綠竹靑靑)とある。淇は、川の名。奧は、隈。ウィキソース「詩經/淇奧」参照。また、古楽府「飲馬長城窟行」(『文選』巻二十七、『玉台新詠』巻一では蔡邕の作とする)に「青青たる河辺の草、綿綿として遠道を思う」(靑靑河邊草、綿綿思遠道)とある。ウィキソース「飲馬長城窟行 (蔡邕)」参照。
  • 河畔草 … 川のほとりの草。川辺の草。
  • 鬱鬱 … 樹木がさかんに茂っているさま。畳語。
  • 園中柳 … 庭園の柳。
盈盈樓上女 皎皎當牕牖
盈盈(えいえい)たる楼(ろう)上(じょう)の女(じょ)、皎皎(こうこう)として窓牖(そうゆう)に当(あ)たる
  • 『文選』李善注に「草河畔に生じ、柳園中に茂る、以て美人の牕牖に当たるに喩うるなり。廣雅に曰く、嬴は、容なり、と。盈と嬴とは同じ、古字通ず」(草生河畔、柳茂園中、以喩美人當牎牖也。廣雅曰、嬴、容也。盈與嬴同、古字通)とある。
  • 『文選』呂向注に「盈盈は志を得ざる貌(さま)、皎皎は明なり。楼上は居、危苦にして窓牖に当たるを言う。言うこころは潜隠して明時を伺うなり」(盈盈不得志貌、皎皎明也。樓上言居危苦當䆫牖。言潛隱伺明時也)とある。
  • 盈盈 … みずみずしく艶(あで)やかなさま。女性の容姿のゆったりとして美しいさま。畳語。古楽府「陌上桑」(『楽府詩集』巻二十八)に「盈盈として公府に歩み、冉冉(ぜんぜん)として府中に趨(はし)る」(盈盈公府歩、冉冉府中趨)とある。公府は、役所。府中は、役所の中。冉冉は、緩やかに進むさま。ウィキソース「樂府詩集/028卷」参照。
  • 楼上女 … 高殿(たかどの)に住む女。
  • 皎皎 … 白く輝くさま。「きょうきょう」と読んでもよい。畳語。『詩経』陳風・月出に「月出でて皎たり、佼人僚たり、舒(おもむ)ろに窈糾たり、労心悄たり」(月出皎兮、佼人僚兮、舒窈糾兮、勞心悄兮)とある。佼人は、美しい女。ウィキソース「詩經/月出」参照。その毛伝に「皎は、月光なり」(皎、月光也)とある。ウィキソース「毛詩正義/卷七」参照。また「古詩十九首」の第十首に「迢迢(ちょうちょう)たる牽(けん)牛(ぎゅう)星(せい)、皎皎たる河(か)漢(かん)の女(じょ)」(迢迢牽牛星、皎皎河漢女)とある。迢迢は、はるかに遠いさま。ウィキソース「迢迢牽牛星」参照。また、同じく第十九首に「明月何ぞ皎皎たる、我が羅(ら)の牀(しょう)幃(い)を照らす」(明月何皎皎、照我羅牀幃)とある。羅は、薄い絹織物。うすぎぬ。牀幃は、寝床のとばり。ウィキソース「明月何皎皎」参照。
  • 牕牖 … 窓。「牖」も窓。
  • 当 … (窓辺に)立つこと。
娥娥紅粉糚 纖纖出素手
娥娥(がが)たる紅粉(こうふん)の粧(よそお)い、繊繊(せんせん)として素(そ)手(しゅ)を出(い)だす
  • 『文選』李善注に「方言に曰く、秦・晋の間、美貌、之を娥と謂う、と。韓詩に曰く、繊繊たる女手、以て裳を縫う可し、と。薛君に曰く、繊繊は、女手の貌(さま)、と。毛萇に曰く、摻摻(せんせん)は、猶お繊繊のごときなり、と」(方言曰、秦晉之間、美貌謂之娥。韓詩曰、纖纖女手、可以縫裳。薛君曰、纖纖、女手之貌。毛萇曰、摻摻、猶纖纖也)とある。
  • 『文選』李周翰注に「娥娥は、美しき貌(さま)。繊繊は、細き貌。皆な賢人の盛才に喩うるなり」(娥娥、美貌。纖纖、細貌。皆喩賢人盛才也)とある。
  • 娥娥 … 女性の姿の美しいさま。
  • 紅粉 … 紅(べに)と白粉(おしろい)。
  • 粧 … 化粧をして粧(よそお)うこと。
  • 繊繊 … か細いさま。畳語。「古詩十九首」の第十首に「繊繊(せんせん)として素(そ)手(しゅ)を擢(あ)げ、札札(さつさつ)として機(き)杼(ちょ)を弄(ろう)す」(纎纎擢素手、札札弄機杼)とある。機杼は、機(はた)の横糸を通す道具。形は小さい舟形。ウィキソース「迢迢牽牛星」参照。
  • 素手 … 白く美しい手。素は、白。女性の手の形容。三国魏の曹植の楽府「美女篇」(『文選』巻二十七、『玉台新詠』巻二)に「袖を攘(かか)げて素手を見(あらわ)せば、皓腕(こうわん)に金環を約(やく)す」(攘袖見素手、皓腕約金環)とある。皓腕は、白い腕。金環は、金の腕輪。約すは、嵌(は)める。ウィキソース「美女篇 (曹植)」参照。
昔爲倡家女 今爲蕩子婦
昔(むかし)は倡(しょう)家(か)の女(じょ)たり、今(いま)は蕩(とう)子(し)の婦(つま)と為(な)る
  • 『文選』李善注に「史記に曰く、趙王遷、母は倡なり、と。説文に曰く、倡は、楽なり。妓を作す者を謂う、と」(史記曰、趙王遷、母倡也。説文曰、倡、樂也。謂作妓者)とある。
  • 『文選』呂延済注に「昔は倡家の女たりとは、伎芸有れども未だ時に用いられざるを謂うなり。今は蕩子の婦たりとは、今君に事えて好んで人の征役に労するを言うなり。婦人夫を比して蕩子と為す。夫の征役に従うを言うなり。臣の君に事うるは亦た女の夫に事うるが如し。故に比して之を言う」(昔爲倡家女、謂有伎藝未用時也。今爲蕩子婦、言今事君好勞人征役也。婦人比夫爲蕩子。言夫從征役也。臣之事君亦如女之事夫。故比而言之)とある。
  • 倡家女 … 歌姫。遊女。妓女。古楽府「相逢行」(『楽府詩集』巻三十四)に「堂上樽酒を置き、邯鄲の倡を作使す」(堂上置樽酒、作使邯鄲倡)とある。ウィキソース「樂府詩集/034卷」参照。
  • 蕩子 … 酒色におぼれる者。道楽者。「遠くへ旅に出たまま帰らない者」という解釈もある。
  • 昔~、今~ … 前漢の蘇武「詩四首」(『文選』巻二十九)の第一首に「昔は鴛(えん)と鴦(おう)と為り、今は参(しん)と辰(しん)と為る」(昔爲鴛與鴦、今爲參與辰)とある。鴛・鴦は、おしどり。鴛は雄。鴦は雌。参・辰は、二つの星の名。参は西、辰は東に在り、同時に天に現れない。ウィキソース「昭明文選/卷29」参照。また、西晋の張載「七哀の詩」(『文選』巻二十三)の第一首に「昔は万乗の君たりしも、今は丘山の土と為る」(昔爲萬乘君、今爲丘山土)とある。万乗の君は、天子のこと。ウィキソース「七哀詩 (張孟陽)」参照。また、西晋の石崇「王昭君の辞」(『玉台新詠』巻二)に「昔は匣(こう)中(ちゅう)の玉(たま)たり、今は糞上の英(はな)と為る」(昔爲匣中玉、今爲糞上英)とある。匣中は、箱の中。ウィキソース「王昭君辭」参照。また、西晋の陸機「輓歌」(『文選』巻二十八)の第三首に「昔は四民の宅に居り、今は万鬼の隣に託す。昔は七尺の軀(み)たり、今は灰と塵と成る」(昔居四民宅、今託萬鬼鄰。昔爲七尺軀、今成灰與塵)とある。ウィキソース「昭明文選/卷28」参照。また、西晋の司馬彪「山濤に贈る」詩(『文選』巻二十四)に「昔は朝陽に植(た)ち、枝を傾けて鸞鷟(らんさく)を俟(ま)てり。今は世用(せいよう)を絶ち、倥偬(こうそう)として迫束(はくそく)せらる」(昔也植朝陽、傾枝俟鸞鷟。今者絶世用、倥偬見迫束)とある。鸞鷟は、鳳凰の雛。世用は、世の中に役立つもの。倥偬は、うろたえるさま。迫束は、追い詰められる。ウィキソース「贈山濤」参照。また、西晋の王讚「雑詩」(『文選』巻二十九)に「昔往(むかし)は鶬鶊(そうこう)鳴きたるに、今来(いま)は蟀(しっ)蟋(しゅつ)吟ず」(昔往鶬鶊鳴、今來蟀蟋吟)とある。鶬鶊は、高麗うぐいす。蟀蟋は、こおろぎ。また、きりぎりす。ウィキソース「昭明文選/卷29」参照。また、劉宋の顔延之の詩「還りて梁城に至る作」(『文選』巻二十七)に「昔邁(ゆ)きしとき徂師(そし)に先だち、今来(きた)るとき帰軍に後(おく)る」(昔邁先徂師、今來後歸軍)とある。徂師は、出征軍。ウィキソース「昭明文選/卷27」参照。また、劉宋の鮑照の楽府「東武吟」(『文選』巻二十八)に「昔は韝(こう)上(じょう)の鷹の如く、今は檻中の猿に似たり」(昔如韝上鷹、今似檻中猿)とある。韝は、ゆごて。腕を蔽い、鷹をのせる道具。ウィキソース「昭明文選/卷28」参照。また、南朝梁の范雲「古に倣(なら)う」詩(『文選』巻三十一)に「昔は前軍の幕に事え、今は嫖(ひょう)姚(よう)の兵を逐う」(昔事前軍幕、今逐嫖姚兵)とある。嫖姚は、嫖姚校尉。霍去病の専称。ウィキソース「昭明文選/卷31」参照。
蕩子行不歸 空牀難獨守
蕩(とう)子(し)は行(ゆ)きて帰(かえ)らず、空(くう)牀(しょう) 独(ひと)り守(まも)ること難(かた)し
  • 『文選』李善注に「列子に曰く、人有りて郷土を去り四方に遊びて帰らざる者、世之を謂いて狂蕩の人と為すなり、と」(列子曰、有人去郷土遊於四方而不歸者、世謂之爲狂蕩之人也)とある。
  • 『文選』李周翰注に「言うこころは君の好んで征役を為すこと止まず、忠諫有りと雖も終に従うことを見ず。以て独り其の志を守り難し」(言君好爲征役不止、雖有忠諫終不見從。難以獨守其志)とある。
  • 空牀 … 寂しい寝床。人(夫)のいない臥(が)牀(しょう)(寝台)。空閨(くうけい)に同じ。
詩型・韻字
  • 五言古詩。
  • 柳・牖・手・婦・守(上声有韻)。
テキスト
  • 『文選』巻二十九([梁]蕭統編/[唐]李善注、中国古典文学叢書、上海古籍出版社、1986年)
  • 『六臣註文選』巻二十九(『四部叢刊 初篇集部』所収、上海涵芬楼蔵宋刊本)
  • 『先秦漢魏晋南北朝詩』漢詩 巻十二 古詩(逯欽立輯校、中華書局、1983年)
  • 『古詩源』巻四 漢詩(中国古典文学基本叢書、中華書局、1963年)
  • 『古詩賞析』巻四 漢詩(『漢文大系 第十八巻』、冨山房、1914年)
  • 『玉台新詠箋注』巻一 枚乗雑詩九首([陳]徐陵編/[清]呉兆宜注・程琰刪補/穆克宏点校、中国古典文学基本叢書、中華書局、1985年)
  • 松浦友久編『続校注 唐詩解釈辞典〔付〕歴代詩』(大修館書店、2001年)
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