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衛霊公第十五 26 子曰巧言亂德章

405(15-26)
子曰、巧言亂德。小不忍、則亂大謀。
いわく、巧言こうげんとくみだる。しょうしのばざれば、すなわ大謀たいぼうみだる。
現代語訳
  • 先生 ――「口ぐるまは人をそこなう。ちょっとの腹だちが、大事をぶちこわす。」(がえり善雄『論語新訳』)
  • 孔子様がおっしゃるよう、「言葉上手は道徳を害し、しょう堪忍かんにんができぬと大事業が成らぬ。」(穂積重遠しげとお『新訳論語』)
  • 先師がいわれた。――
    「口上手は道義をやぶり、小事に対する忍耐心の欠乏は大計画をやぶるものだ」(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
  • 巧言 … 言葉を巧みに飾ること。言葉上手なこと。「学而第一3」の「巧言」に同じ。
  • 乱徳 … 道徳正義を乱す。
  • 小 … 小さいこと。些細なこと。
  • 不忍 … 耐え忍ぶことができない。我慢できない。「しのばず」(四段活用)、「しのびず」(上二段活用)、どちらで読んでもよい。
  • 乱大謀 … 遠大な計画が完成しない。大事を成し遂げられない。
補説
  • 『注疏』に「此の章は人の口を慎み事を忍ぶを戒むるなり」(此章戒人愼口忍事也)とある。『論語注疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 巧言乱徳 … 『義疏』に「辞は達するのみ。須らく巧弁すべからず、巧弁は文多く、更に徳に於いて之を乱すを為すなり」(辭達而已。不須巧辨、巧辨文多、更於德爲亂之也)とある。『論語義疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『注疏』に「言有る者は必ずしも徳有らず、故に巧言・利口は則ち徳義を乱る」(有言者不必有德、故巧言利口則亂德義)とある。また『集注』に「巧言は、是非を変乱す。之を聴けば人をして其の守る所を喪わしむ」(巧言、變亂是非。聽之使人喪其所守)とある。『論語集注』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 小不忍、則乱大謀 … 『集解』に引く孔安国の注に「言を巧みにし口をくすれば、則ち徳の義を乱る。小も忍ばざれば則ち大謀を乱るなり」(巧言利口則亂德義。小不忍則亂大謀也)とある。『論語集解』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『義疏』に「人須らく容忍すべくんば、則ち大事乃ち成る。若し小を忍ぶ能わずんば、則ち大事の謀乱るるなり。又た一に通じて云う、凡そ人の法たる、当に事に依りて以て断ずべし。事に大小無きは、皆便ち求め了る。若し小小忍ばずして慈しみ為す所有らば、則ち大謀成らざるなり、と」(人須容忍、則大事乃成。若不能忍小、則大事之謀亂也。又一通云、凡爲人法、當依事以斷。事無大小、皆便求了。若小小不忍有所慈爲、則大謀不成也)とある。また『注疏』に「山薮は疾を蔵し、国君は垢を含む、故に小事をば忍ばずんば、則ち大謀を乱る」(山藪藏疾、國君含垢、故小事不忍、則亂大謀)とある。また『集注』に「小を忍ばずは、婦人の仁、匹夫の勇の如き、皆是れなり」(小不忍、如婦人之仁、匹夫之勇、皆是)とある。
  • 伊藤仁斎『論語古義』に「其の言を巧みにする者は、必ず名理に依附し、仁義に仮託す。故に其の言是に似て、実は以て徳を乱すに足るなり。大人は量大にして、能く小事を忍ぶ。故に能く大謀を成すなり。若し小事に於いて忍ぶこと能わざれば、則ち軽動遽発して、必ず大謀を乱す。故に君子は正を崇びて巧を醜み、成を尚びて敗を悪む。亦た唯だ道の在る所のままにす」(巧其言者、必依附名理、假託仁義。故其言似是、而實足以亂德也。大人量大、能忍小事。故能成大謀也。若於小事不能忍、則輕動遽發、必亂大謀。故君子崇正而醜巧、尚成而惡敗。亦唯道之所在)とある。『論語古義』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 荻生徂徠『論語徴』に「巧言は徳を乱るは、徳言を乱るなり。巧言は徳言に似たり。故に乱ると曰う。朱註に、之を聴かば人をして其の守る所を喪わしむ、と。古文辞を識らず。且つ徳なる者は、乱る可からざる者なり。其の守る所を喪わば、豈に以て徳と為す可けんや。すこしき忍びざるときは則ち大謀を乱ると。聖人の忍びざるを貴ばざるなり。孟子仁の内外を争いしよりして、忍びざるの心は儒者の大訓と為る。孔氏の旧に非ず。学者これを察せよ」(巧言亂德、亂德言也。巧言似德言。故曰亂。朱註、聽之使人喪其所守。不識古文辭。且德也者、不可亂者也。喪其所守、豈可以爲德哉。小不忍則亂大謀。聖人之不貴不忍也。自孟子爭仁内外、而不忍之心爲儒者大訓。非孔氏之舊。學者察諸)とある。『論語徴』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
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