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衛霊公第十五 13 子曰臧文仲其竊位者與章

392(15-13)
子曰、臧文仲、其竊位者與。知柳下惠之賢、而不與立也。
いわく、ぞうぶんちゅうくらいぬすものか。りゅうけいけんりて、しかともたざるなり。
現代語訳
  • 先生 ――「臧(ゾウ)文仲はロクむすびとだな。柳下恵の才能を知りながら、おなじ役にしなかったんだもの。」(がえり善雄『論語新訳』)
  • 孔子様がおっしゃるよう、「ぞうぶんちゅうろく盗人ぬすびとよな、りゅうけいが賢人であることを知りながら、これを推薦すいせんして共に朝廷に立つことをしなかった。」(穂積重遠しげとお『新訳論語』)
  • 先師がいわれた。――
    ぞうぶんちゅうは位をぬすむ人というべきであろう。りゅうけいの賢人たることを知っていながら、彼を推挙してともに朝廷に立とうとはしなかったのだ」(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
  • 臧文仲 … ?~前617。魯の大夫。姓は臧孫、名は辰、あざなは仲、文はおくりな。臧宣叔は子。臧武仲は孫。孔子の出生より六十六年前に死去。当時、知者として知られた。ウィキペディア【臧文仲】(中文)参照。
  • 窃位 … 資格や徳がないのに、その地位についていること。
  • 柳下恵 … 前720~前621。魯の賢人。姓は展、名は獲。あざなきん。展季とも呼ばれた。柳下に住んだという。恵はおくりな。ウィキペディア【柳下惠】(中文)参照。
  • 与立 … ともに朝廷に勤め、よい政治をすること。
補説
  • 『注疏』に「此の章は人に賢を挙ぐるをすすむるなり」(此章勉人舉賢也)とある。『論語注疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 臧文仲、其窃位者与 … 『義疏』に「魯の大夫なり。窃は、盗なり。臧文仲位に居ると雖も、位当たらざるに居れば、位を盗む者と同じ。故に位を窃む者かと云うなり」(魯大夫也。竊、盗也。臧文仲雖居位、居位不當、與盗位者同。故云竊位者歟也)とある。『論語義疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『注疏』に「窃は、盗なり。魯の大夫臧文仲は賢を知れども挙げず、位に偸安とうあんす。故に位を窃むと曰う」(竊、盜也。魯大夫臧文仲知賢不舉、偸安於位。故曰竊位)とある。偸安は、一時逃れをすること。また『集注』に「位を窃むは、其の位にかなわずして心に愧ずること有り、盗み得るが如くしてひそかに之に拠るを言うなり」(竊位、言不稱其位而有愧於心、如盗得而陰據之也)とある。『論語集注』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 知柳下恵之賢、而不与立也 … 『集解』に引く孔安国の注に「柳下恵は、展禽なり。其の賢を知るも挙げざれば、位を窃めりと為すなり」(柳下惠、展禽也。知其賢而不舉、爲竊位也)とある。『論語集解』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『義疏』に「此れ臧文仲の位を窃むの由なり。凡そ位に在る者、当に君を助け賢才を挙げて、以て共にきょうすべし。而るに文仲位に在りて、柳下恵の賢を知れども、之を君に薦めずして、己と同じく公朝に立たしむ。是れそん盗位する所以なり」(此臧文仲竊位之由也。凡在位者、當助君舉賢才、以共匡佐。而文仲在位、知柳下惠之賢、而不薦之於君、使與己同立公朝。所以是素飡盗位也)とある。匡佐は、救い助けること。素飡は、仕事もしないで俸禄を受けること。また『注疏』に「其の柳下恵の賢を知りて、しょうきょしてともに朝廷に立つことをせざるを以てなり」(以其知柳下惠之賢、不稱舉與立於朝廷也)とある。称挙は、抜擢すること。また『集注』に「柳下恵は、魯の大夫展獲、字は禽、邑を柳下にみ、謚して恵と曰う。与に立つは、之と朝に並び立つを謂う」(柳下惠、魯大夫展獲、字禽、食邑柳下、諡曰惠。與立、謂與之並立於朝)とある。
  • 『集注』に引く范祖禹の注に「臧文仲は政を魯に為す。若し賢を知らざれば、是れ不明なり。知りて挙げざれば、是れ賢を蔽うなり。不明の罪は小、賢を蔽うの罪は大なり。故に孔子以て不仁と為し、又た以て位を窃むと為す」(臧文仲爲政於魯。若不知賢、是不明也。知而不舉、是蔽賢也。不明之罪小、蔽賢之罪大。故孔子以爲不仁、又以爲竊位)とある。
  • 伊藤仁斎『論語古義』に「賢を薦め能を挙ぐるは、位に居る者の任なり。若し其の賢を知らずして、之を挙げざれば、則ちまことに其の職にかなわず。況んや知りて之を挙げざれば、則ち猶お其のたもつに非ざる者を盗窃して、陰に自ら之をたもつがごとし。故に位をぬすむと曰う。甚だ其の罪の大なるを言うなり。後の位に在る者、宜しく此にいましむべし」(薦賢舉能、居位者之任也。若不知其賢、而不舉之、則固不稱其職。況知而不舉之、則猶盜竊非其有者、而陰自有之。故曰竊位。甚言其罪之大也。後之在位者、宜監於此)とある。『論語古義』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 荻生徂徠『論語徴』に「孔子臧文仲を以て位を窃める者と為すは、其れ之をそしる者至れり。是れ乃ち孔叔文子の以て文と為す可きの意なり。皐陶こうよう、民を安んじ人を知るを以て万古天下を治むるの道を尽くす。而うして民を安んずるは人を知るに非ずんば則ち得可からず。樊遅知を問う、孔子人を知るを以て之に答う。唯だ人を知ることのみ以て知の道を尽くす可し。故に賢をおおう者は、聖人の悪む所なり。孟子曰く、不祥の実は、賢を蔽う者之に当たる、と。是れ亦た孔門伝授の説なること、以て見る可きのみ」(孔子以臧文仲爲竊位者、其譏之者至矣。是乃孔叔文子可以爲文意。皐陶之謨、以安民知人盡乎萬古治天下之道。而安民非知人則不可得矣。樊遲問知、孔子以知人答之。唯知人可以盡知之道焉。故蔽賢者、聖人所惡也。孟子曰、不祥之實、蔽賢者當之。是亦孔門傳授之説、可以見已)とある。『論語徴』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
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