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顔淵第十二 17 季康子問政於孔子章

295(12-17)
季康子問政於孔子。孔子對曰、政者正也。子帥以正、孰敢不正。
こうまつりごとこうう。こうこたえていわく、せいせいなり。ひきいるにせいもってせば、たれえてただしからざらん。
現代語訳
  • (家老の)季孫さんが政治のことを孔先生にきく。先生の答え ―― 「政は正に通じます。あなたが正しくしてみせれば、だれも不正はしますまい。」(がえり善雄『論語新訳』)
  • たいこうが政治のしかたを質問した。孔子様が答えられるよう、「政は文字から見ても正ということであります。上に立つあなたが率先そっせんして正しき道を行われたならば、人民たちだれが正しくならぬ者がありましょうや。」(穂積重遠しげとお『新訳論語』)
  • 季康子が政治について先師にたずねた。先師はこたえられた。――
    「政治のせいせいであります。あなたが真っ先に立って正を行われるならば、誰が正しくないものがありましょう」(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
  • 季康子 … の国の大夫。姓は季孫、名は肥、康は諡号。子は男子の尊称。魯の三人の家老のひとり。ウィキペディア【三桓氏】参照。
  • 政 … 政治。
  • 対 … 目上の人にていねいに答えるときに用いる。
  • 政者正也 … 「せいなるものせいなり」と読んでもよい。
  • 正 … すべての不正を正しくする。
  • 子 … あなた。敬語。季康子を指す。
  • 帥 … 率先して人々を導く。統率する。「率」に同じ。
  • 以正 … 正しさをもって。
  • 孰 … 「誰」に同じ。
  • 敢不 … 「あえて~せざらんや」と読み、「どうして~(し)ないだろうか、(いや)~する(だろう)」と訳す。反語の形。
補説
  • 『注疏』に「此の章は為政は己を修むるに在るを言う」(此章、言爲政在乎修己)とある。『論語注疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 季康子問政於孔子 … 『集解』に引く鄭玄の注に「季康子は、魯のじょうけい、諸臣のすいなり」(季康子、魯上卿、諸臣之帥也)とある。『論語集解』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『義疏』に「亦た政を為すの法を孔子に問うなり」(亦問爲政之法於孔子也)とある。『論語義疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 孔子対曰、政者正也 … 『義疏』に「字訓を解して以て之に答うるなり。言うこころは官を治め政を為すを謂う所以の者は、政は中正の正と訓ずるなり」(解字訓以答之也。言所以謂治官爲政者、政訓中正之正也)とある。また『注疏』に「政教は斉正するに在るを言うなり」(對曰、政者正也者、言政教者在於齊正也)とある。
  • 子帥以正、孰敢不正 … 『義疏』に「又た政の正と訓ずる所以の義を解するなり。言うこころは民の上に従うこと、影の身に随うが如く表る。若し君上自らしんを率いるに正しきの事を為さば、則ち民下誰か敢えて正しからざる者あらんや」(又解政所以訓正之義也。言民之從上、如影隨身表。若君上自率己身爲正之事、則民下誰敢不正者耶)とある。また『注疏』に「言うこころは康子は魯の上卿たりて、諸臣の帥なり。若し己能く事毎ことごとに以て正しくせば、則ち己の下の臣民、誰か敢えて正しからざらん」(子帥以正、孰敢不正者、言康子爲魯上卿、諸臣之帥也。若己能每事以正、則己下之臣民、誰敢不正也)とある。また『集注』に引く范祖禹の注に「未だ己正しからずして能く人を正しくする者有らず」(未有己不正而能正人者)とある。『論語集注』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 『集注』に引く胡寅の注に「魯は中葉より、政は大夫に由り、家臣とがならい、邑に拠りて背叛す。不正なること甚だし。故に孔子れを以て之に告げ、康子の正を以て自ら克ちて、三家のを改めんことを欲す。惜しいかな、康子の利欲に溺れて能わざるなり」(魯自中葉、政由大夫、家臣效尤、據邑背叛。不正甚矣。故孔子以是告之、欲康子以正自克、而改三家之故。惜乎、康子之溺於利欲而不能也)とある。
  • 伊藤仁斎『論語古義』に「君は本なり、民は末なり。表正しければ則ち影直く、源清ければ則ち流れ澄む。故に曰く、其の身正しければ、令せずして行わる。其の身正しからざれば、令すと雖も従わず、と。……大凡そ聖賢の政を論ずる、基の本に反すること皆くの如し。下の二章を通じて、皆の意なりと云う」(君者本也、民者末也。表正則影直、源清則流澄。故曰、其身正、不令而行。其身不正、雖令不從。……大凡聖賢之論政、反基本皆如此。通下二章、皆此意云)とある。『論語古義』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 荻生徂徠『論語徴』には、この章の注なし。
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