顔淵第十二 16 子曰君子成人之美章
294(12-16)
子曰、君子成人之美、不成人之惡。小人反是。
子曰、君子成人之美、不成人之惡。小人反是。
子曰く、君子は人の美を成し、人の悪を成さず。小人は是に反す。
現代語訳
- 先生 ――「人物は人の美点を助け、悪にはみかたしない。俗物はその反対だ。」(魚返善雄『論語新訳』)
- 孔子様がおっしゃるよう、「君子は他人の善事や成功を喜んでそれが成就せんことを願い、他人が失敗したり悪評を受けたりするのを心配して、援助したり弁解したりする。小人はその反対じゃ。」(穂積重遠『新訳論語』)
- 先師がいわれた。――
「君子は人の美点を称揚し、助長するが、人の欠点にはふれまいとする。小人はその反対である」(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
- 成 … 成し遂げさす。援助して完成させる。
- 人之美 … 他人の美点。長所。善行。
- 不成 … 成り立たせないようにする。完成させないようにする。
- 人之悪 … 他人の悪い点。欠点。短所。
- 反是 … その反対。その逆。
補説
- 『注疏』に「此の章の言うこころは君子の人に於ける、善を嘉して不能を矜れみ、又た復た仁恕あり、故に人の美を成し、人の悪を成さざるなり。小人は則ち賢を嫉み禍を楽しみて、人の悪を成し、人の美を成さず。故に是れに反すと曰う」(此章言君子之於人、嘉善而矜不能、又復仁恕、故成人之美、不成人之惡也。小人則嫉賢樂禍、而成人之惡、不成人之美。故曰反是)とある。『論語注疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
- 『集解』には、この章の注なし。『論語集解』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
- 子曰、君子成人之美、不成人之悪 … 『義疏』に「美己と同じ。故に之を成すなり。悪己と異なれり。故に之を成さざるなり」(美與己同。故成之也。惡與己異。故不成之也)とある。『論語義疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『集注』に「成すとは、誘掖奨勧して、以て其の事を成すなり」(成者、誘掖奬勸、以成其事也)とある。『論語集注』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
- 小人反是 … 『義疏』に「悪己と同じ。故に之を成すなり。美己と背異す。故に之を成さざるなり。故に君子と反す」(惡與己同。故成之也。美與己背異。故不成之也。故與君子反)とある。また『注疏』に「此の章の言うこころは君子の人に於ける、善を嘉みして不能を矜れみ、又た復た仁恕あり、故に人の美を成し、人の悪を成さざるなり。小人は則ち賢を嫉み禍を楽しみて、人の悪を成し、人の美を成さず。故に是れに反すと曰う」(此章言君子之於人、嘉善而矜不能、又復仁恕、故成人之美、不成人之惡也。小人則嫉賢樂禍、而成人之惡、不成人之美。故曰反是)とある。『論語注疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『集注』に「君子と小人は、存する所、既に厚薄の殊有りて、其の好む所も、又た善悪の異有り。故に其の心を用うるの同じからざること此くの如し」(君子小人、所存、既有厚薄之殊、而其所好、又有善惡之異。故其用心不同如此)とある。
- 伊藤仁斎『論語古義』に「君子の心は、善を善とすること長くして、悪を悪とすること短し。故に人の美名有るや、褒称揄揚して、以て其の事を成全せんことを欲す。其の悪名有るや、分疏恕宥して、其れをして悪人たるに終えざらしむ。……小人の心は、刻薄にして善を忌む。人美名有れば、則ち隠伏を発擿して、以て其の事を沮壊し、悪声有れば則ち文致羅織して、以て其の罪を証成す。君子小人、心を用うること同じからざること、毎毎此くの如し」(君子之心、善善長、而惡惡短。故人之有美名也、褒稱揄揚、以欲成全其事。其有惡名也、分疏恕宥、使其不終爲惡人。……小人之心、刻薄而忌善。人有美名、則發擿隱伏、以沮壞其事、有惡聲則文致羅織、以證成其罪。君子小人、用心不同、毎毎如此)とある。分疏は、箇条を分けて弁解すること。恕宥は、許すこと。宥恕。発擿は、人の罪をあばき出すこと。沮壊は、崩れ壊れること。ここでは壊そうとすること。羅織は、罪のない者を捕らえて罪をでっち上げること。『論語古義』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
- 荻生徂徠『論語徴』に「仁斎先生曰く、君子の心は、善を善とするは長くして悪を悪とするは短し。……分疏恕宥して、其れをして悪人たるに終えざらしむ、と。味わい有るかな其の之を言うこと。学者忽ちに此の章を観れば、必ず其の悪を沮壊せんと欲す。是の見一たび生ぜば、見る所善無く、天下の人皆悪人なれば、則ち其の人一生人事を沮壊するを以て務めと為さん。是れ聖人の心ならんや。朱子の解、或いは是の弊有り。学者諸を察せよ」(仁齋先生曰、君子之心、善善長而惡惡短。……分疏恕宥、使其不終爲惡人。有味哉其言之。學者忽觀此章、必欲沮壞其惡。是見一生、所見無善、天下之人皆惡人、則其人一生以沮壞人事爲務。是聖人之心哉。朱子之解、或有是弊。學者察諸)とある。『論語徴』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
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