顔淵第十二 7 子貢問政章
285(12-07)
子貢問政。子曰。足食。足兵。民信之矣。子貢曰。必不得已而去。於斯三者何先。曰。去兵。子貢曰。必不得已而去。於斯二者何先。曰。去食。自古皆有死。民無信不立。
子貢問政。子曰。足食。足兵。民信之矣。子貢曰。必不得已而去。於斯三者何先。曰。去兵。子貢曰。必不得已而去。於斯二者何先。曰。去食。自古皆有死。民無信不立。
子貢、政を問う。子曰く、食を足らし、兵を足らし、民之を信ず。子貢曰く、必ず已むを得ずして去らば、斯の三者に於いて何をか先にせん。曰く、兵を去らん。子貢曰く、必ず已むを得ずして去らば、斯の二者に於いて何をか先にせん。曰く、食を去らん。古より皆死有り、民、信無くんば立たず。
現代語訳
- 子貢が政治のことをきく。先生 ――「食糧をふやし、軍備をよくし、人民が信頼することだ。」子貢 ―― 「どうしてもダメなときは、この三つのどれをすてますか。」 ―― 「軍備をすてる。」子貢 ―― 「どうしてもダメなときは、あとの二つのどれをすてますか。」 ―― 「食糧だ。昔から人はみな死ぬが…。信頼がなくては、国は立たぬ。」(魚返善雄『論語新訳』)
- 子貢が政治の要諦についてたずねた。先師はこたえられた。――
「食糧をゆたかにして国庫の充実をはかること、軍備を完成すること、国民をして政治を信頼せしめること、この三つであろう」
子貢がさらにたずねた。――
「その三つのうち、やむなくいずれか一つを断念しなければならないとしますと、まずどれをやめたらよろしゅうございましょうか」
先師――
「むろん軍備だ」
子貢がさらにたずねた。
「あとの二つのうち、やむなくその一つを断念しなければならないとしますと?」
先師――
「食糧だ。国庫が窮乏しては為政者が困るだろうが、昔から人間は早晩死ぬものときまっている。国民に信を失うぐらいなら、飢えて死ぬ方がいいのだ。信がなくては、政治の根本が立たないのだから」(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
- 子貢 … 前520~前446。姓は端木、名は賜。子貢は字。衛の人。孔子より三十一歳年少の門人。孔門十哲のひとり。弁舌・外交に優れていた。ウィキペディア【子貢】参照。
- 政 … 政治の要点。
- 足食 … 食糧を十分にする。
- 足兵 … 軍備を十分にする。
- 民信之矣 … 人民が為政者を信頼する。
- 必不得已 … どうしてもやむを得ない事情で。「已」は「止」に同じ。
- 去 … 捨て去る。
- 於斯三者 … この三つの中で。「於」は動詞よりも後ろにある場合は置き字として読まない。ここでは「於」が動詞(先にす)よりも前にあるので「おいて」と読む。
- 何先 … 「なにをかさきにせん」と読む。「何を先にしようか」と訳す。ここでは「どれを先に捨て去るべきか」の意。
- 自古 … 昔から。「自」は「より」と読む。
- 民無信 … 人民が為政者を信頼する心がなければ。
- 不立 … 存立しない。成立しない。
- 「無~不…」 … 否定語を重ねた形。「~なくんば…(せ)ず」と読む。
補説
- 民信之矣 … 「之を信にす」と読み、「人民に信義を重んじる心をもたせる」と訳す説もある。『義疏』では「令民信之矣」に作る。「矣」は置き字。読まない。
- 去兵。子貢曰 … 『義疏』に「子貢」の字なし。
- 民無信 … 『義疏』では「民不信」に作る。
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