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子罕第九 28 子曰知者不惑章

233(09-28)
子曰、知者不惑。仁者不憂。勇者不懼。
いわく、しゃまどわず。仁者じんしゃうれえず。勇者ゆうしゃおそれず。
現代語訳
  • 先生 ――「チエの人はまごつかない。なさけの人は苦にしない。勇気の人はおびえない。」(がえり善雄『論語新訳』)
  • 孔子様がおっしゃるよう、「知者は道理に明らかだからまよわない。仁者は常に道理に従い私欲がないから心配しない。勇者は道理の命ずるところを信じて行うからこわがらない。」(穂積重遠しげとお『新訳論語』)
  • 先師がいわれた。――
    「知者には迷いがない。仁者には憂いがない。勇者にはおそれがない」(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
  • 憲問第十四30」に順序をかえて重出。
  • 惑 … どう判断してよいか迷うこと。
  • 憂 … くよくよする。心配する。
  • 懼 … 恐れる。怖がる。動揺する。
補説
  • 『注疏』に「此の章の言うこころは、知者は事に明らかなり、故に惑乱せず。仁者は命を知る、故に憂患無し。勇者は果敢なり、故に恐懼せず」(此章言、知者明於事、故不惑亂。仁者知命、故無憂患。勇者果敢、故不恐懼)とある。『論語注疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 知者不惑 … 『集解』に引く包咸の注に「惑乱せざるなり」(不惑亂也)とある。『論語集解』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『義疏』に「此の章は、人の性分同じからざるを談ずるなり。智以て用と為るを照らし了る。故に事に於いて疑惑無きなり。故に孫綽曰く、智能く物を弁ず。故に惑わざるなり、と」(此章、談人性分不同也。智以照了爲用。故於事無疑惑。故孫綽曰、智能辨物。故不惑也)とある。『論語義疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『集注』に「明は以て理をらすに足る、故に惑わず」(明足以燭理、故不惑)とある。『論語集注』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 知者 … 『義疏』では「智者」に作る。
  • 仁者不憂 … 『集解』に引く孔安国の注に「憂患無きなり」(無憂患也)とある。また『義疏』に「憂は、患なり。仁人は常に救済を務めと為し、嘗て物を侵ず。故に物を憂うるの侵患を見ざるなり。孫綽曰く、仁に安んじ其の楽しみを改めざれば、憂い無きなり、と」(憂、患也。仁人常救濟爲務、不嘗侵物。故不憂物之見侵患也。孫綽曰、安於仁不改其樂、無憂也)とある。また『集注』に「理は以て私に勝つに足る、故に憂えず」(理足以勝私、故不憂)とある。
  • 勇者不懼 … 『義疏』に「勇は多力を以て用と為す。故に前敵に怯懼すること無きなり。繆協曰く、義を見て為さざるは、強禦を畏るればなり。故に懼れざるなり、と」(勇以多力爲用。故無怯懼於前敵也。繆協曰、見義而不爲畏強禦。故不懼也)とある。また『集注』に「気は以て道義に配すに足る、故に懼れず。此れ学の序なり」(氣足以配道義、故不懼。此學之序也)とある。
  • 伊藤仁斎『論語古義』に「論に曰く、中庸に曰えり、智仁勇の三者は、天下の達徳なり、と。見る可し、此を外にして更に徳を成し材を達す可き者無きことを。故に聖人此の三者を挙げて、学者をして此に由りて之を行わしむ。蓋し知に本づき、仁に全く、勇に決す。まことに学を為すの次第、徳を成すの全体、始終本末尽くせり。先儒専ら大学の篇を以て、古人学を為すの次第にして、論孟之を次ぐと為せる者は誤れり」(論曰、中庸曰、智仁勇三者、天下之達德也。可見外此更無可成德達材者也。故聖人舉此三者、而使學者由此而行之。蓋本於知、全於仁、決於勇。固爲學之次第、成德之全體、始終本末盡矣。先儒專以大學篇、爲古人爲學之次第、而論孟次之者誤矣)とある。『論語古義』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 荻生徂徠『論語徴』に「朱註に以て学の序と為すは、蓋しこれを中庸に本づく。然れども中庸は達徳を言う。此れと同じからず。達徳なる者は徳の衆人に通じて皆之れ有る者を謂う、知者・仁者・勇者を謂うに非ざるなり。或いは此れ知者は先に在り、仁者は次に在るを以て説を為す。是れ仁を安んじ仁を利すに拠りて、而うして仁者は知者にまさることを固執するのみ。殊に知らず徳は各〻性を以て殊なり、知者・仁者も、亦た其の性に随って以て徳を成せるのみなることを。……朱註に、明以て理をらすに足る、と。仁斎曰く、理に達す、と。理学なるかな。夫れ理と言えば則ち更に事有り、人情有り、時勢有り、豈に理の能く尽くす所ならんや。仁者は憂えず、……夫れ仁者は、人にちょうとし民を安んずるの徳有る者なり。故に仁人は民を安んずるを以て心と為す。民を安んずるを以て心と為す者は、天につかうる者なり。天に事うる者は天を楽しむ、故に憂えず」(朱註以爲學之序、蓋本諸中庸。然中庸言達德。與此不同。達德者謂德之通衆人皆有之者、非謂知者仁者勇者也。或以此知者在先仁者在次爲説。是據安仁利仁、而固執仁者優知者耳。殊不知德各以性殊、知者仁者、亦隨其性以成德已。……朱註、明足以燭理。仁齋曰、達理、理學哉。夫言理則更有事、有人情、有時勢、豈理之所能盡乎。仁者不憂、……夫仁者、有長人安民之德者也。故仁人以安民爲心。以安民爲心者、事天者也。事天者樂天、故不憂)とある。『論語徴』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
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