述而第七 19 子曰我非生而知之者章
166(07-19)
子曰、我非生而知之者。好古敏以求之者也。
子曰、我非生而知之者。好古敏以求之者也。
子曰く、我は生まれながらにして之を知る者に非ず。古を好み、敏にして以て之を求めし者なり。
現代語訳
- 先生 ――「わしは生れながら知ってるんじゃない。古いことがすきで、のがさずに勉強したのじゃ。」(魚返善雄『論語新訳』)
- 孔子様がおっしゃるよう、「自分はけっして生れながら学ばずして道理を知っている聖人でも天才でも何でもない。ただ昔の聖人の道を好み、精出してこれを求めただけの話じゃ。」(穂積重遠『新訳論語』)
- 先師がいわれた。――
「私は生れながらにして人倫の道を知っている者ではない。古聖の道を好み、汲々としてその探求をつづけているまでのことだ」(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
- 生而知 … 生まれながらにして道理を理解している。「生而」は「生まれながらにして」と読む慣用句。
- 好古 … 古えの道を愛好する。古代の文化にあこがれる。古えの聖人の道を好む。
- 敏 … 敏感に。こまめに。一生懸命に。
- 敏以 … 「以敏」の倒置形。
- 求 … 探求する。
補説
- 『注疏』に「此の章は人に学を勧むるなり」(此章勸人學也)とある。『論語注疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
- 我非生而知之者 … 『集解』に引く孔安国の注に「此れを言う者は、人に学を勉めしむればなり」(言此者、勉人於學也)とある。『論語集解』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『義疏』に「之を知るは、事理を知るを謂うなり。孔子謙にして以て物に同ず。故に我知る所有るは、生まれながらにして自然に之を知る者に非ざると曰うなり。玉藻に云う、此れ蓋し自ら常教を同じうし、身を以て物に率う者なり、と」(知之、謂知事理也。孔子謙以同物。故曰我有所知、非生而自然知之者也。玉藻云、此蓋自同常教、以身率物者也)とある。『論語義疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『集注』に「生まれながらにして之を知るとは、気質清明、義理昭著にして、学ぶを待たずして知るなり」(生而知之者、氣質清明、義理昭著、不待學而知也)とある。『論語集注』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
- 好古敏以求之者也 … 『義疏』に「我既に生知ならず。而して今知る所の者有るは、政に我好む所の古人の道に由るなり。疾速にして以て之を知るを求むるなり。敏は、疾速なり」(我既不生知。而今有所知者、政由我所好古人之道。疾速以求知之也。敏、疾速也)とある。また『注疏』に「人の己を以て生まれながらにして知りて学ぶ可からずと為すを恐る。故に之に告げて曰く、我は生まれながらにして之を知る者には非ず、但だ古道を愛好し、敏疾に求め学びて之を知るなり、と」(恐人以己爲生知而不可學。故告之曰、我非生而知之者、但愛好古道、敏疾求學而知之也)とある。また『集注』に「敏は、速なり。汲汲たるを謂うなり」(敏、速也。謂汲汲也)とある。汲汲は、休まず努力すること。
- 敏以求之 … 『集解』では「敏而求之」に作る。『義疏』では「敏而以求之」に作る。
- 『集注』に引く尹焞の注に「孔子は生知の聖なるを以て、毎に学を好むと云うは、惟だ人を勉むるのみに非ざるなり。蓋し生まれながらにして知る可き者は、義理のみ。夫の礼楽名物、古今事変の若きは、亦た必ず学ぶを待ちて後、以て其の実を験すること有るなり」(孔子以生知之聖、毎云好學者、非惟勉人也。蓋生而可知者、義理爾。若夫禮樂名物、古今事變、亦必待學而後、有以驗其實也)とある。
- 伊藤仁斎『論語古義』に「蓋し学者に由りて之を見れば、固に生知の聖有り。聖人に由りて之を見れば、本生知の質無し。何となれば道は窮まり無し。故に学も亦た窮まり無し。苟くも窮まり無きの道を尽くさんと欲せば、則ち学問の功に由らざれば、得可からざるなり。此れ夫子の聖と雖も、尚お此に汲汲たる所以なり」(蓋由學者見之、固有生知之聖。由聖人見之、本無生知之質。何者道無窮。故學亦無窮。苟欲盡無窮之道、則不由學問之功、不可得也。此所以雖夫子之聖、尚汲汲乎此也)とある。『論語古義』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
- 荻生徂徠『論語徴』に「朱註に、敏は、速なり。汲汲たるを謂うなり、と。……是れ自ずから一義、汲汲たるを謂うなり。……此の章は当に黽勉を以て義とすべし。孔子は固より聡明睿智、諸を天に稟く、中庸の云う所の如し。然れども先王の道は、学ぶに非ざれば則ち之を知ること能わず。孔子は先王の道を学んで知らざること莫し。是れ群聖に優なる所以なり」(朱註、敏、速也。謂汲汲也。……是自一義、謂汲汲也。……此章當以黽勉爲義。孔子固聰明睿智稟諸天、如中庸所云。然り先王之道、非學則不能知之。孔子學先王之道而莫不知。是所以優群聖也)とある。黽勉は、勉め励むこと。『論語徴』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
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