泛海(王守仁)
泛海
海に泛ぶ
海に泛ぶ
- 〔テキスト〕 『王文成公全書』巻十九、外集一(『四部叢刊 初編集部』所収)、他
- 七言絶句。中・空・風(平声東韻)。
- 泛海 … 海に小舟を浮かべる。
- 王守仁 … 王陽明のこと。1472~1529。明の学者・政治家。字は伯安、号は陽明、諡は文成。余姚(浙江省)の人。弘治十二年(1499)、進士に及第。寧王の乱を平定し、名声を博した。朱子学を批判し、心即理・知行合一・致良知を説き、陽明学を完成させた。『伝習録』『王文成公全書』などがある。ウィキペディア【王陽明】参照。
險夷原不滯胸中
険夷 原より胸中に滞らず
- 険夷 … 地形が険しいことと平らなこと。風浪の危険と海路の平安。逆境と順境の喩え。
- 原 … もとより。元来。最初から。
- 不滞胸中 … 胸の中にこだわるところはない。人生行路の逆境・順境など意に介さない。
何異浮雲過太空
何ぞ異ならん 浮雲の太空を過ぐるに
- 何異 … どうして異なろうか、いや違わない。全く同じである。
- 何 … 「なんぞ~ん(や)」と読み、「どうして~であろうか、いや~ではない」「どうして~しようか、いや~しない」と訳す。反語の意を示す。
- 浮雲 … 空に浮かんで、ただよっている雲。
- 太空 … 大空。
- 過 … 通過する。流れていく。
夜靜海濤三萬里
夜は静かなり 海濤三万里
- 海濤三万里 … 海の波が三万里の彼方まで続いている。その三万里の海上に小舟を浮かべている。「濤」は波。大きな波。「三万里」は渺茫たる海の形容。
月明飛錫下天風
月明 錫を飛ばして天風に下る
- 月明 … 月が照って明るいこと。
- 飛錫 … 錫杖を飛ばす。「錫」は錫杖。僧侶や道士などが用いる杖。頭部に錫の輪がはめてある。昔、梁の僧宝誌と白鶴道人が舒州の潜山に住もうとした。道人は鶴が止まった所に住むことにした。宝誌の錫杖が空中高く飛んで行き、山の麓に立った。宝誌はその場所に住むことにしたという故事を踏まえる。『神僧伝』に「忽ち空中に錫の飛ぶ声を聞く。誌公の錫は遂に山麓に卓つ」(忽聞空中錫飛聲。誌公之錫遂卓於山麓)とある。CBETA 漢文大藏經「神僧傳卷第四」参照。
- 天風 … 空を吹く風。天上より吹く風。
- 下 … 駆け下りる。
余説
『神僧伝』巻四に見える故事の原文は以下の通り。
舒州灊山最寄絕。而山麓尤勝。誌公與白鶴道人皆欲之天監六年二人俱白武帝。帝以二人皆具靈通。俾各以物識其地得者居之。道人云。某以鶴止處為記。誌云。某以卓錫處為記。已而鶴先飛去。至麓將止。忽聞空中錫飛聲。誌公之錫遂卓於山麓。而鶴驚止他所。道人不懌。然以前言不可食。遂各以所識築室焉。(T2064, 50, 970b19-b26)
舒州灊山最寄絕。而山麓尤勝。誌公與白鶴道人皆欲之天監六年二人俱白武帝。帝以二人皆具靈通。俾各以物識其地得者居之。道人云。某以鶴止處為記。誌云。某以卓錫處為記。已而鶴先飛去。至麓將止。忽聞空中錫飛聲。誌公之錫遂卓於山麓。而鶴驚止他所。道人不懌。然以前言不可食。遂各以所識築室焉。(T2064, 50, 970b19-b26)
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