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水鼓子 第一曲(張子容)

水鼓子 第一曲
すい だいいっきょく
ちょうよう
  • 〔テキスト〕 『唐詩選』巻七、『全唐詩』巻二十七・雑曲歌辞、『楽府詩集』巻八十・近代曲辞、『古今詩刪』巻二十二(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、61頁)、『唐詩品彙』巻五十五、他
  • 七言絶句。囘・來・開(平声灰韻)。
  • ウィキソース「全唐詩/卷027」「樂府詩集/080卷」参照。
  • 詩題 … 『全唐詩』『楽府詩集』『唐詩品彙』では、みな無名氏の作とする。『全唐詩』『楽府詩集』では「水鼓子」に作り、「第一曲」の表記はない。
  • 水鼓子 … 楽府題。唐代にがいうんが採録して献上したものといわれている。『箋註唐詩選』に引く『楽苑』に「水鼓子は蓋嘉運が製する所なり。双帯子と蓋羅縫と水鼓子とは皆絶句なり。辺戎行旅の懐を述ぶ」(水鼓子蓋嘉運所製。與雙帶子蓋羅縫水鼓子皆絕句。述邊戎行旅懷)とある。『楽府詩集』巻八十・近代曲辞にはこの一首のみ収録されているので、もともと何曲あったのかわからない。
  • この詩は、戦闘がやみ、辺塞が静かになった情景を詠んだもの。
  • 張子容 … 生没年不詳。盛唐の詩人。襄陽(今の湖北省襄陽市)の人。玄宗の先天二年(713)、進士に及第。楽成県(楽城県ともいう。今の浙江省楽清市)の尉となった。晩年は郷里に隠棲した。孟浩然と親しかった。ウィキソース「唐才子傳/卷1」、ウィキペディア【張子容】参照。
雕弓白羽獵初回
雕弓ちょうきゅう はく りょうしてはじめてかえれば
  • 雕弓 … 美しく彫刻した弓。または美しく彩色した弓。雕は彫と同義。「ほる」「きざむ」「かざる」と読む。『荀子』大略篇に「てん彫弓ちょうきゅう諸侯しょこうとうきゅうたいこくきゅうなるは、れいなり」(天子彫弓、諸侯彤弓、大夫黑弓、禮也)とある。彤弓は、朱塗りの弓。ウィキソース「荀子/大略篇」参照。また『詩経』大雅・こうの詩に「敦弓ちょうきゅうすでかたく、こうすでひとし」(敦弓既堅、四鍭既鈞)とあり、その毛伝に「敦弓は、画弓なり。天子は敦弓」(敦弓、畫弓也。天子敦弓)とある。とんちょうに通ずる。四鍭は、四本の羽矢。ウィキソース「毛詩正義/卷十七」参照。
  • 白羽 … 白い羽をつけた矢。
  • 猟初回 … いましも猟から帰ってきたばかり。
  • 初 … ~したばかり。
  • 回 … 『唐詩選』『唐詩品彙』では「囘」に作る。異体字。
薄夜牛羊復下來
はく ぎゅうよう くだきた
  • 薄夜 … 夕闇。夕暮れ。薄暮に同じ。薄は迫と同義。薄夜は、夜にせまること。徐陵の「春情」(『古詩紀』巻一百十)に「薄夜新節を迎う」(薄夜迎新節)とある。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷110」参照。
  • 牛羊復下来 … 放牧の牛と羊の群れが、丘からりて帰ってくる。『詩経』王風・君子えきの詩に「ゆうべ、ようぎゅうくだきたる」(日之夕矣、羊牛下來)とある。ウィキソース「詩經/君子于役」参照。
夢水河邊靑草合
夢水ぼうすいへん 青草せいそうがっ
  • 夢水河 … 川の名。甘粛省の西北の沙漠にあるというが、はっきりしない。『箋註唐詩選』に引く『寰宇記』に「夢水・黒山は並びに粛州の北、沙漠の中に在り」(夢水黑山竝在肅州北沙漠中)とある。粛州は今の甘粛省。
  • 辺 … ほとり。
  • 青草 … 青い草。
  • 青 … 『全唐詩』『楽府詩集』『唐詩品彙』では「秋」に作る。
  • 草 … 『唐詩選』では「艸」に作る。同義。
  • 合 … 一面に茂り合う。
黑山峰外陣雲開
黒山こくざん峰外ほうがい 陣雲じんうんひら
  • 黒山 … 黒山という山は各地にある。ここでは今の陝西省楡林市の南にある山のことかと思われるが、はっきりしない。『読史方輿紀要』陝西十、楡林鎮、黒山の条に「鎮の南十里に在り。水草甘美なり」(在鎮南十里。水草甘美)とある。ウィキソース「讀史方輿紀要/卷六十一」参照。
  • 峰外 … 峰の彼方。
  • 峰 … 『唐詩選』『全唐詩』『楽府詩集』『古今詩刪』では「峯」に作る。異体字。
  • 陣雲 … 戦場の空にあらわれる不吉な雲。戦雲。『史記』天官書に「陣雲じんうんかきつるがごとし」(陣雲如立垣)とある。ウィキソース「史記/卷027」参照。また高適の「燕歌行」に「さっさん陣雲じんうんし、寒声かんせいいちちょうつたう」(殺氣三時作陣雲、寒聲一夜傳刁斗)とある。刁斗は、銅製の軍用の道具。昼は鍋として食物を煮るために用い、夜はどらとして打ちならして警戒のために用いた。ウィキソース「燕歌行 (高適)」参照。
  • 開 … 散り去る。晴れあがる。
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