古別離(韋荘)
古別離
古別離
古別離
- 〔テキスト〕 『唐詩選』巻七、『全唐詩』巻六百九十五、『浣花集』巻一(『四部叢刊 初編集部』所収)、向迪琮校訂『韋荘集』巻一(人民文学出版社、1958年)、聶安福箋注『韋荘集箋注』巻一(上海古籍出版社、2002年)、趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻三十(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)、『古今詩刪』巻二十二(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、66頁)、『楽府詩集』巻七十二・雑曲歌辞、『唐詩品彙拾遺』巻四、『唐詩別裁集』巻二十、他
- 七言絶句。毿・酣・南(平声覃韻)。
- ウィキソース「全唐詩/卷695」参照。
- 詩題 … 『全唐詩』では「古離別」に作り、「一作多情」とある。『四部叢刊本』『韋荘集』『箋注本』『楽府詩集』『唐詩別裁集』では「古離別」に作る。『万首唐人絶句』では「古離別二首 其一」に作る。
- 古別離 … 楽府題。『楽府詩集』の「雑曲歌辞」に属する。古風な調べにならって、別離の心情を詠んだ詩。
- 韋荘 … 836~910。晩唐の詩人。字は端己。京兆杜陵(陝西省西安市東南)の人。韋応物の子孫。昭宗の乾寧元年(894)、五十九歳で進士に及第し、校書郎に任ぜられた。のちに王建が前蜀を建てたとき、彼に協力し宰相となった。『浣花集』十巻がある。ウィキペディア【韋荘】参照。
晴煙漠漠柳毿毿
晴煙漠漠として 柳毿毿たり
- 晴煙 … 晴れた空にたなびく霞。煙は、霞。もや。
- 煙 … 『唐詩選』『万首唐人絶句』『古今詩刪』では「烟」に作る。異体字。
- 漠漠 … 一面にぼんやりと立ち込めている様子。謝朓の「東田に遊ぶ」(『文選』巻二十二)に「遠樹は曖として仟仟たり、生煙は紛として漠漠たり」(遠樹曖仟仟、生煙紛漠漠)とある。ウィキソース「遊東田」参照。
- 柳 … 『唐詩別裁集』では「栁」に作る。異体字。
- 毿毿 … 毛髪や羽毛が細くふさふさと長いさま。ここでは柳の小枝が糸のように細く長く垂れた形容。孟浩然の「高陽池にて朱二を送る」に「緑岸毿毿として楊柳垂る」(綠岸毿毿楊柳垂)とある。ウィキソース「高陽池送朱二」参照。『四部叢刊本』『韋荘集』では「鬖鬖」に作る。『唐詩別裁集』では「毿」に作る。
不那離情酒半酣
離情を那んともせず 酒半ば酣なり
- 離情 … 別離の思い。別れるときの辛い思い。
- 不那 … どうすることもできない。
- 那 … 『四部叢刊本』では「郍」に作る。異体字。
- 半酣 … 酒の酔いが半ば程であること。ほろ酔い気分。
更把玉鞭雲外指
更に玉鞭を把りて雲外に指せば
- 更 … さらに。さらにまた。
- 玉鞭 … 玉の飾りがついた鞭。
- 玉 … 『四部叢刊本』『韋荘集』『万首唐人絶句』『楽府詩集』『唐詩別裁集』では「馬」に作る。
- 把 … 手に取る。
- 雲外 … 雲の彼方。
- 指 … 指し示す。
斷腸春色在江南
断腸の春色 江南に在り
- 断腸 … 非常に悲しい様子。腸がちぎれるほどの悲痛な思い。
- 腸 … 『楽府詩集』では「膓」に作る。異体字。
- 春色 … 春の景色。春の趣き。謝朓の「徐都曹に和す」(『文選』巻三十)に「宛洛は遨游に佳く、春色は皇州に満つ」(宛洛佳遨游、春色滿皇州)とある。宛洛は、宛邑(南陽)と洛陽との二都。遨游は、気ままに遊び楽しむこと。皇州は、帝都の地。ウィキソース「昭明文選/卷30」参照。
- 断腸春色 … 春景色が作者の悲痛な別離の思いをかきたてる。
- 江南 … 長江中流・下流の南岸地域。今の江蘇省南部・浙江省西北部・安徽省南部・江西省南部などを指す。『中國古今地名大辭典』に「長江以南の総称なり。今は江蘇・安徽・江西の三省を通称して江南と為す」(長江以南之總稱。今通稱江蘇安徽江西三省爲江南)とある。
- 在 … 存在している。
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