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退朝望終南山(李拯)

退朝望終南山
朝(ちょう)より退(しりぞ)きて終(しゅう)南(なん)山(ざん)を望(のぞ)む
李(り)拯(じょう)
  • 七言絶句。鸞・看・安(上平声寒韻)。
  • ウィキソース「全唐詩/卷600」参照。
  • 退朝 … 宮中の朝礼から退出すること。朝は、朝見の儀。臣下が天子の居住する大明(たいめい)宮(きゅう)に参内(さんだい)し、天子の政務に関する伝達事項を聞く朝礼が行われた。
  • 終南山 … 長安の南方にある山。今の陝西省南部、秦嶺山脈の中部あたりを指す。別名南山、中南山、太乙山。ウィキペディア【終南山】参照。『括地志』雍州、万年県の条に「終南山は、一名中南山、一名太一山、一名南山、一名橘山、一名楚山、一名泰山、一名周南山、一名地脯山、雍州万年県の南五十里に在り」(終南山、一名中南山、一名太一山、一名南山、一名橘山、一名楚山、一名泰山、一名周南山、一名地脯山、在雍州萬年縣南五十里)とある。ウィキソース「括地志輯校」参照。また『詩経』秦風・終南に「終南に何か有る、条(じょう)有り梅(ばい)有り」(終南何有、有條有梅)とある。条は、ユズの木。梅は、ユズリハの木。ウィキソース「詩經/終南」参照。また『書経』禹貢篇に「荊(けい)・岐(き)は既に旅(りょ)し、終南・惇物(とんぶつ)より、鳥(ちょう)鼠(そ)に至る」(荊岐既旅、終南惇物、至于鳥鼠)とある。ウィキソース「尚書/禹貢」参照。
  • 望 … 眺める。遠望する。
  • この詩は、宮中の朝礼から退出し、真南に見える終南山を眺めての感慨を詠んだもの。反乱軍に翰林学士として仕えたときの作と思われる。
  • 李拯 … ?~886。晩唐の詩人。隴西(甘粛省隴西県)の人。字(あざな)は昌時。懿(い)宗(そう)の咸通十二年(871)、進士に及第。節度使の幕僚となったが黄巣の乱に遭い、平陽(山西省臨汾市)に避難した。僖宗が都に還ると、召し出されて尚書郎・老功郎中・知制誥となった。その後、朱玫(しゅばい)が反乱を起こしたとき、反乱軍に捕らえられ翰林学士に任ぜられたという。光啓二年(886)、朱玫が攻め滅ぼされたとき、反乱兵に殺された。ウィキペディア【李拯】参照。
紫宸朝罷綴鵷鸞
紫(し)宸(しん) 朝(ちょう)罷(や)んで鵷鸞(えんらん)を綴(つら)ね
  • 紫宸 … 紫宸殿。大明宮(たいめいきゅう)の中にあった天子の御殿。宣政殿より一つ奥にあった。「ししいでん」とも。『唐会要』大明宮の条に「始めて紫宸殿に御し政を聴く」(始御紫宸殿聽政)とある。ウィキソース「唐會要/卷030」参照。また『雍録』漢唐宮殿拠竜首山の条に「含元の北を宣政と為し、宣政の北を紫宸と為す」(含元之北爲宣政、宣政之北爲紫宸)とある。ウィキソース「雍錄/卷03」参照。ウィキペディア【大明宮】参照。
  • 朝罷 … 朝礼が終わって。朝見の儀が終わって。罷は、終わる。『史記』袁盎伝に「絳侯(こうこう)、丞相たり。朝罷み趨(はし)り出づるに、意得(う)ること甚だし」(絳侯爲丞相。朝罷趨出、意得甚)とある。絳侯は、前漢の将軍・宰相、周勃。ウィキソース「史記/卷101」参照。
  • 鵷鸞 … 鵷雛(えんすう)と鸞(らん)。どちらも想像上の鳥の名。鳳凰の一種。整然と行列を作って飛ぶという。ここでは、朝廷における百官の美しい行列に喩える。前漢の司馬相如「子虚の賦」(『文選』巻七)に「其の上には則ち鵷雛(えんすう)孔鸞(こうらん)、騰遠(とうえん)射(や)干(かん)有り」(其上則有鵷雛孔鸞、騰遠射干)とある。孔鸞は、孔雀と鸞(らん)。鸞も想像上の鳥の名で、鳳凰の一種。騰遠は、騰猿(樹間を飛び回る猿)の誤りか。射干は、伝説上の悪獣。狐に似ているという。ウィキソース「昭明文選/卷7」参照。
  • 綴 … 列を連ねる。列を連ねて退出する。
丹鳳樓前駐馬看
丹鳳楼(たんぽうろう)前(ぜん) 馬(うま)を駐(とど)めて看(み)る
  • 丹鳳楼 … 大明宮の南門、丹鳳門のある楼。『雍録』唐東内大明宮の条に「宮の南端の門を丹鳳と名づく」(宮南端門名丹鳳)とある。ウィキソース「雍錄/卷03」参照。
  • 前 … ~の前で。
  • 駐馬看 … 馬をとめて、あたりを眺めた。
唯有終南山色在
唯(た)だ終(しゅう)南(なん)山(さん)色(しょく)の在(あ)る有(あ)り
  • 唯有終南山色在 … (何もかも変わり果てた世の中であるが)ただ終南山の山の景色だけが昔のままである。
  • 山色 … 山の色合い。山の景色。北宋の蘇軾の詩「湖上に飲む、初めは晴れ後(のち)に雨ふる二首」の第二首に「水光(すいこう) 瀲灧(れんえん)として 晴れて方(まさ)に好く、山色 空濛(くうもう)として 雨も亦た奇なり」(水光瀲灧晴方好、山色空濛雨亦奇)とある。水光は、水面の輝き。瀲灧は、小波(さざなみ)が静かにゆれ動いて光りきらめくさま。ウィキソース「飲湖上初晴後雨」参照。
晴明依舊滿長安
晴明(せいめい) 旧(きゅう)に依(よ)って長(ちょう)安(あん)に満(み)つ
  • 晴明 … 空がよく晴れて明るい様子。
  • 依旧 … 昔のままに。昔ながらに。昔と変わりなく。
  • 満長安 … 長安の町中に満ち満ちている。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻七(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
  • 『全唐詩』巻六百(排印本、中華書局、1960年)
  • 趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻三十七(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)
  • 『唐詩品彙』巻五十四([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
  • 『古今詩刪』巻二十二(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、汲古書院)
  • 『唐詩別裁集』巻二十([清]沈徳潜編、乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
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