上皇西巡南京歌二首 其二(李白)
上皇西巡南京歌二首 其二
上皇 南京に西巡するの歌二首 其の二
上皇 南京に西巡するの歌二首 其の二
- 七言絶句。門・屯・坤(平声元韻)。
- ウィキソース「上皇西巡南京歌 (劒閣重關蜀北門)」参照。
- 詩題 … もとは十首連作の第十首。『唐詩品彙』では「四首 其四」に作る。『唐詩解』では「三首 其三」に作る。
- 上皇 …帝位を譲って隠退された君主のこと。玄宗を指す。詳しくは「第一首」参照。
- 南京 … 蜀の成都(今の四川省成都市)のこと。詳しくは「第一首」参照。
- 西巡 … 西方への巡狩(皇帝が諸国を巡回視察すること)。詳しくは「第一首」参照。
- 巡 … 『宋本』『繆本』『蕭本』『郭本』『許本』『唐詩品彙』『唐詩解』『唐宋詩醇』では「廵」に作る。異体字。
- この詩は、安禄山の乱が収まり、玄宗が蜀から長安に還幸されたことを祝って詠んだもの。安旗主編『新版 李白全集編年注釋』(巴蜀書社、2000年)によると、至徳二載(757)、五十七歳の作。
- 李白 … 701~762。盛唐の詩人。字は太白。蜀の隆昌県青蓮郷(四川省江油市青蓮鎮)の人。青蓮居士と号した。科挙を受験せず、各地を遊歴。天宝元年(742)、玄宗に召されて翰林供奉(天子側近の文学侍従)となった。しかし、玄宗の側近で宦官の高力士らに憎まれて都を追われ、再び放浪の生活を送った。杜甫と並び称される大詩人で「詩仙」と仰がれた。『李太白集』がある。ウィキペディア【李白】参照。
劒閣重關蜀北門
剣閣の重関 蜀の北門
- 剣閣 … 今の四川省剣閣県の東北、大剣山と小剣山の間の二つの山の要害。閣道(桟道)が架けられていることから。『水経注』漾水の注に「西、大剣を去ること三十里。連山絶険にして、飛閣通衢す。故に之を剣閣と謂うなり」(西去大劒三十里。連山絶險、飛閣通衢。故謂之劒閣也)とある。ウィキソース「水經注/20」参照。
- 重関 … 幾重にも重なった関所。
- 蜀北門 … 蜀の北門をなしている。蜀の北門とでも言うべきところ。張載「剣閣の銘」(『文選』巻五十六)に「巌巌たる梁山、積石は峨峨たり。……惟れ蜀の門、固めを作し鎮めを作す。是を剣閣と曰い、壁立千仞なり。地の険しさを窮め、路の峻しさを極む。……一人戟を荷えば、万夫も趑趄す。形勝の地、親に匪ざれば居らしむる勿かれ」(巖巖梁山、積石峨峨。……惟蜀之門、作固作鎭。是曰劍閣、壁立千仞。窮地之險、極路之峻。……一人荷戟、萬夫趑趄。形勝之地、匪親勿居)とある。趑趄は、支えて止まること。突破できないこと。ウィキソース「劍閣銘」参照。
上皇歸馬若雲屯
上皇の帰馬 雲の若く屯す
少帝長安開紫極
少帝 長安に紫極を開き
- 少帝 … 若い天子。粛宗皇帝を指す。玄宗の第三子、李亨(711~762)は、至徳元載(756)七月、霊武(今の寧夏回族自治区霊武市)で即位したとき、すでに四十六歳、玄宗は七十二歳であった。ウィキペディア【粛宗 (唐)】参照。
- 紫極 … 天子のいる所。帝座。朝廷を指す。潘岳の「征西の賦」(『文選』巻十)に「紫極の閑敞なるを厭い、微行し以て遊盤するを甘しとす」(厭紫極之閑敞、甘微行以遊盤)とあり、李善の注に「紫極は、星の名なり。王は宮を為り以て之に象る。曹植の上表に曰く、情は皇居に注ぎ、心は紫極に在り」(紫極、星名。王者爲宮以象之。曹植上表曰、情注于皇居、心在乎紫極)とある。ウィキソース「昭明文選/卷10」参照。
雙懸日月照乾坤
日月を双べ懸けて乾坤を照らす
- 双懸日月 … 太陽と月が空に並び懸かる。粛宗を日に、玄宗を月になぞらえている。『易経』離卦の彖伝に「離は、麗くなり。日月は天に麗き、百穀草木は土に麗く。重明にして以て正に麗きて、乃ち天下を化成す」(離、麗也。日月麗乎天、百穀草木麗乎土。重明以麗乎正、乃化成天下)とある。ウィキソース「周易/離」参照。
- 雙 … 『唐詩品彙』では「重」に作る。
- 乾坤 … 天と地。この世界を指す。『易経』説卦伝に「乾を天と為し、圜と為し、君と為し、父と為し、玉と為し、金と為し、寒と為し、氷と為し、大赤と為し、良馬と為し、老馬と為し、瘠馬と為し、駁馬と為し、木果と為す。坤を地と為し、母と為し、布と為し、釜と為し、吝嗇と為し、均と為し、子母牛と為し、大輿と為し、文と為し、衆と為し、柄と為し、其の地に於けるや黒と為す」(乾爲天、爲圜、爲君、爲父、爲玉、爲金、爲寒、爲冰、爲大赤、爲良馬、爲老馬、爲瘠馬、爲駁馬、爲木果。坤爲地、爲母、爲布、爲釜、爲吝嗇、爲均、爲子母牛、爲大輿、爲文、爲衆、爲柄、其於地也爲黑)とある。ウィキソース「易傳/說卦」参照。
テキスト
- 『箋註唐詩選』巻七(『漢文大系 第二巻』冨山房、1910年)
- 『全唐詩』巻一百六十七(揚州詩局本縮印、上海古籍出版社、1985年)
- 『李太白文集』巻七(静嘉堂文庫蔵宋刊本影印、平岡武夫編『李白の作品』所収、略称:宋本)
- 『李太白文集』巻七(繆曰芑重刊、雙泉草堂本、略称:繆本)
- 『分類補註李太白詩』巻八(蕭士贇補注、内閣文庫蔵、略称:蕭本)
- 『分類補註李太白詩』巻八(蕭士贇補注、郭雲鵬校刻、『四部叢刊 初篇集部』所収、略称:郭本)
- 『分類補註李太白詩』巻八(蕭士贇補注、許自昌校刻、『和刻本漢詩集成 唐詩2』所収、略称:許本)
- 『李翰林集』巻十七(景宋咸淳本、劉世珩刊、江蘇広陵古籍刻印社、略称:劉本)
- 『李太白全集』巻八(王琦編注、『四部備要 集部』所収、略称:王本)
- 『万首唐人絶句』七言・巻二(明嘉靖刊本影印、文学古籍刊行社、1955年)
- 趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻十三(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)
- 『唐詩品彙』巻四十七(汪宗尼本影印、上海古籍出版社、1981年)
- 『唐詩別裁集』巻二十(乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
- 『古今詩刪』巻二十一(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、54頁)
- 『唐詩解』巻二十五(清順治十六年刊、内閣文庫蔵)
- 『唐宋詩醇』巻五(乾隆二十五年重刊、紫陽書院、内閣文庫蔵)
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